↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族女王の娘《プリンセス》 第1部【公国編】  作者: 枕崎 純之助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/101

第39話 『業火に落ちる街』

「くっ! あんなに……」


 アリアドの街に駆けつけたプリシラは街の入口の手前で立ち止まり、思わず呻《うめ》くようにそう声を漏《も》らした。

 街の惨状は思ったよりひどいものだった。

 あちこちで火の手が上がり、夜空を赤く染めている。


 すぐ前方では街の北側の出入口である大門が見るも無残に焼け落ちて、瓦礫《がれき》と化している。

 そして街のそこかしこにアリアド兵の遺体が転がっていた。

 思わずエミルは肩を震わせる。

 そんな彼の手を掴《つか》んでプリシラは言った。


「エミル。ジュードの居場所は分かる?」


 姉にそう言われたエミルは、閉じていた黒髪術者《ダークネス》としての感覚を再び開く。

 そして彼は探った。

 ジュードのあの優しげな気配を。

 だが……1分ほど経過したところでエミルは顔を曇らせ、姉に目を向ける。


「……感じない。ジュードさんの力を……この街のどこにも感じない」

「えっ……」


 エミルの言葉に思わずプリシラは絶句した。

 ジュードの気配を感じ取ることが出来ない。

 最悪の事態が頭によぎる。

 だがそんなプリシラの肩をガシッと掴《つか》んだのはジャスティーナだ。

 彼女の顔は微塵《みじん》も動揺を感じさせない。


「言っただろう? あいつはそんな簡単にくたばりゃしないって」

「だけど……」


 思わず口ごもるプリシラだが、そこで震える声を絞《しぼ》り出したのはエミルだ。


「……いっぱいいる」

「え? 何が?」


 そう聞き返すプリシラを見上げてエミルは不安げな面持《おもも》ちで言った。


「ジュードさんは見つけられないけれど、それ以外の黒髪術者《ダークネス》の人が……何十人もいる」

「何ですって?」


 エミルの話に思わずプリシラは眉《まゆ》を潜めるが、ジャスティーナは合点がいったというように頷《うなづ》いた。

 彼女はジュードから聞かされて知っているのだ。


「なるほどな。ここを襲ったのは王国兵だ。連中の中には黒髪術者《ダークネス》としての力を軍事転用する部隊がいる。そいつらがこの街に来ているんだろう。おそらくジュードの奴はそれに気付いて気配を隠しているんだ」

 

 そう言うとジャスティーナはエミルの肩にポンと手を置いた。


「感覚を閉じな。ジュードは生きている。おそらく黒髮術者《ダークネス》たちに見つからないよう、うまく立ち回っているさ」


 彼女の言葉にエミルは頷《うなづ》いた。

 だがその隣《となり》でプリシラは困惑の表情を浮かべる。


「でもジャスティーナ。ジュードが感覚を閉じているのなら、彼を探し出すのは難しいんじゃ……」


 街はあちこちで火災が拡大し、人々は逃げ惑い、混乱を極めている。

 この状況で黒髮術者《ダークネス》の力無しにジュードを探し当てるのは困難だとプリシラは思った。

 だがジャスティーナは首を横に振る。


「ジュードは街からの脱出を考えるだろう。だが、この状況では他の大門はすべて閉鎖《へいさ》されている。だが、あいつはそれでもここから脱出できる場所を一ヶ所だけ知っているんだ。そしてそこを私も知っている。ついて来な」


 そう言うとジャスティーナは2人を先導して再び走り出すのだった。


 ☆☆☆☆☆☆


「くっ! た、たった一晩もしないうちに……」


 アリアドの街の中心部に建てられた庁舎の最上階では、この街の領主であるエイムズが近衛《このえ》兵らに守られながら、怒りの形相《ぎょうそう》で机を叩いている。  

 この街を守る1000人を超える部隊は、たった200人ほどの王国兵によって壊滅に追い込まれようとしていた。

 庁舎の前面で今も激しく燃え続ける業火による熱気と黒煙で、窓を開けることすらままならない。

 そして階下からは激しく争う音や、兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。


「領主様……最後までお守りいたします」


 近衛《このえ》兵らは青ざめた表情ながら決然とそう言った。

 しかし彼らにも分かっている。

 じきにここに踏み込んで来る敵を前に、自分たちなど何の役にも立たないことを。


 このアリアドを攻める王国兵団の総大将を務めるのは王国軍の将軍である銀髪のチェルシーだ。

 彼女は今、50人ほどの兵を引きつれてこの庁舎を攻め上がって来ている。

 武勇を誇るチェルシーを止められる者など、この街にはいないことはエイムズも分かっていた。

 そしてついに領主の部屋の扉《とびら》が開かれ、銀色の髪を靡《なび》かせた美しい娘が踏み込んで来る。

 噂《うわさ》に違《たが》わぬ美しさを誇るその娘は、返り血を浴びた鎧《よろい》を身につけ、凛《りん》とした表情でエイムズを見据《みす》えた。


「ワタシは王国軍の将軍を務めるチェルシーよ。アリアドの領主・エイムズ。今すぐ降伏し、この街が王国軍の管理下に置かれることを認めなさい。そうすればあなたの命は保証するわ。そちらの兵についてもこれ以上の抵抗をやめ投降するのであれば、こちらも攻撃を停止します」

「ぐっ……」


 エイムズは唇《くちびる》を噛《か》みしめ、無念の表情で両手を上げて投降の意を示す。

 ここで自分が反抗しても、この街の陥落《かんらく》と王国軍による占領は決まっている。

 無駄《むだ》に人命を失わせる決断は領主のすることではない。


「分かった……アリアドは降伏する。これ以上の死者は出したくない。こちらの兵たちに我が意を速やかに伝えよう」


 そう言うとエイムズは部下たちに命じ、アリアド兵に抵抗をやめて投降するよう伝令を出す。

 チェルシーも部下たちに命じた。

 

「占領の証《あかし》を立てなさい」


 ほどなくして庁舎の屋上に翻《ひるがえ》る公国旗(き)は引きずり下ろされ、代わりに王国旗(き)が風にはためくようになる。

 そして領主であるエイムズからの投降指令がアリアド兵たちに伝わっていき、戦いは一方的な結果で幕を引くこととなった。

 公国領アリアドは一夜にして陥落《かんらく》し、チェルシー率《ひき》いる王国軍の占領下に甘んじることとなったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。