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第43話 吉宗主催婚活パーティー

紀州家旧江戸屋敷――

晴天の下、紅白の幕に囲まれた広間では、元・大奥の面々と選ばれし縁談候補たちが、緊張の面持ちで座していた。


「では、これより……第一回お見合い会、開幕でございます!」


進行役の滝川の声が響くと、どよめきが起きた。


「……ほんとに始まっちゃったわ」

「どうしよう、手が震える……!」


緊張とざわめきが入り混じる中、ふいに一人の浪人風の男が、裏手からするりと現れた。


「……ん? 誰だ?」


「失礼、ひと言だけよろしいかな」


滝川がぎょっと目をむく。


「そ、そのお声は……!」


「しっ、しっ、ばれてはならん。今日は“吉川徳宗”で通しておる」


ざわざわと波紋が広がる中、吉宗は前へ進み出て、広間の中央でくるりと向きを変えた。


「本日は、お集まりいただき感謝申す。そなたらにご紹介いたしたいのは――大奥で幾年も務め上げ、気品・礼儀・教養・働きぶり、いずれも折り紙付きの女子たちである」


元・大奥の女子たちがどよめく。


「料理が得意な者、裁縫に長けた者、和歌を嗜む者、算術に通じた者まで。そなたらの家を、必ずや明るく支えてくれること請け合いじゃ!」


「なるほど……噂に違わぬ、気品と所作だ」

「正直、緊張してたが……こりゃあ、下手な気持ちじゃ失礼ってもんだな」

「……覚悟を決めて臨むしかあるまい」



「上様!何をしておいでです!」


 部屋から出る吉宗を追いかけた滝川、声をひそめながらも、顔は真っ青である。


「いや、すまぬ。……最後まで見届けねばと思ってな」


「まったく……心臓に悪うございます。お見合いの場に将軍自ら現れるなど、聞いたこともございません!」


「ふむ、だが余がすすめた縁談じゃ。最後まで面倒を見るのは当然ではないか?」


「はぁ……噂には聞いておりました。“突拍子もない御方”と……まさかこれほどとは……」


 滝川が肩を落とすのを見て、吉宗は苦笑を浮かべながらひとつうなずいた。


「まあ、よいではないか。おかげで雰囲気も和んだようだしな」


「和ませるために将軍自らが飛び入りとは……まさに前代未聞にございます……」



先ほどまでの緊張が少しずつほぐれ、若い男女のあいだに、控えめながらも会話と笑みが広がっていく。


「こ、こんにちは。あの……お名前を伺っても?」


「お初と申します。元は……御中臈でございました」


「あ、ああ……なんと、お美しい。わ、私は京橋の薬種問屋、長崎屋の次男坊でして……」


思わず言葉を噛む若旦那に、お初はくすりと微笑む。


「緊張されてますね。私も、少しだけ」


「い、いや……こういう場は初めてでして。でも、まさか幕府のお墨付きだなんて……びっくりです」


一方、隅の席では、すこし年上の女性たちと、後添えを希望する武家の主たちが、穏やかに話を弾ませていた。


「妹が昔、大奥におりましたゆえ、奥勤めの方の気質はよう存じております」


「まあ……。それを聞いて安心いたしました」


やわらかい灯りが揺れるなか、酒はなく、出されるのは香ばしい煎茶と季節の和菓子。華美ではなく、慎ましく、それでいて丁寧な設えが、この場の誠実さを物語っていた。


時折、控えていた奉公人が静かに席を替えるよう促し、いくつかの縁が、少しずつ結ばれていく。


廊下の向こう、吉宗はその様子をそっと見守っていた。


「……悪くないのう」


その目には、どこか安堵と、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。

思いのほか長くなってしまいましたが――

これにて「大奥改革編」、いったん終了です!


面白かった!と思ってくださった方は、ぜひブクマ・評価・感想をお願いします✨

読んでくださって、ありがとうございました!

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