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(旧)流星の料理人  作者: 紅樹 樹《アカギ イツキ》
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【二十四皿目】共闘

千影の言葉に陸は、自分が霊媒師エクソシストになった時のことを思い出していた。

 陸自身もまた、親を化け物に殺されたから、霊媒師エクソシストになったのだ。

 だから、なんとなくだが、今の千影は昔の自分と似ている、そう思えた。

「だからって、どうしろってんだよ…っ!」



 陸は苛立ってグッと刀を握り締めていると、化け物が再び攻撃を仕掛けてくる。

「くそっ!」

 どっちにしろこのままでは、やられてしまう。

 陸が刀を振りかぶったその時、明日馬が身を乗り出して化け物の攻撃を止めた。



「おま…っ!」

「俺に考えがある」

「はぁ?!何言ってんだよ!お前だって、霊媒師エクソシストだろ!料理人でもねぇくせに、傷つけずに成仏なんて、させられねぇだろ!」

「だから、今諸星が…その料理人が料理してんだ!出来上がるまで、俺とお前で時間を稼ぐんだよ!」

 陸は眉を寄せて怪訝な表情をするが、朝成も真昼も戦えない以上そうする他なく、陸は舌打ちをして明日馬の提案に乗ることにした。



「あと、年上には敬語使えよ、ガキ」

「え…っ?」

 そう言いえばずっとタメ口だったことに気づいたが、それ程離れているだろうか?と思っていたが、心を見透かされたかのように陸が、これでもかといわんやごとくに、ドスの効いた声で、

