↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族女王の娘《プリンセス》 第1部【公国編】  作者: 枕崎 純之助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/101

第30話 『熟練の戦士』

 プリシラの強さはジャスティーナにとっても想定外だった。

 しっかりと鍛《きた》え上げられ、戦い方も熟練者が教え込んだであろうことが窺《うかが》える。

 ジャスティーナが想像していたよりも遥《はる》かに実戦向きの強さをプリシラは持っていた。


(だが……)


 ジャスティーナはプリシラの周囲を見る。

 倒れている傭兵《ようへい》たちは腕や肩を斬られて出血しているが、それでもまだ息があるようだった。

 プリシラは一貫して敵の命を奪っていない。

 刃物を振るう時は急所を狙《ねら》わず腕や肩などを斬りつけるに留めていた。 

 後は拳や蹴《け》りで敵を失神させ、致命傷は与えていない。


(そうか……まだ人を殺《あや》めたことがないんだな)


 まだ13歳なのだからそれも当然だと思った。

 だがそんな甘さは戦場では通用しない。

 今、プリシラの背後で倒れている傭兵《ようへい》が目を覚まし、その手に刃物を握った。

 それを見たジャスティーナは怒声を上げる。


「後ろだ! 油断するな!」


 その声にプリシラはハッとして背後を振り返った。

 そして顔を赤く腫《は》らした男が刃物を手に立ち上がろうとしているのを見ると、すばやく駆け寄りその手に握った刃物を足で蹴《け》り飛ばした。

 さらにその顔面に再度、拳を打ち込んで相手を再び失神させる。

 その様子を見てジャスティーナは苛立《いらだ》ちに声を荒げた。


「チッ! トドメを刺せ!」


 戦場で殺したと思った敵が実は生きていて、逆襲の刃を浴びて命を落とした者をジャスティーナは何人も見てきた。

 敵の息の根を確実に止めなければ、殺されるのは自分だとジャスティーナは師であった武人から口酸(す)っぱく言われてきたのだ。


(甘っちょろいんだよ。ヒヨッコめ) 


 プリシラの元に駆けつけるためジャスティーナは周囲の傭兵《ようへい》らを退《しりぞ》けようとするが、敵の狙《ねら》いが変わってきた。

 敵の集団はプリシラを捕らえるために人員を多く割《さ》き、ジャスティーナを取り囲む数人の兵は付かず離れずの距離で彼女を牽制《けんせい》するばかりで積極的には攻めてこない。

 ジャスティーナに邪魔させずにプリシラを捕らえる腹づもりなのだろう。

 だがジャスティーナはそんなことでは怯《ひる》まない。


「攻めてこないなら好きにやらせてもらうよ」


 周囲を取り囲んで一定距離を保っている傭兵《ようへい》たちを目で牽制《けんせい》しつつ、ジャスティーナは先ほど地面に放り出した短弓を拾い上げた。

 そして代わりに短槍を放り出すと短弓に矢を番《つが》え、すばやく放つ。

 狙《ねら》うは20メートルほど先にいるプリシラを取り囲む傭兵《ようへい》たちだ。

 それを見たジャスティーナの周囲の傭兵《ようへい》たちが前方の仲間たちに声をかける。


「矢が行くぞ! 用心しろ!」


 しかし矢はプリシラを取り囲む傭兵《ようへい》を狙《ねら》ったものではなかった。

 木々の間を縫《ぬ》うように飛んだ矢は、先ほどプリシラに殴《なぐ》り倒されて失神したまま地面に横たわる傭兵《ようへい》の頭に突き立つ。

 倒れたまま動かなかった傭兵《ようへい》にジャスティーナはトドメを刺したのだ。

 

「なっ……」

「こ、この女!」


 ジャスティーナを取り囲む傭兵《ようへい》らが顔色を変え、ジャスティーナの射撃を阻《はば》もうと一転して距離を詰め、襲い掛かってくる。

 するとジャスティーナは次の矢を矢筒《やづつ》から取り出して短弓に番《つが》え、クルッと踵《きびす》を返した。

 その狙《ねら》いは襲い掛かって来るすぐ近くの傭兵《ようへい》だ。

 その傭兵《ようへい》がハッとしたその時には、至近距離から放たれた矢が彼の眼窩《がんか》にズブリと深く突き立った。


「えぐっ……」


 眼球を深々と貫かれた傭兵《ようへい》はくぐもった声を漏《も》らして倒れ、その体を痙攣《けいれん》させながら絶命した。

 それを見た周囲の傭兵《ようへい》たちは思わず足を止める。

 すると再びジャスティーナは踵《きびす》を返して矢を放ち、プリシラの周囲で倒れている傭兵《ようへい》たちの頭を狙《ねら》ってトドメを刺していく。

 月明かりが差し込んでいるとはいえ夜であり、しかも木々が乱立する林の中でジャスティーナは正確に矢を命中させていく。

 周囲を敵に囲まれた状況で、集中することが出来ないというのにジャスティーナはそれでも一射も狙《ねら》いを外さなかった。


「な、何なんだ……この女は」


 ジャスティーナの腕前に傭兵《ようへい》たちは驚愕《きょうがく》し、それ以上一歩も彼女に近寄れなくなった。

 相手は熟練の戦士であり、近寄れば確実に殺される。

 傭兵《ようへい》団に身を置くとは言え、命をかけてまで仕事を果たそうとするほど彼らは忠誠心を持ち合わせてはいなかった。

 そんな彼らの臆病《おくびょう》風に吹かれた様子を敏感《びんかん》に感じ取ったジャスティーナは短槍を拾い上げると、周囲の傭兵《ようへい》たちにだけ聞こえるように声を落として言った。


「戦の後に生き残れる奴は、賢明な判断が出来る奴さ。命を落としてまでやる仕事かどうか、判断しな」


 臆病《おくびょう》な者は意外と生き延びる、とは言わなかった。

 戦意を失わせるのは死への大いなる絶望と、その後に生まれる生へのわずかな希望だ。

 生き残れるかもしれない。

 絶望の中でほんの少しのそうした希望が灯《とも》った時、人は戦いを放棄して自らの命を長らえる方向へと舵《かじ》を切るものだ。


 砂漠島で多くの戦乱を経験しているジャスティーナはそれを知っていた。

 そして短弓を放り出して駆け出す彼女をそこから追おうとする者はいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。