第17話 新たな仲介の依頼
再開しますっ
お待ちいただいてありがとうございましたー!
今日からまたよろしくおねがいします。
あの事件から半年が経過。
マーシャル子爵家およびゲールツ伯爵家はカジノで荒稼ぎをするほか、他国と通じていたらしくどちらも取り潰しとなりました。内通はダメですからね、本当に。
一方私とドリス様は国王陛下の承認を経て正式に婚約。王都での社交期を過ぎたというのに、一躍時の人となった私たちは夜会にお茶会にと引っ張りだこなのです。
今は狩猟に誘われて、デクラーク侯爵領へとやって来ています! そう、モニカのおうちです。もちろんドリス様も一緒。彼は公の場で無口な振りをしていることもあって、社交が好きではないみたい。でも私が行くところには必ずついて来てくれるのです。
多分、守るって約束を果たそうとしてくれているのでしょう。真面目な人だから。
「さっき報せが来たのだけど、優勝はなんと『熊さん』で間違いないって」
「えっ、弓がお得意なの? 意外だわ。斧を振り回してそうなのに」
「いえっ、そんな話は聞いたことが……」
「違うの、どうやらイノシシを仕留めたそうよ!」
「さすが熊さん……」
デクラーク家は毎年、王家を招いて狩猟を行うのですが……今日はその下見も兼ねて親しい友人たちだけで遊んでいるところ。それで子爵令嬢のレーアさまや、その婚約者の熊さんもいらっしゃるというわけです。
男性たちが森へ出掛けている間、女性陣は草原でピクニック。男性たちが戻って来たら一緒に軽食……という予定になっています。
デクラーク侯爵夫人をはじめとしたお姉さま方は、テントの中でくつろいでいらっしゃるみたい。秋といっても晩秋。風は冷たいし身体が冷えてしまいますものね。私とモニカとレーアさまの三人は、草原にカーペットを広げて身を寄せ合ってベリーを摘んでいます。お姉さま方と一緒だと静かになさいって叱られちゃうもの。
モニカがずいっとレーアさまへ身体を近づけ、イタズラを仕掛ける子供みたいな笑顔を浮かべました。
「レーアさまはそろそろご結婚とか」
「はい。特に引き延ばす理由もありませんし」
「あの仲人伯爵のご紹介ですもの。幸せは保証されたようなものですわ!」
キャーと歓声があがります。足をバタバタさせたりカーペットの上に転がってみたり、女の子だけでピクニックをするとちょっとだけはしたなくなるけれど……それが楽しいのです!
熊さんはどんな人だとか、ウェディングドレスはどこにオーダーしたのかとか、そんな話をひと通りしたところで、レーアさまが居住まいを正しました。
「あの……それでニナ様、お願いがございます!」
「えっ、突然ね! はい、どうぞ!」
「どうか、妹の結婚についてもお世話いただけませんでしょうか」
「いもうと」
レーアさまが三人兄妹だということは知っています。妹さんはレーアさまのひとつ下で、私のふたつ下だったかしら。
「身体が弱いと聞いたことが」
「それは……表向き、です。あの子、魔術に傾倒しすぎてマナーがおろそかになっているので、社交の場に出たがらないのです」
「魔法が使えるのですか?」
「いえ、本人はなにも。ただ魔術師に並々ならぬ憧れを抱き、他国に嫁ぎたいとわがままを」
一応預かって来たと言って、レーアさまは荷物の中から身上書を取り出しました。私が読んでもチンプンカンプンなので、あとでドリス様にお渡ししましょう。
ただ少しだけ気になって「相手に求めること」という項目に目を通してみました。
――魔術師が通常の割合で輩出される国の民であること。資産階級以上であること。本人または両親や兄弟が魔術師であること。
「わぁ。本当に魔術師目当てだ」
「貴族でなくてもよいそうなのですが、子どもにしかるべき教育を与えられるくらいの資産はほしいと」
私たちの会話が気になったのか、モニカも「見ていい?」と確認をとりながら身上書を開きます。さっと視線を滑らせてから顔をあげました。
「もしかして、子どもを魔術師にしようとしてる?」
「え」
「はい、どうやらそのようなのです。それで他国で結婚し、その地で子を育てたいと」
「まーこの国じゃ魔術師なんて期待できないものね」
私もドリス様も魔法を使える身。アハハ……と曖昧に笑って誤魔化していると、森の方から騒々しい声が聞こえてきました。男性たちが戻って来たのでしょう。
いつの間にかテーブルなどが用意されていて、その周囲を従者たちが忙しそうに走り回っています。
「他国の方までご紹介できるかわかんないけど、ドリス様には伝えておくわ」
「はい、お手数ですがどうかお願いいたします」
レーアさまの困り顔から察するに、きっと妹さんは魔術師が相手でなければ結婚しないと言ってるんじゃないかと思います。できればお力になってあげたいけれど、それもこれもドリス様次第だから私には何もできなくてもどかしい……っ!
「何か困った顔をしているね?」
「ひゃ……っ! ドリス様!」
気が付けばドリス様が真横にいて私の顔を覗き込んでいました。びっくり。長いブロンドはひとつに結んでいて、いつもと違った様子にドキドキしてしまいます。
モニカやレーアさまもそれぞれの婚約者のもとに向かっていて、近くにはドリス様だけでした。
「どうかした?」
「あ、えと、実はレーアさまの……」
ドリス様は私の話をふんふんと聞いてから身上書を眺め、顎に手をあてて考え込むご様子。やっぱり他国でしかも魔術師だなんて難しいかしら。
けれど彼は苦笑を浮かべて私の肩を抱き寄せたのです。
「ちょうど、陛下から北の隣国ヤクサナに行けと言われていてね」
「お仕事ですか」
「ニナも一緒に」
「わっ、私もっ?」
ヤクサナは以前にもドリス様が半年ほど滞在した国。表向きは彼お得意のデータを用いてなんちゃらするお仕事ですし、私もその婚約者としてご挨拶ということになるみたいです。が、なんだか嫌な予感がいたします……!