「俺は27歳なんだよ!!」

「はぁっ?!にっ、27ぁ?!」

 明日馬の声を聞くより先に、飛び出して化け物を空音から引き離さんと、自分の方へと誘き寄せた。



◇◆◇



 その頃、流星は厨房に立ち、あの霊が今一番食べたい物がなんなのかを考えていた。

 自分がやると言った以上は、決して天道に頼る訳にはいかない。

 しかし不思議なことに、少し前ならばこの手の、抽象的な内容ならば見えることすらなかったのに、今回はなぜか」見えるのだ。

 それも全て満月みづきのお陰なのだろうか。

 そうこう考えてるうちに時間だけが過ぎていく。



 考えている余裕などない。

 作るべき料理はわかっているのに、合っている自信がないのだ。

 包丁を持つ手が震える。

 もし間違っていたらどうするのだろうか。

 こんな思いは初め手で、流星は先程自分に任せてくれと言ったことを後悔しそうになった時だった。



 背後から満月みづきの気配と、体温を感じた。

「大丈夫。私が手伝ってあげるから、流星はただ自分を信じて」

満月みづき…っ!」

 振り返ると、流星は目を見開いて息を飲んだ。

 もうこの世にはいないはずの満月みづきが、微笑みながら立っているのだ。

 その刹那、流星は今までの葛藤は全て消え、手の震えも消えていた。

 もう迷わない、そういい聞かせると、再び包丁を握る手を動かし始めた。



◇◆◇



 朝成と真昼は、空音の温かい手の温もりの中で目を覚ました。

 ぼんやりと朧げな視界が段々とはっきりとして、ようやく目の前の人物を認識するまでになると、真昼は勢いよく起き上がった。

「馬鹿!そんな急に起き上がったら…っ!」

 空音が言うより早く、真昼は目眩で視界が暗転した。

「大丈夫か?」

 朝成に体を支えられて、なんとか地面との衝突は避けられた。

「朝成…。私達、どうしたの?というか、なんで頭がここにいるの?」



「詳しい話は全部後だよ。今はあの化け物を成仏させるのが先だ」

 真昼はようやく今の状況わ判断すると、化け物と戦うべく、いつの間にかブレスレットに戻っていた刀を生成しようとしたところで、真昼はその光景に、思わず動揺した。

「なんで…なんで明日馬と陸が一緒に化け物と戦ってるの…?」



 いよいよ状況が判断できなくなり、真昼は呆然とする。

「明日馬がそう提案したんだよ。あの化け物は千影の父親だからね」

 千影の名前を聞いた途端、真昼は咄嗟に身構えて千影を探す。

「そうだ、千影!千影は…っ!?」

「ここだよ」



 背後から声が聞こえて、真昼はその方向に体を向けると、視線の先には力無く壁に背中を預けて座る千影がいた。

「大丈夫、もう何もしないよ。別にお父さんを傷つけさえしなければ、あんたたちなんてどうでもいいんだ」

「どうでもいいって…!」

 噛みつきそうになった真昼を、制したのは朝成だった。



「一つ聞いていいか?」

 千影は虚な目で朝成を見る。

「なんでこんなことをした?」

「こんなことって?」

「とぼけんな。なんでまた昔と同じことを繰り返してんだ?麻亜夜の目を奪ってまで、お前のやりたかったことってなんだ?」



 千影は目を閉じて、ゆっくりと口を開き、ポツリポツリと話出した。

「さっき空音さんが言ってたでしょ。あの化け物は私のお父さんだって。だから、痛みを与えずに成仏させるには、料理人の力を奪うしかなかった。だから…」

 千影の言葉に耐えられなくなった朝成は、月光して千影の胸倉を掴んだ。



「だから麻亜夜の目を奪ったのかよ!そんなことしたって意味ねぇ事くらいわかってんだろ!」

「朝成…っ!」

 空音に牽制されたが、朝成の怒りは治らず、尚も千影に怒号を浴びせる。

「お前が昔から霊媒師エクソシストじゃなく、料理人になりたかったのは分かる!だからって死にそうな姉ちゃんを料理人の力で成仏させる為に、またその力を奪おうなんてのは違うだろ!!」



 朝成の言葉に、千影はきょとんとして目をぱちくりさせている。

 話が全然噛み合っていない。

「何、言ってるの…?お姉ちゃんが死ぬ…?私はただお父さんを、料理人の力で成仏させたいだけなんだけど…?」

「は?だから、病弱で死ぬのが分かってる美影を、料理人としての力で成仏させる為に、料理人の力を奪おうとしてる…ん?」

 朝成りもいよいよ頭がこんがらがって、自分が何を言ってるのか訳がわからなくなり、とりあえずと胸倉を掴んだ手を離した。



「何を勘違いしてるか分からないけど、お姉ちゃんのことと今回のお父さんのことは、全く別の話だよ。

今は、お父さんが事故で亡くなったから、これ以上痛みを与えたくないから、料理人の力が欲しかった、それだけよ」



 乱れた服を整えながら、千影は自分の本心を包み隠すことなく伝えた。

 朝成は、ようやく麻亜夜の目を奪われてから、冷静な判断ができなくなっていたことに気づいて、少し反省した。

「それはわかったけど、やっぱりどう考えても、麻亜夜の目を奪ったのはやりすぎだし、お前の本当の目的を知ったところで、俺はお前を許せる訳じゃねぇ」



 千影は目を閉じて、項垂れた。

「だったらどうしたら良かったの?私はもう軍の人間じゃないし、あんな大罪を犯したのに、お願いしたところではい、わかりましたって、聞いてくれたの?」

 今にも泣きそうな千影の表情に、朝成はぐうの音も出ず、顔を伏せた。



「お父さんは事故で、何日も危篤状態で死んだの。それだけでも充分しんどいのに、死んでからも痛い思いをしなきゃならないの?

 痛みを与えないで成仏させなたくないって思うのは、そんなに間違ってるの…?」

 はち切れんばかりにぐしゃぐしゃになった千影は、とうとうその場に泣き崩れてしまった。



「明日馬っ!」

 その時、尻尾に絡みつかれた明日馬は、思い切り地面に叩きつけられた。

「くっそ!もう耐えられねぇぞ!!」

 あれからなんとか傷つけることなく、攻撃を躱し続けた陸だったが、痺れを切らし、刀を振り上げた。

「だめっっっ!!!」

 千影が大声を叫び止めに入ろうとした時、陸を切り裂かんとした手が、寸でのところで止まった。



「悪いなぁ、またせちまって」

 背後から声が聞こえたと思ったら、鼻腔がおいいそうな匂いにくすぐられた。

 千影が振り返ると、そこには、料理を手にしたあの金髪の少年が立っている。

「流星!!」

 皆が声を揃えて自分の名を読んで、流星は思わず笑いが込み上げる。

「これだろ?あんたが今食べたい物!」

 カレーを手にした流星は、自身に満ちた声でそう言った。

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