↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族女王の娘《プリンセス》 第1部【公国編】  作者: 枕崎 純之助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/101

第18話 『修羅の魂』

 夜の闇《やみ》に包まれた平原の真ん中を1本の川が緩やかに蛇行《だこう》して流れている。

 背の高い芦《あし》の草が茂るその河原に今、数百人の人影が潜んでいた。

 全員が武装した兵士たちだ。

 この部隊の指揮を執《と》るのは若き女性だ。

 その銀髪は夜の闇《やみ》の下でも月明かりを受けて美しく輝《かがや》いていた。

 

「将軍閣下(かっか)。出撃の準備は整いました。この先の林を抜ければアリアドの街です」


 チェルシーの前に片膝《かたひざ》をついてそう報告をするのは、真っ白な頭髪を頭の後ろで結った若い男だ。

 彼は大陸から海を隔《へだ》てた西方の島国であるココノエからやってきた一族の1人で、名をシジマといった。

 今はチェルシーの直属部隊で副官を務めている。

 チェルシーは報告を受け、シジマに命じる。


「速《すみ》やかに街の占領を完遂《かんすい》しなさい。軍民問わず、抵抗する者は容赦《ようしゃ》なく殺して。逃げ出す者や無抵抗の者は放っておきなさい。時間と労力を出来るだけ費やさないように。我らの目的はもっと先にある」


 そう言うチェルシーにシジマは恭《うやうや》しく頭を下げ、部隊に指示を与えるべく向かっていった。

 チェルシーは遠くに見える街の明かりに目を細め、その平穏を自らの手で今から壊すのだと心を決める。

 その原動力となるのは彼女の胸を焼き焦《こ》がす怒りと憎しみを燃料にした紅蓮《ぐれん》の炎だ。

 チェルシーの脳裏《のうり》にはかつて焦《こ》がれた相手の顔が浮かび上がり、それは同時に幼き自分が感じ続けてきた絶望を呼び起こす。

 胸に火が入ったのを感じたチェルシーの顔には迷いなき修羅の魂《たましい》が宿っていた。


(ワタシは止まらない。姉さま。あなたをワタシの目の前に引きずり出してその過《あやま》ちを認めさせるまで)


 チェルシーは立ち上がり剣を抜くと、それを天に突き上げた。


「全軍進め! 安寧《あんねい》を貪《むさぼ》る愚鈍《ぐどん》な者どもを、寝床《ねどこ》ごと焼き払え!」

 

 息を潜めるように芦《あし》の茂みに身を隠していた兵たちは勢いよく立ち上がり、チェルシーの号令に大きく気勢を上げて応えるのだった。


 ☆☆☆☆☆☆


 ジャスティーナの呼び掛けに応じて天幕の中に入ったジュードは血の臭《にお》いに思わず顔をしかめた。

 中には首を貫かれて血まみれで死んでいる3人の男の遺体が横たわっている。

 そしてその他に、金髪の少女と黒髪の男児が囚《とら》われているのを確認し、まずは男児の姿をまじまじと見つめる。


(この男の子が……)


 だが、それよりも金髪の少女の様子が気になった。 

 手枷《てかせ》足枷《あしかせ》で拘束《こうそく》されたその少女はぐったりとしていて、目の焦点《しょうてん》も合っていない。

 ジュードはプリシラに歩み寄ってその目の前にしゃがみ込むと、サッと彼女の全身に目を走らせた。

 見たところ目立った外傷はない。


 しかしジュードは彼女の虚《うつ》ろな目を見て、それから彼女の手枷《てかせ》をはめられた手を取った。

 その手はぐったりとしていて力が入らない状態だ。

 ジュードは即座に予想した。


「何かの薬品を摂取させられたな。意識の混濁《こんだく》と軽い筋弛緩《きんしかん》が見られる。だが奴隷《どれい》商人なら彼女が決定的に傷付くような危険な薬品は使わないだろう。一時的なものだと思う」


 そう言うとジュードは背負っていた袋を地面に下ろし、その中から小さな瓶《びん》を取り出した。

 それは茶色い遮光瓶《しゃこうびん》だ。


「ジャスティーナ。それからそこの少年。少しだけ離れて口と鼻を塞《ふさ》いでおいてくれ」 


 ジュードのその言葉を聞いてジャスティーナはすぐに黒髪の少年に歩み寄った。

 そして自分の腰に下げている革袋《かわぶくろ》の中から白い布を取り出して、それを少年の口元に当てる。


「助けてやるから、少しだけ我慢《がまん》しな」


 そう言うとジャスティーナ自身は自分の服の袖《そで》に鼻を埋《うず》めた。

 ジュードは自分の顔に布を巻いて口と鼻を覆《おお》うと、瓶《びん》の蓋《ふた》を開ける。

 それを金髪の少女の顔近くに寄せた。


 その瓶《びん》の口から漏《も》れ出す臭気を嗅《か》いだ途端《とたん》、少女は激しく咳《せ》き込んだ。

 すぐにジュードは瓶《びん》に栓《せん》をする。

 そしてむせている少女の背中をさすってやった。


「ゴホッ! ゲホゲホッ!」

「すまないな。ちょっと荒療治だ」


 そう言うとジュードは、今度は袋《ふくろ》の中から水の入った革袋《かわぶくろ》を取り出し、少女の咳《せき》が収まるのを待ってからその水を彼女の口に含《ふく》ませた。


「ゆっくり。ゆっくり飲むんだ」


 少女は言われた通り、水を少しずつ飲み、ほうっと息をつく。

 すると次第に意識がハッキリしてきたのか、顔を上げた彼女の顔には先ほどまでより明確な意思を宿した表情が浮かんでいる。

 少女はジュードを見て、それからジャスティーナにも視線を送ると、礼の言葉を口にした。


「あ、ありがとう。助けてくれて」


 訛《なま》りの少ない明瞭な発音の大陸言語だ。

 その少女がきちんと教育の施《ほど》された高貴な出自であるとジュードもジャスティーナもすぐに分かった。

 ジュードは柔和《にゅうわ》な表情を浮かべて少女に名乗る。


「俺はジュード。そっちにいる赤毛の彼女はジャスティーナ。君たちの名前を聞いてもいいかい?」


 そう言うジュードに少女は彼と、そしてジャスティーナを見た。

 ジャスティーナは小刀で少年を縛る縄《なわ》を切り、彼を自由にしているところだ。

 その様子を見て金髪の少女は意を決したように告げた。


「アタシは……プリシラ。統一ダニアの金の女王ブリジットの娘。そこにいるのは弟のエミル」


 その言葉にジュードとジャスティーナは驚《おどろ》いた表情で互《たが》いに顔を見合わせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。