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蒼き侍

初めての戦闘描写ですが頑張りました。

 魔物は大きく3つに分類されている。翼竜型のスヴェイル、獣型のドロヴァ、そして人型のアルグス。アルグスの観測事例はそれほど多くないが、出現した際の被害は他の二種とは比べられない。対アルグス戦で人類が勝利したのはたった1回だけだ。


「りんちゃん、現状の情報を」

 

 正人はいたずら好きの目をして凛花を見る。凛花は呆れた表情を浮かべ正人を無視する。


「敵は旧昭島方面から二個小隊が接近中。内訳はドロヴァが多めですが、スヴェイルが数体混じっているようです。今回は壁外へ出て先制攻撃で攻めるべきかと思います」


 淡々と言葉を続ける凛花はクール見た目通り、無駄なく状況を伝えた。

 

「ありがとう。という訳で、壁外エレベーターで降りようか」

 

 正人はエレベーター乗り込み淡々と指示を出していく。


「蒼夜はアタッカーとして前線でいつも通りやってくれていいぞ。來にサポートさせるから」

「承知いたしました」

「蒼夜、後ろは任せてね!」

「はい」

「陸と陽斗は蒼夜の左右を固めてやれ、他のメンバーは前衛が討ち漏らしたやつらを片付けるぞ」

「了解!」


 小隊メンバーはリラックスした様子で返事をする。リラックスしているようで恐らく集中しているのだろう。

 エレベーターが地上に到着した。小隊はエレベーターを降り、徒歩で移動を開始する。敵の気配が濃くなっていく。重量の思いドロヴァ特有の足音が聞こえてくる。

 荒廃した町の影に隠れ蒼夜達は様子を見る。敵の一団はどうやら斥候のようだ。比較的軽装で兵装に特殊なものは無いようだ。それだけ分かればいい。蒼夜はほとんど使わない20式小銃を地面に置き、腰に下げていた35式特殊軍刀を鞘から静かに抜く。紫石を含めた鋼で鍛えた刀から黒いオーラが流れ出る。


「蒼夜、お前のタイミングで突撃していいぞ」

「……いいんですか?」

「ああ、まだ小隊の戦術に合わせるのは難しいだろ」


 こんな指示を聞いたことがない蒼夜は思わず正人を見返してしまった。正人はお得意のニカッとした笑顔で答える。

 蒼夜は静かに息を吸う。久しぶりの実戦だ。だが戦いの空気を忘れた訳じゃない。ましては魔物への憎しみを忘れた訳でもない。俺はまだ戦える。


「いきなり白兵戦になっていいのですか?」


 陸は思わず正人に聞いてしまう。本来小銃など遠距離武器で可能な限り敵を牽制し、隙を見て白兵戦で仕留める。これが東京防衛軍の基本戦闘方針だ。ただし、小銃を効果的に使うには魔物が纏う魔力の障壁の隙間を狙いダメージを負わせる必要がある。


「問題ないだろ。蒼夜はあの川越基地陥落時、中隊で唯一生き残った猛者だからな」

「それはそうかもしれませんが……」

「それに人類で唯一アルグスに単騎挑み生き残った奴だからな」

「はああああ⁉」


 陸と陽斗は驚き顔を見合わせる。

 蒼夜はゆっくりとドロヴァの方へ歩いていく。左右に展開していた小隊の後衛は20式小銃を構え各々がドロヴァに照準を合わせる。巨大な獣のような敵は鎧と大剣で武装しドス黒い魔力を身に纏っている。

 ドロヴァの一体がこちらの気配に気づき、獣のような咆哮をあげる。その声が合図となったように、他の個体も一斉に動き出した。

 その直後――。

 蒼夜の姿が消えた。

 残像だけを残して一気に距離を詰めた蒼夜は、最前列のドロヴァに向かって飛び込む。ドロヴァが反応するより先に、黒い閃光がその首筋を横薙ぎに走る。鈍い音を立て、ドロヴァの首が地面に転がった。


