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蛮族女王の娘《プリンセス》 第1部【公国編】  作者: 枕崎 純之助


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第3話 『憤慨するプリシラ』

「な、何よこれ……」


 曲芸団《サーカス》が猛獣の見世物の次に出したのは、生まれつき体に何らかの欠損や異常を持つ人々を紹介するものだった。

 明らかに老人の顔をしているのに、背丈が子供くらいしかない小人症の男性。

 両腕と両足を欠損して、車椅子《くるまいす》に乗せられた女性。

 動物のように全身が毛むくじゃらの男性や、蛇《へび》の鱗《うろこ》のような肌を持つ女性。

 その他にも体の一部が大きく肥大した者や、腰の辺りで結合した双子の姉妹もいる。


 彼らが姿を現すと観客の間から先程までの熱狂とは違った歓声が上がる。

 奇異なものを見るような悲鳴まじりの歓声だ。

 プリシラは思わず憤《いきどお》り、顔をしかめた。


「人を見世物に……ひどい」


 小人症の老人が必死に走る不格好な様子を見て観客らは手を叩いて笑い声を上げた。

 全身毛むくじゃらの男性は先ほど獅子がくぐり抜けた火の輪をくぐろうとして体毛に火がつき、悲鳴を上げて地面を転げ回りながら必死に火を消した。

 それを見た観客らは再び大きく笑い出す。

 プリシラはいよいよ我慢が出来ずにエミルの手を取ると立ち上がった。


「エミル。行きましょ。こんなの不愉快だわ。人を馬鹿にして笑いものにするなんて」


 そう言ってプリシラは大喜びをしている観客らを押し退《の》けるようにして弟の手を引くと、足早に出口に向かった。

 すると出口近くで1人の男が歩み寄って来る。

 受付をしていた男だ。


「お客さん。どちらへ? まだ見世物の途中ですぜ」

「不愉快だから帰るわ。どいて」

「せっかく金を払ってもらったんだ。最後まで見て行って下さいよ」


 そう言って白々しい笑みを浮かべる男にプリシラは怒りの表情で詰め寄った。


「あなたたち恥ずかしくないの? あんな困っている人たちを見世物にして笑うなんて!」


 そう言ったプリシラはふと男の背後で腰に鎖を巻かれて繋《つな》がれた複数の男女がこの天幕を出てすぐ隣《となり》の天幕へと入っていくのが見えた。

 そして先ほどまで見世物を観ていたと思《おぼ》しき客らのうち、格別に身なりのいい数人の男女がその天幕に入っていくのを目にして眉《まゆ》を潜める。


「あれは…‥」

「ああ。あれはうちでやっている別の商売ですよ。見ていかれます? お嬢さん、お金を持ってそうだし、買えると思いますよ」

「買えるって……」

「ええ。召使いが欲しくありやせんか?」


 召使い。

 その言葉にプリシラは顔を曇らせた。

 そこでプリシラに手を引かれたまま隣《となり》に立つエミルが、姉の手を握る己《おのれ》の手にギュッと力を込めた。

 エミルは隣《となり》の天幕を見て、青ざめた顔で息を飲んでいる。



 その表情を見たプリシラは勘《かん》付いた。

 エミルの言う苦しんでいる誰か、というのがあの天幕の中にいるということ。

 そして男の言う召使いという言葉から、あの天幕の中で何が行われているのかを。


「エミル……アタシの手を絶対に放さないこと!」


 そう言うとプリシラは隣《となり》の天幕へと駆け出していく。

 受付の男はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、2人の後ろ姿を見送るのだった。

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