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私に内緒は通じません。~婚約破棄された令嬢はその夜、難攻不落の伯爵様と運命的な出会いをする~  作者: 伊賀海栗


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第30話 どの口が言うんですか


 戦意を喪失した周囲の兵を見回してひとりひとりに指をさし、ノヒト殿下が悪態をつきます。


「おいっ、俺は王子だぞ! 命令に従えよ!」


 しかし静まりかえったままの兵たち。


「俺がハズレだからか? そ、そうやっていつも俺を――」

「我々は忠実に職務を遂行しております!」


 ノヒト殿下の言葉を遮るように、彼のすぐそばに立つ兵士が声を発しました。全員の視線がその兵士へと向かいますが、表情に変化はありません。ただノヒト殿下だけがその兵士に声を荒げたのです。


「どこがだよ! ふざけるのも大概にしろ、俺はあの男を捕まえろって言ってんだよ!」

「我々!」

「なんだよ?」

「我々、ヤクサナ王国第二近衛連隊の指揮官はサキマ王太子殿下であり! ノヒト王子殿下の護衛が最優先任務と命じられております!」


 ノヒト殿下が目をパチクリさせます。


「それなら――」

「また、次点でアプシル伯爵、ボガート伯爵令嬢の警護および支援を行うようにとの仰せでありました!」

「スパイだとわかる前の話だろうが」

「いえ! アプシル伯爵に戦闘の意思がなく、ご発言も我々の支援内容と一致することから脅威にあたらないと判断し、武装解除いたしました」

「いやいやいやいや。おかしいだろ」


 困惑しっぱなしのノヒト殿下です。正直、私も困惑しています。

 ただドリス様だけがクスクスと笑い出し、かろうじて私に聞こえるくらいの声量でひとこと。


「サキマめ、驚かせてくれる」

「まさかの呼び捨て……」


 他国の王族を呼び捨てするのはやめてほしい。びっくりしちゃうから。でも、ドリス様が笑ってくれたおかげで私は少しホッとしました。それに私を抱き締める彼の腕の力が緩くなり、もう警戒しなくてもいいんだなってわかったというか。

 ドリス様は顔を上げ、兵士たちを見渡します。


「サキマ殿下の言う『支援』は僕の本来の目的と一致すると考えて相違ないね?」

「は。二国間の平和を維持するため、いたずらに貴国を刺激しようとする者の調査と聞いております!」

「よかった。それなら、これで大っぴらに活動できるってわけだ。そうならそうと最初に言ってくれれば」

「や、おい。何の話をしてる」


 和やかに始まる会話に、ノヒト殿下だけが混乱から抜け出せていません。


「どこにスパイがいるかわからないため、万全を期すようにと」

「まあ確かに。今もノヒト殿下の自供がなければ僕を拘束せざるを得なかったわけだし、そういう意味ではニナのお手柄かな」


 そう言って私の髪をひと撫で。待って、普通に恥ずかしいです。

 彼の腕の中でもがくと、渋々といった様子で解放してもらえました。そして、今度は全員の視線がノヒト殿下へと集まります。


「は? なんだよ、なんなんだよ」

「ノヒト殿下からは詳しく話を聞かせてもらいたいのですが……まずは城塞へ戻りましょうか」

「話すわけな――ああ、クソ。ニナがいるのか」


 ノヒト殿下はそれだけ言うと、無言で牛車のほうへと歩いて行かれました。

 目下の危機は脱したってことでいいんですよね? そっとドリス様を見上げれば、彼はじっとりした目でこちらを見つめてため息をひとつ。なんだかあとで叱られる予感がします。


 城塞へ戻り、湯に浸かるなどして身体を温めてから、私はドリス様とともにノヒト殿下の部屋へと向かうことになりました。

 廊下を行きかう兵士たちはとても忙しそうです。


「皆さんパタパタしてますね」

「二重スパイを無事に捕縛できたらしいよ。それで取り調べとか持ち物を調べたりとか」

「なるほどー」


 それでもノヒト殿下の部屋が近づくにつれて周囲は静かになっていきます。貴人の住まうエリアですからね、そんなに往来も多くないので。

 だからでしょうか、会話がないのが気になるというか。石でできた床に二人分の足音が響きます。

 殿下のお部屋までもう少し……というところで、ドリス様が足を止めました。突き当りを右に曲がった先が殿下のお部屋で、ここは部屋の前に立つ護衛の兵からの目も届かない薄暗い場所。

 そこで彼は私の手を引っ張り、私を壁へと押し付けました。


「……? ど、どうかしましたか?」

「ニナ、僕は君に賢く立ち回るよう言ったつもりだったんだけどな」

「や、でも結果的には」

「結果論であって、サキマが根回ししていなかったら君まで酷い目に遭うところだった」


 また呼び捨てした!

 と、突っ込める状況ではありません。ドリス様は背後の壁を殴るかのように、右肘を私の左耳の横あたりにドンと叩きつけます。綺麗なご尊顔がすごく近い、でも目が怖い。


「ドリス様……?」

「君の能力に気付かれたし、どこで情報が漏れるかわからない以上、今までより一層の警戒が必要だ。それに」

「それに?」

「サキマは君を利用するかもしれない」


 利用という言葉にイラっとしました。

 確かにドリス様は私に能力を使わせないよう気を遣っていたんだろうと思います、今までずっと。今回だって自分だけが捕まって私を逃がそうとして――。

 でもでも。利用するのは自分だって同じじゃないですか。ノヒト殿下の部屋へ私を連れて行くのは、彼から真実を聞き出すためなんですから。どの口が言ってるんだかって話ですよ。


「私を『利用』している国王陛下とドリス様なら、利用後の対策は考えておられるんじゃないですか? 情報が漏れた場合の想定をしていなかったとしたら、それは陛下とドリス様のご責任でしょう、私に押し付けないで」


 ただでさえ思ったことが口からこぼれ落ちる悪い癖があるのに、怒りも手伝ってすっごく嫌な言い方になってしまいました。

 ハッとした顔のドリス様が力なく私から離れます。


「それは、そうだ。すまない、僕は――」

「さぁもう行きましょう。早く詳細を聞き出したいんですよね?」


 ドリス様の返事を待たず部屋へと急ぎます。

 なんだか頭がグチャグチャで、自分で自分が嫌いになりそう。





昨日のでストックきれました

更新頑張ります

生暖かい目で見守ってください

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