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(旧)流星の料理人  作者: 紅樹 樹《アカギ イツキ》
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【二皿目】日向の思い

朔晦朔太と名乗った少年が、軽く手を上げて帰ろうとした時、流星は、一緒にいる金髪 の少女に違和感を抱いた。

「その子…っ」

 昼禅寺も違和感に気づき、刀を構える。



「ん?ああ、こいつか?こいつは暁暁美あかつきあけみ、見ての通り料理人だ」

 流星の言葉を遮るように、朔晦は、暁を紹介すると、さっさと帰って行った。

 朔晦は、ゆるゆると帰り道を歩きながらニヤリと笑みを浮かべる。



「気づきましたね、彼」

「そりゃあまぁ、そうだろうなぁ。つかこれくらい気づかねぇと同業者失格だろ」

 と、朔晦は嘲笑った。



「大丈夫か、流星!」

 ようやく追いついた朝霧が、流星に駆け寄る。

「ああ、ああ。俺は大丈夫だけど…」

「どうしたよ?ハッキリしねぇな」



「あ、いや…、大丈夫だろ、多分」

 勝手に一人で解決すると、流星は足早に帰路に着いた。



「ただいまー」

 流星達が帰宅すると、居間の方から賑やかな声が聞こえて来た。

 戸を開けると、天道達が、再び酒盛りを繰り広げていて、流星は呆れて溜め息をついた。



「おおー、流星帰ったか、ツマミ作れ、ツマミ〜」

「おいおい、一体何本開けてんだよ、この酔っ払い共め!」

 食卓の上には、ざっと数えただけでも十本は下らないだろう数の酒瓶が転がっていて、海原は酔いつぶれて眠っている。



「もう、私がいなかったらすぐこれなんだから!」

 昼禅寺が怒りながら酒瓶を片付ける。

「真昼ーおかわりー!」

「ダメ!」



 天道に追加を催促されるも、すかさず拒否する。

「流星も、おつまみなんて作らなくてもいいからね!」

 釘を刺されて、流星は苦笑いを浮かべる。

「お前、いつもこんなことやってんのか?」

「まぁ、一応、この人の右腕だし…」

「そっか。大変だな、お前も」



「言ってないで、手伝って…」

 言おうとした矢先、流星はひょいと昼禅寺から酒瓶を取り上げた。

「あとは俺がやっとくから、着替えて来い」

 昼禅寺は、少し悩んだが、大人しく従うことにした。



◇◆◇



「もう帰っちゃうのか?」

「店は奥さんに任せてはいるけど、いつまでも任せっきりな訳にはいかんしな。ま、また来るわ!」

 翌日、海原はバイクのエンジン音と共に、颯爽と走り去って行った。



「なんて言うか、まだ信じられねぇな。あの人も軍の人間だったなんて」

 海原を見送りながら、日向が言う。

「でも、凄ぇよな。俺にはない能力だからさ」



 日向は、珍しく謙遜する流星に、意外そうな顔をする。

「なんだよ、その顔」

「いや、あんたも謙遜したりするんだなぁって」

「相変わらず失礼だな、お前も」



 顔を引きつらせて言うと、ふと何か思い立って流星は、提案した。

「そうだ、満月みづきの墓参り行こうと思ってんだが、付き合ってくんね?」

「分かった。準備して来る」



 準備が整い、流星と日向が満月みづきの墓に向かうと、御影池千影がいた。

「お前…」

 御影池は、振り替えると、無表情のまま、口を開いた。



「お墓参り、してたの」

「なんで…」

 御影池はそれ以上答えることなく、墓石に視線を戻す。



 日向は、御影池が自分を恨んでいると言っていたことを思い出した。

「明日馬…」

 御影池が、覇気のない声でポツリと日向の名前を呼ぶ。



「知ってる?姉さんが、なんで料理人になろうとしたか」

「え…っ」

 日向は、唐突に聞かれて、喉を詰まらせる。



「姉さんね、化け物に襲われた時、満月みづきちゃんに助けて貰ったことがあったの。だからずっと、満月みづきちゃんに憧れてた」

 相変わらず、無表情のまま言葉を紡ぐ。



「でも、自分が料理人になれないことは、すぐに分かってた。だから、あなたに全てを託したの」

 御影池はそれだけ言うと、踵を返して、立ち去ろうとした。



「ま、待てよ!」

 日向はすかさず、御影池を引き止める。

「俺が恨まれる理由は分かったし、恨まれるのは仕方ないと思ってる!だから許してくれなんて言わない!でも、俺は…っ」

 日向は、弾け飛ぶような声で本心を伝える。



「俺は料理人なんてできねぇし、最初からそんな資格はねぇ!だから、霊媒師としてこいつを守る!それが俺の務めだ!」

 その言葉を聞くと、御影池千影は、フッと笑みをこぼす。



「別にもう恨んでなんかいないし、私にはその資格はない。ただ姉さんがなんで料理人に憧れてたか知って欲しかった。それだけ」

 御影池はそう言うと、その場を立ち去って行った。



「いやぁ、意外だったな。まさか、あいつが満月みづきと知り合いだったなんてな」

 流星の声に日向は、正気を取り戻すと、ああ…、と歯切れの悪い返事をした。



「あ、かすみ草…」

 流星は、献花されている生花に気付いた。

「本当にちゃんと墓参りしてくれたんだな」

「分かるのか?」



「そりゃあ分かるさ。だって、かすみ草は満月みづきが好きな花だし、そうじゃなきゃ生花なんてあげないからなー。この菓子も満月みづきが好きなやつだ」

 流星はそう言うと、手拭いを取り出して、墓石を水吹きする。



 一通りの準備をすると、流星と日向は手を合わせる。

 流星が、帰ろうとした時、ふとあることを思い出した。

「そうだ!店!そういや、おっさんが帰ってから誰もいねぇんだ!」

 流星は、慌てて軍に戻った。

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