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(旧)流星の料理人  作者: 紅樹 樹《アカギ イツキ》
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【四皿目】朔晦朔太《たちごりさくた》

昼休みのチャイムが鳴り、流星と日向は屋上に向かう。

 重たい鉄の扉を開けると、目の前には見慣れた顔が弁当をつついていて、日向は毛虫でも見るような顔を浮かべた。

「なんでいる?」

「この学校の生徒だから?」



 当たり前のようにさらっと言われて、日向は既視感を覚えて深い溜め息を付くと、朔晦の隣に座っていた暁が、日向から守るように朔晦の前に躍り出た。

「それ以上、朔太に近づくことは許しません!」



「大丈夫だよ、暁美。ここは学校だし、刀も持ってねぇし」

「朔太がそう言うなら…」

 朔晦に諌めれて、暁は案外とあっさり身を引いた。

 


「いやぁ、びっくりした。まさか同じ学校だったのか!」

 警戒心を剥き出しに、流星と同じ紫の目で睨む暁に特に動じることなく、笑っている流星に、朔晦は嘲笑う。

「つーか気付かなかったのかよ、制服同じだろうが。あと年上には敬語使えよ」



 どこかで聞いたことのあるような台詞だと日向が思い出していると、言われてみれば同じ黒の学ランで、上履きは赤、つまり流星と同じ二年生であることが分かる。

「まぁまぁ、固いこと言うなって。同業のよしみじゃねぇか」

「同業ねぇ…」



 流星は、年上だろうがお構い無しに、隣に座り弁当を広げる。

「明日馬も、早く食わねぇと休憩終わるぞ」

 日向は、もう何も言うまいと深く溜め息を付くと、流星の隣に腰を落ち着けた。



「弁当、自分で作ってんの?」

 流星は、和食中心の自分の弁当とは全く逆の、洋食がメインの朔晦の弁当を興味を示す。

 馴れ馴れしい言葉遣いを注意したにも関わらず、相変わらずの口振りに朔晦は溜め息混じりに答える。

「んな訳ねぇだろ。暁美だよ。俺、料理できねぇし」

 その言葉を聞いた日向は、鼻で笑った。



「なんだよ、先輩面してるくせに料理もできねぇのかよ。情けねぇなぁ!」

 ここぞとばかりにマウントを取る日向に、流星が相変わらずの生姜焼弁当を見つめる。

「お前、良くその程度の料理で威張れるな」

「ほっとけ!」



 まるで、獣のように喉を鳴らして流星に噛みつく日向に、朔晦は笑い声を上げた。

「お前ら、面白ぇな。仲いいんだか悪いんだか分かんねぇや」

 暫く朔晦が笑っていると、ふと日向が暁に視線を向けた。



「なぁ、ずっと気になってたんだけどさ。その人って…」

 ひとしきり笑った朔晦は、日向が最後まで言葉を紡ぐのを遮った。

「幽霊だよ。一年くらい前に死んだんだ。化け物と戦ってる時にな」

 暫しの沈黙が流れたが、流星はすぐにその沈黙を破った。



「同じ料理人と霊媒師なら、知ってるよな?霊が一年以内に成仏しなかったら、どうなるか」

 朔晦は、ほんの僅かながら眉を潜めた。

「知ってるよ」

「だったら…!」

 流星ではなく日向がその言葉の続きを言おうとしたが、流星は制した。



「分かってるなら、それでいい。でも、なるべく早く成仏させろよ。じゃねぇと、俺の回りには化け物の存在を嫌ってる奴が何人かいるから」

 流星が言っているのは恐らく、常陸陸や御影池千影のことだろうと日向は悟った。



「…忠告ありがとよ」

 朔晦はそういうと、最後の一口を口に放り込み、弁当箱を片付け、未だに日向を睨み付けている暁に声をかけ、まだ時間があるにも関わらずさっさと教室に戻って行った。



「いいのかよ?あのままで?」

 朔晦達が立ち去るのを見送った日向は、不服そうに流星に聞く。

 流星は、目では笑っているものの、どこか寂しそうな表情で、手首に揺れる、ブレスレットに視線を落とした。



「今はそっとしておいてやれ。亡くなった人と決別するのは、そう簡単なものじゃねぇからな」

 流星は、満月みづきのことを思い出しながら、そう言うと、ある人物のことが脳裏に浮かび、唸り声を上げた。



「それより、あいつがどうするかだよな…」

「あいつ?」

「陸だよ。絶対認めねぇだろ」

 同じことを考えていた流星に、日向はああ、と眉を潜める。



「陸に斬られる前に成仏できればいいんだけどな…」

 ぽつりと独り言のように呟く流星に、日向はふと、流星には既に暁の好きな食べ物が分かっているのかと聞こうとしたが、野暮なような気がして、言わないことにした。



◇◆◇



「軍にいないからどこに行ったのかと思えば、やっぱりここにいたのか」

 用が終わり、久し振りに自分の店に戻った空閑が、戸を開けると、黄色い髪の青年が、主を待つように、玄関に座り込んでいた。



「遅ぇよ、おばさん。いつまで待たせんだ」

「相変わらず口の悪いガキだねぇ、あんたは」

「ガキ扱いすんじゃねぇっつってんだろ。二十七歳だぞ」

 やれやれと、悪口を言われると、黄色い髪の青年は、反論する。



「どうでもいいけど、陸、なんでここにいるんだよ。天道に言われただろ、昼彦の護衛になれって」

 黄色い髪の青年改めて常陸は、はん!と鼻を鳴らして一蹴した。

「俺がそんなもん聞かねぇことくれぇ知ってんだろ。あんたにその気がなくても、俺はいつまでもあんたの護衛だ!」



 空閑が、深い溜め息を付くと呆れたような表情を浮かべる。

「全く、流星は成長してるって言うのに、あんたの時はいつまでもあの時のままだね…」

 常陸は、一瞬行き詰まると、鋭い目で空閑を見つめる。



「俺は、天道なんか絶対認めねぇ。本当なら、あの一件がなければあんたが軍を追われることはなかったんだ!全部あいつが、天道が悪いんだ…っ」

 奥歯を噛み締めて、思いの丈を吐いた時、遠くから化け物の咆哮が聞こえた。



 すると、常陸は素早く刀を解放させると、店を飛び出して行った。

 空閑は、常陸の思いを否定する訳でも肯定する訳でもなく、ただその後ろ姿を見送った。

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