表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/47

第47話 ちちくらない真実の愛


 抱き寄せられて香るムスクに胸がじんわり温かくなります。

 ドリス様は私の首元に顔を埋めました。


「どうかしましたか?」

「嬉しかったんだ、ニナが僕を信じてくれて」

「ん?」

「ダノーギに、そんなこと絶対言わないと断言してくれたことだよ」


 確かに言いましたね。だってドリス様が言うわけないもの、人の努力や願いを時間の無駄だなんて。ドリス様は誰かの願いや努力を尊重し、それらを結び付けてきた人です。結婚相談だってその一環で。


「なるほど。でもそんなの別に当たり前のことではないですか」

「当たり前じゃないんだ」

「ドリス様……?」


 私を抱く彼の腕がさらに強くなりました。

 なんとなく回した手で上下に彼の背を撫でます。


「当たり前じゃない。でもたったひとり、信じてほしい人が信じてくれるなら、誰が何を言おうともう構わないって思えたから」

「はい。信じます。ふふ、一度はあなたの言葉を疑った時期がありますけど、それは不安だっただけで……。これからはもう大丈夫」

「好きだって言葉だね。あれを信じてもらえないのは結構堪えるよ」

「はい、ごめんなさい」


 肩から顔をあげたドリス様は少し身体を離して私の頬を両手で摘まんでしまいました。引っ張らないでよぉ。


「もう二度と疑わないで」

「ほへんなはいっへは」


 ぷるぷるっと首を横に振ると、彼の手は簡単に外れました。変な顔を見られるのだって恥ずかしいのに、なんてことをしてくれるのかしら、この人は。


「よし、結婚しよう。すぐ結婚しよう。そうすればもっと守りやすいから」

「準備終わってからって話でしたよね?」

「衣装はもうすぐできると連絡を受けているし、あ、もうふたりだけで式を挙げよう。別に誰も呼ばなくても――」

「んもう、無理言わないでください。招待状はもう出してしまってるんですから」


 いつになく前のめりなドリス様に、もう笑うしかありません。

 普段ならもっと冷静で用意周到な人だというのに。まぁこの姿もまた可愛くて、愛おしくてたまらないのですけど。


「それじゃあ、旅にでも出ようか」

「たび?」

「うん。国内を少しと、ヤクサナやシカードの景勝地をめぐる旅。今なら列車もあるし、ざっと数ヶ月もあれば十分楽しめるはずだ」

「わぁ……すごく楽しそう!」


 私は王都とボガート領の他、お友達の領地くらいしか世界を知りません。ヤクサナでの体験は驚きの連続で忘れられない思い出だし、近隣国といえど名所を巡る旅というのは心惹かれるものがあります。

 ドリス様は優しい表情で私の後れ毛をくるくると指で弄び始めました。


「戻って来る頃には、新居になるアプシル領の屋敷の改装も終わってるだろうしね。王都にいるより安全だ」

「あ、すぐ出発する感じです? でもこれから本格的な社交期ですよ?」

「僕らには社交なんていらないから」

「それはそうですけど」


 私たちは陛下の影であって、社交によって得るものはそう大きくないのです。ただ、ドリス様がいないとみんなは困るでしょうね。

 ……うん、なんだか私も旅に出るほうがいい気がしてきました。だってドリス様を独り占めできますから!


「それに、旅慣れておくのは僕らの仕事にとっても大事なことだ」

「ん、その言い方はずるいです、けど。理解はできます」

「なら決まりだ。早速、列車の手配をしよう。まずは国内をぐるっと回って……」

「さすが、行動が早いですね」

「そんなことはない。僕はいま、理性を総動員させて我慢しているんだからね」

「我慢?」


 後れ毛をいじっていた彼の指が私の顎へと移動しました。ゆっくりと持ち上げられて見上げたドリス様の頬は紅潮していて。まっすぐ見つめるエメラルドの瞳は熱をはらんでいます。


「キスしても?」

「あ……」


 はい、と答えるのが恥ずかしくて、なんて言っていいのかわからないまま薄く開いた唇に、彼のそれが重なりました。

 今までだって何度もキスは交わしてきたのに。朝日に照らされているからでしょうか、それとも小鳥が頭上でさえずっているからでしょうか、なんだかとっても恥ずかしくて。だけど離れがたくて。


 角度と深さを変えながら三度キスした頃、どこからか人の足音が聞こえてきました。


「ん、ドリス様。誰か来るみたい」

「こっちまでは来ないさ」

「だめ、です! 私たちまで外でちちくりあう変態になるおつもりですかっ!」

「ちちく――あはははは! そうだったね、ふ、あははは」


 すっごい笑うじゃないですか……。

 お腹をおさえ、目に涙を浮かべながら笑うドリス様に、私もつられて笑ってしまいました。


「それじゃあ、陛下に報告してさっさと出発しよう」

「早っ」

「すぐに出ないと、あのオッサンは仕事を押し付けようとするからね」

「まぁ! 不敬の極致ですわ」


 彼に手を引かれ、私たちは城内へと戻ります。


 キェル様から真実の愛をみつけたのだと報告を受けてから、まだ一年もたっていません。なのに私にはそれがずっと昔のことのような気がするのです。

 ドリス様と出会って、ヤクサナへ出掛けて、いろんな人と交流を持って。自分が魔術師だと知って、たくさんの真実を暴いて。


 そしてついに、私も真実の愛をみつけたのです。





おわりです。

思い付きと勢いだけで書き始めた物語でした。

途中、冗長なところや言葉の足りないところがあったことと思います。

でもさいごまでお付き合いいただいてありがとうございました。

行き当たりばったりでも投げ出さずにいられたのは

思ってたよりずっとたくさんの方が読んでくださったからです。

感謝申し上げます。


さて、今後についてですが

コミカライズ連載中の「聖女様をお探しでしたら~(https://ncode.syosetu.com/n4633iy/)」の

なろうでの連載を再開する予定です。

再開日は11月8日(金)、1話ずつ毎日更新します。

よろしければこちらもお読みいただけますと幸いです。

ではでは!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! 実家のような安心感( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