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第33話 お庭番って忍者じゃないの⁉︎

江戸城・中奥の一室。

窓越しに江戸の町を見やりながら、吉宗は静かに言葉を漏らした。


「……城に籠もっていては、世の中の動きがわからぬな」


近くに控えていた久通が小さく頷く。


「御城内の報告だけでは、町の空気までは伝わりませぬ。ましてや、大名たちの腹の内となれば……」


吉宗は唸るように息をついた。


「わしの目と耳となる者が必要だ。世間を見渡し、異変を探り、忠実に報告してくれる者が」


ふと、懐かしげな眼差しを浮かべる。


「……そうだ、紀州にはおったな。密かに隠密御用を任せていた者たちが」


その言葉を口にした瞬間、脳裏に浮かんだのは、若かりし日の自分の姿だった。



あれはまだ、紀州藩主として日が浅かった頃のこと。

「隠密御用」という言葉に胸をときめかせた吉宗は、好奇心からその者たちに会ってみたくなり、城に呼び寄せた。


「殿、こちらが町方の見回りを密かに続けていた者たちにございます」


現れたのは、見るからに地味な身なりの中年武士たち。

よく見れば、町人と見分けがつかぬほどの姿をしている。


(え……これが“隠密”?)

(もっとこう、黒装束で顔に布巻いて、手裏剣投げたり、煙玉投げて消えたり――)


期待していた“忍者像”とはあまりにかけ離れていたため、思わず口が半開きになった。


(全然、忍者じゃないじゃない……!)

(テレビに騙されたー!)


拍子抜けしたものの、後日あがってきた報告には商家の裏取引、寺社の不正会計、さらには藩士の素行まで――事細かに記されていた。


「……見た目は地味だけど、やることはすごいのね……」


当時そう呟いた自分を思い出し、今の吉宗は思わず口元を緩めた。



「まさか……あの者たちを、江戸へ?」


久通が目を見開いた。


「うむ。紀州で鍛えられた腕利きの者どもだ。名は明かさずとも、忠義と才覚は折り紙付き。江戸でも必ず役に立つ」


「では、御目付け役に――」


「いや、表立った役にはせぬ。裏から支える役だ。“お庭番”という名を与えよう」


吉宗は机に向かい、筆を取る。


「……お庭番? 上様、“お庭番”とは、どういう意味でございますか」


「その名の通りだ。将軍家の庭先に控え、目立たぬように動き、万が一に備える。――その実、将軍の命を受け、密かに動く隠密よ」


「なるほど……表では風を読み、裏では人の動きを読む。まさに陰の支えというわけですね」


「そうだ。庭先に仕えながら、幕府全体の風向きを察する者――それが“お庭番”だ」


「ふふ……頼もしい限りにございます。では、早速、呼び寄せの手配を」


「うむ、任せた」


筆を走らせながら、吉宗は小さく笑った。


(今までになかった役職だもの、ちょっとくらい忍者っぽくしても問題ないわよね)

(でも……目立っちゃうか。ほんとうに恐ろしいのは、静かに見抜く“目”と“耳”なのよね)


「ふふ……まさか隠密の再登板を考える日が来ようとはな。だが、これも改革の一歩よ」


某時代劇の影響で、「お庭番=忍者」だと思っていた筆者。

黒装束で屋根を飛び、手裏剣や煙玉……そんな姿を想像していたのですが、実際は地味な町人風のおじさん(?)たちだったようで。ちょっとがっかり、でも逆にリアルで渋い!


今回のお話では、そんなギャップに戸惑う吉宗と、真面目に任務をこなすお庭番たちの様子を描いてみました。

お庭番の命名については諸説ありますが、吉宗が創設したのは事実。江戸の町を「視る目」として活躍した彼らの存在は、まさに陰の改革支援隊だったのではと思います。


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