 「一体撃破!」


 凛花が即座に情報を確認し、報告する。

 蒼夜は止まらない。軍刀に纏う黒いオーラを爆発させ、二体目、三体目と連続で斬り伏せる。異常な速度、的確すぎる急所攻撃、そして一切の無駄を排した刃の軌道。


 「なんだよあいつ、マジで人間か……」


 陽斗がぽつりと呟いた。隣で陸も、ただ蒼夜の動きに見入っていた。

 しかし、敵の数は多い。蒼夜が敵を引きつけている間にも、後衛を狙って別のドロヴァが回り込もうとしていた。


 「後衛隊!一斉射撃!」


 正人の号令に、即座に反応し後衛は20式小銃のトリガーを引く。八か所から閃光が発生しドロヴァの群れに襲い掛かる。運よく障壁の隙間を突いた弾丸は確実にドロヴァにダメージを与えている。だが致命傷には至らない。20体ほどの魔物が後衛に襲い掛かる。

 正人はすでに行動を起こしていた。中腰になり、軍刀に手をかける。

 一呼吸。

 一閃。

 ドロヴァ3体の胴体が裂けた。

 抜刀と斬撃。たった2つの動作で敵を3体撃破した。続いて來以外の後衛部隊が抜刀し白兵戦に持ち込む。

 身長2メートルに届くドロヴァ相手に少年少女たちは引くことなく戦う。


「美月!そっち2体いった!」

「了解よ。一馬フォロー頼むわ!」


 美月と一馬は背中合わせになり軍刀をドロヴァに向ける。同時に二人が低姿勢になり下からドロヴァを斬り上げる。

 二人の後ろでほのかが静かに紫石に魔力を込める。栗色の髪が揺れ緋色のオーラが流れ出る。

 敵の足元に現れた緋色の紋様、集まるエネルギーに呼応して地面が揺れ動く。

 

「簡易式・緋焔ノひえんのかなで!」


 ほのかの術が爆発する。ドロヴァが飛散し跡形もなく消え去った。

 楓と志信は堅実に敵の攻撃を捌いている。來はその後継を廃ビルの屋上からスコープ越しい観察する。


「こちら來。楓と志信、敵に隙を作れるかい。一体ずつ撃ち抜く」


 右耳に着けた無線越しに聞こえた來からの指示を聞き二人は頷きあう。

 二人は一斉に引き、すぐさま敵の合間を斬り進む。致命傷を与えられていないが、敵の魔力障壁を崩すのに十分だった。


「見事だふたりとも」


 來は特殊魔装弾頭を込めたスナイパーライフルの引き金を引く。

 一発目、頭部に命中。二発目を装填。再度命中。

 ドロヴァは突然の狙撃に驚き、動きを止めた。楓と志信そして美月と一馬が合流し残りのドロヴァを斬り裂いていく。

 正人は周りを眺めて後衛の無事を確認した。凛花に目を向けて状況を確認する。


「りんちゃん状況は」

「だから如月三曹とお呼びくださいと……、はぁいいです。敵小隊はほぼ壊滅。スヴェイルは上空に待機しているようです」

「待機?情報を他部隊に共有しているということか……?」


 この戦争が開戦したときより敵は巧妙になっている。航空戦力としてより情報収集して敵本拠地に持ち帰り攻めところやタイミングを見ているのかもしれない。

 疑惑を残したまま正人は前衛を見る。

 陸と陽斗は蒼夜の横を固めており蒼夜が四方を囲まれることがない。

 だが、その必要がないように思えるほどの剣劇を蒼夜は見せている。

 同時に二体のドロヴァが剣を振り下ろしてきた。しかし蒼夜は剣を振り下ろすよりも早く跳躍。体を回転させすれ違いざまに斬撃をあてる。2つの頭が飛んだ。

 これで最後だった。残ったのは上空のスヴェイル二体だったが、それも引き返す。


「状況終了。敵勢力は排除されました」


 凛花は小隊に向けて言う。


「みんなお疲れ様!よし帰ろうか!」


 第17特殊近接小隊は軍刀を鞘に納め、アークウォールに向けて歩き出した。

 蒼夜は小隊を振り返り自分が討ち漏らした敵に目を向ける。軽装とは言え数的に言えば二倍の兵力をほぼ無傷で殲滅したこの小隊はやはり強かった。


 スヴェイルの行動は今までみたことなかった。正人は今後戦局が動くことを確信していた。だが幸い蒼夜がこの部隊に来た。今日の戦闘で確信した、してしまった。アルグスから唯一生き残った蒼き侍に未来を託したい。

 蒼夜を見る、まだ小柄で心はすり減っているだろう。それでもこの部隊で助け合ってほしい。生き抜いて欲しい。そう願っている。

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