機械獣現る②
「前田ボコボコ祭り凄かったな」
「くそ、前田の父親ジン隊長の進行を止めやがって」
誰も前田傑の心配をしていなかった。神谷達は眼中に無いのだろう。神谷はなぜあの男が【調査隊・渋谷部】に入っているのだろうか?と?が沢山浮かぶ。
「ジン隊長1人で文京区辺りを奪還出来たらしいぞ」
「マジで、そりゃあ他のメンツいらないわな」
「確かに。ジンさん1人でいい気がしてきた」
それは無理はあるが確かに文京区奪還作戦ではジンが1人でやったも同然だった。他のメンツは雑魚ばかりでジンはボスクラスの機械獣を五体討伐したのだ。文京区の周りには機械獣がいなくなった。お陰で文京区は文京壁囲地区に早変わりするだろう。今工事中で完成が楽しみである。
「東京と言っても今まだ渋谷と新宿、江東、目黒、足立、千代田、港ぐらいだもんな」
「充分じゃねぇか、文京が追加されるんだから」
「考え方貧乏過ぎ」
橘に突っ込まれる。神谷はそうか?と首を傾げ広い渋谷を見渡した。これでも広いくらいなのだから焦らず行けばいいだろうと楽観的な考えだ。だが、外の世界を知りたい。だから兵士になろうと思っている。領地拡大はしたい。たとえ貧乏的な考えでもだ。
「よぉ、お前らの椅子快適だぜ」
「奈須おじさん」
奈須啓二。兵士。【調査隊】とは違うただの兵士だ。小さい頃からお世話になっている人だ。近所のおじさんって感じで飲んだくれ連中とは違い接し安い。
「ゲーミングチェアも作ってくれよ」
「それは無理かもな」
「いや、行けるかも」
橘が即答する。
「マジで!?」
奈須は超がつく程のゲーマーでそろそろ腰がいてぇと嘆いていた。橘が自信満々に作れる宣言していたのでこいつマジかと神谷は思った。
「絵馬、挑戦的な態度は良いが現実を見ろよゲーミングチェアなんて夢のまた夢だぜ?」
「私達も作れば売れる」
奈須は笑う。そうか頑張れよ、と絵馬の髪の毛を丁寧にポンと撫でた。
「しかし、500年もこの壁と睨めっこしているのか」
「ん?」
「いやぁ、ただの税金泥棒だなと思ってよ」
「そんな事ねぇよ、立派だよ」
「そうか、かみやん」
奈須は酒を飲みながら渋谷を囲う壁を見つめる。壁メンテナンスも立派な仕事だと神谷に褒められた。確かに500年も仮初の平和を築いている。この【神の壁】には感謝しないといけない。こうして飲んだくれ兵士が誕生するのだから。奈須はそう思った。壁と己の差は嗤うしかない程はっきりしている。
「だが、やる時はやる。ここに来ることはねぇと思うがな。俺ら兵士もやる時はやるさ」
子供に慰められるなんて情けないと思ったがこれはこれでやる気の源になったような気がした。
「俺も奈須おじさんの隣で仕事してぇ」
「おっ、俺の仕事場はちと厳しいぞ」
「うげ〜」
神谷は兵士希望だったかと奈須は思った。【調査隊】に入りたいと願っているみたいだが現実的には兵士が落ち着くだろうと神谷は思っている。機械獣をボコボコにしてやりたい。彼はそう思った。
「ダメに決まってるでしょう!」
「は?なんでだよっ!まだ反対してるのかっ!」
母親の神谷涼子は鬼になったような形相で神谷の肩に触れ力を入れる。少し痛かった。
「父親みたいになるよ!昴みたいになるよっ!多くの死者出してる兵士には行かせませんっ!」
「また始まったよ」
昼休み。そろそろ兵士が良いと言ったところから始まった。恒例になりつつある。橘はあららと見ていた。
父親・神谷昴は兵士で死亡している。機械獣に殺られたのだ。神谷にとって父親は憧れの的であった。
「俺はもっと強くなる!」
「昴は弱かったというのっ!?母親と同じ【研究者】になりなさい!」
「そうじゃねぇよっ!」
「そこまで言ってない…」
橘もフォローに入る。ヒートアップしていた。こりゃ長くなるなと柊は思った。
【研究者】母親はダブルワークをしている。【研究者】が本職だ。母親の神谷工房は代々伝わる老舗なので閉じるわけにはいかない。なので【研究者】と椅子職人を両立している訳だ。【研究者】というのは機械獣を生け捕りにして隅々まで研究する者の事。様々な功績をあげている。肉不足も機械獣で解決出来たのだ。ホログラムなのに肉がリアルで食用にもなる。その謎は未だに解明してないがそれも研究している。