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(旧)流星の料理人  作者: 紅樹 樹《アカギ イツキ》
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【九皿目】聖夜(後編)

真昼に先を越された七夕は、慌ててプレゼントを鞄から取り出して、明日馬に渡した。

 真昼の袋からすると小さめではあったが、持つとそこそこの重味がある。

 先程の真昼の話でプレゼントを渡す方式を勘違いしていた明日馬が、自分用に買ってくれた物だと分かり、申し訳なさそうに視線を反らす。

「ご、ごめん…。なんか俺だけ勘違いしてたみてぇで、七夕さん用じゃなくて、皆が使えるようなのを選んだんだけど、貰っていいのか?」

「いいよ、そんなの!ちゃんと説明しなかった私達が悪いんだし!」



 それでも、なんだか気が引けてしまい、渡すのを躊躇っていると、七夕が明日馬のプレゼントを手に取り、開けていいか尋ねた。

 明日馬は観念したのか、歯切れ悪くああ、と返事した。

 中に入っていたのは、女性でも男性でも使える青のハーバリウムのボールペンだった。

「わぁ!可愛い!」

「プレゼントとか渡したことねぇから、店員さんに色々教えて貰ったんだ。

諸星にも渡る可能性があったから、女性でも使えるおしゃれなのをって思って…」

 ごにょごにょと、口ごもりながら話す。



「日向君が選んでくれたことには変わりないよ。大事に使うね」

 言うと七夕は丁寧にケースに戻し、鞄の中にしまった。

 明日馬は、次は自分の番だと、包みの中身は、保温式の弁当箱だった。

 明日馬は意外そうな表情を浮かべている。

「あ、あのね。流星君から聞いたの。最近自分でお弁当作るようになったって。保温タイプだったら、もっと幅も広がるかなって…」

 明日馬はいつの間にそんなこと話したんだと、小さく溜め息をつく。



「め、迷惑だったかな?」

 恐る恐る七夕に聞かれて、明日馬は首を横に振った。


「嬉しいよ。明日からもっと頑張って作るわ」

 初めて七夕は明日馬の笑った表情を見て、どきっと棟が高鳴った。

 隣で見ていた流星と真昼も、大きく目を見開いている。

「ひ、日向が笑った…」

「私も、あの子が笑ったの初めて見た…」

 七夕もそうなの?と、きょとんとしている。



 言われ明日馬は思わず顔を真っ赤にさせると、慌てて顔を隠す。

「ばっ、うるせぇ!こっち見んな!」

 その様子を七夕が釣られて笑い声を漏らすと、明日馬が七夕さんまで!と声を荒げる。

「このこのぅ、焼けるねぇ、お二人さん!」

 流星が自分達のことを棚に上げ、いやらしい顔で囃し立てる。



「夕季ぃ、良かったじゃん!あんたが初めての女だってさ!」

 流星に続き、真昼もわざと誤解を招くように揶揄する。

「もう、真昼ちゃん!からかわないでよー!」

 まるで茹で蛸みたいに顔を真っ赤にさせて、七夕が真昼に噛み付く。

 その夜、街は少しだが雪が降ったらしい。

 まるで、新たなカップル誕生を祝福するかのよに…。




◇◆◇



 同時刻、軍でも流星達同様、クリスマスパーティーを開いていた。

 台所ではいつのもように昼彦が仕切っていたが、今日は珍しく麻亜夜がいた。

 暇潰しちょいと覗きに行こうかと、朝成が台所を覗きに来る。

「お、やってるやってる」

 テーブルに並べられている豪華な料理を一瞥すると、朝成はからあげをつまみ食いしている。

「あ、コラ!勝手に摘まみ食いしないで下さい!」

 麻亜夜に怒られながらも、朝成は無視してからあげを噛み締めていると、何かに気づいたようである。

「あれ、このからあげ、もしかして麻亜夜か?」



 図星なのか、麻亜夜はギクリと肩を竦めて、料理をしながら答える。

「何か文句でも?」

「ないない!文句なんかこれっぽっちもねぇよ!ただ麻亜夜の手料理を食べられるなんて、俺は幸せもんだなぁ!」

 などと、わざとらしく言っていて、苛つくが料理中はどんなことがあっても、溜め息は付かないのがプロの料理人だと言う意思を貫き、麻亜夜はグッと堪える。

「邪魔なので、あっち行ってて下さい」

 いつもなら一言、二言飛んで来るのだが、邪険にされれば仕方ないと朝成は退散した。



 30分くらいして、パーティーが始まった。

 相変わらず陸の姿はないが、孤独を決め込んでいるのだか、致し方ないと皆は思う。

 昼彦はと言えば、いつもの12歳の年相応の少年に戻っている。

 それから宴会は三時間程続いて、辺りはすっかり真っ暗になりチラチラ降っていた雪も、少し深まりうっすらと積もっている。

 酔いを冷まそうと、縁側でぼーっと空を眺めていた。


 片付けを終えてやって来た麻亜夜の手は、何やら包みを抱えている。



「こういう時にだけ、作ってくれんのな、麻亜夜は」


 声をかけた訳でもないのに、自分の気配に気付いて、空を見上げながら朝成が言った。

「特別な日ですからね」

 そう言うと、横に腰を下ろし、包みを差し出した。

「お、サンキュー、開けていい?」

「どうぞ」

 中身をあけると、中には指輪が入っていて、朝成は思わず目を見開いた。



「気に入らなかったら捨てて下さい」

 返事を待たずして立ち上がろうとする麻亜夜を、朝成が引き留めて、用意していたプレゼントを渡した。

「開けてみ?」

 少し躊躇った麻亜夜だったが、袋を開けると、そこには自分が渡した物と同じ物が入っていて、目を見開いた。

「気に入らなかったら捨ててくれや」

 


 先程麻亜夜が言った言葉を反復すると、悪戯な笑みを浮かべる。

 麻亜夜は仮面のような無表情が崩れて、顔を赤らめている。

「なんでこの人なんですかね。つくづく自分が嫌になります」

 などと、憎まれ口を叩きながら再び腰を下ろすと、甘えるようにじゃれ突いて来た。

「運命共同体ってやつよ」

 麻亜夜はそれ以上何も言わず、ただ朝成に身を委ねた。


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