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私に内緒は通じません。~婚約破棄された令嬢はその夜、難攻不落の伯爵様と運命的な出会いをする~  作者: 伊賀海栗


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第38話 必ず取り戻さなければ


 それを知ったのは、本当に偶然のことだった。

 ノヒト殿下が突然わがままを言いだしたのだ。ニナに会いたい、と。到底承服しかねる要望ではあったが、僕自身もそろそろ疲労が限界で彼女の笑顔に癒されたいと考えていたところだった。

 だから僕らは先触れを追い越す勢いで、ほんの少しの空き時間にボガート家へ向かったのだけど。


「あれ……? バートンパークでお待ち合わせだったのでは? お迎えにいらっしゃるのでしたら、そう言ってくださらないと」

「なんの話だ?」


 応対にエントランスまで降りて来た侍女のローザは、唇を尖らせて我々を非難する。しかしどうにも話が噛み合わず、詳しく話を聞くことにした。


「ええっと……白い鳩の伝令鳥が来て、おふたりとも急遽ヤクサナへ発つので、その前にバートンパークで少し会えないかと」

「俺の名前で?」

「はい。ノヒト殿下からだ、とお嬢様はおっしゃってました」

「いつ出て行ったのかな?」

「ほんの少し前ですわ。そろそろ公園に着く頃ではないでしょうか」


 彼女の言葉が終わるより先に、僕もノヒト殿下も走り出していた。

 殿下が護衛に「白い鳩を使役する魔術師」について調べるよう命じるのを聞きながら、僕はボガート家の馬車を借りて乗り込む。ここは別行動が最善だ。


 バートンパークに到着するなり、僕は左手側の広場へ向かった。この公園は貴族やインテリ層が多く集まることから、いわゆる情報屋という存在がそこかしこにいるのだ。僕の部下も幾人か放してあり、そのうちのひとりに話を聞くことに。


「ニナ嬢ですか? あー、飯を食おうと思って公園を出るときに見かけたかな。ちょうど馬車を降りるところで……最近の子は公園に来るのに介添人(シャペロン)をつけないんだから、冷や冷やしますね。どうせここで友達に会うんだからって主張だそうだけど、これも時代ですかねぇ」

「今後は絶対に介添人を付けさせることに決めたよ」


 男と別れ、また違う部下を捜す。

 バートンパークでは広場にふたりと遊歩道にひとりの部下を置くことにしているが、残りのふたりが有力な情報を持っているといいのだけど。

 広場をぐるりと回って逆側へ。そこには昼間から酒でも飲んでいるかのように頬を赤くさせ、しかめっ面で新聞を睨む部下がいた。


「ニナ嬢……? ああ。ご友人と連れ立って広場に来たようですよ。ちょうどそのとき、今までに類を見ないほど演説が盛り上がってましてね、いや、内容はいつもと同じつまらないものなのにね。だから彼女の姿は見えなかったんですよ。ただニナ嬢の名前を呼ぶ女の声がしていたなと思って。アネ……リーン? と呼ばれていたかな」

「アネリーンだって? では、お前はすぐに王城へ向かいノヒト殿下にアネリーンの名を伝えてくれ」


 そう伝えると彼の表情から酔いが抜け落ち、背筋を伸ばして小さく頷く。そもそも彼は酒など飲んではいない。僕たち影はそういう仕事だというだけだ。

 次いで僕は遊歩道へと向かう。少し古めかしいトップハットを被り、往来を行く若い女性を眺める好色な資産階級男性がそれだ。


「今日おかしなことは?」

「なにも。往来の多さが異常だと思える程度ですね」

「ではこの一時間で起きたことを」

「キェル・マーシャルがアネリーン・ゲールツと喧嘩していた。あれは別れ話でしょうね。どちらも身なりは悪くなかったから、隠し財産があったんだろうなと。あとはどこぞの老いぼれ伯爵が転んだとか、鳥が若い女のドレスに落し物をして騒いでたとか、平和なもんですよ」

「そうか……」

「あ、あともうひとつ。人が攫われましたね。ここじゃ日常茶飯事だから忘れてました。あの大きな麻袋は間違いなく人間が入ってる。しかも女か子どもだ。軽そうでしたからね。ここらの情報屋ならみんな、見れば中身が人間だってわかってたと思いますよ」


 僕の直感が当たりだと言っている。

 麻袋を追えるところまで追いながら随時連絡を寄越すよう命じ、僕もまた何人かの情報屋に当たってみた。足取りが追えそうでありながらも、確定的な情報に出会えないのがもどかしい。


 ダノーギが逃亡して姿をくらました。ヤクサナとシカードの国境では厳重な警戒態勢をとっていて、易々と西へは渡れない。

 同時期にノヒト殿下の名を騙る使役獣がニナを連れ出し、アネリーンが接触していた。アネリーンはダノーギと無関係ではないし、それに彼女は少しばかりの隠し財産があるだけで将来に不安を抱えている。利用するのは容易いだろう。


 ここまでは簡単に線でつながる。行き先も恐らくシカードだろう。

 問題は、シカードに連れ出されてからではニナを取り戻せないことだ。三国の関係は緊迫している。ダノーギとシカードがどこまでの信頼関係を築いているかにもよるが……安易にシカードをつつけば、取り返しのつかないことが起こり得る。

 もちろん潜入して探し出すことはできるが時間がかかる。なんとしても、出国前に彼女を取り戻さなければ。


 これ以上の調査は部下に任せるとして、そろそろ城に戻るかとバートンパークの正門へ。するとちょうど公園の前を王国騎士隊が横切るところだった。

 彼らはヤクサナにも同行した騎士たちで、僕の正体を知る一部の……要するに僕や陛下が水面下で動く際に使う優秀な騎士であり部下だ。

 急いでいる様子ではあるが、遮って話を聞くことに。このタイミングで動き出すなら、ニナと関係がないとは言えないだろう。

 果たして彼らは大きく頷いた。


「アネリーン・ゲールツを見つけ出し、連行するようにと」

「なるほど。どんな理由をつけても構わない、多少乱暴にしてもいいから必ず早急に連れて来てくれ」

「ハッ!」

「ああ、それとひとり遣いに出てくれないか。連れて来てもらいたい人物がいるんだ」


 ノヒト殿下はもちろん、陛下も思ったより行動が早い。

 やはりダノーギとシカードの気配を感じ取っているのだろう。僕もやれることはやらないと。





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