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3-14話 死のない国

 夜空を見上げながら、右手の人差し指にある時環ときわを眺める。時間の経過と共に時環の中に満ちる光は今、1/4ほど灯っている。その様子から、この夢前世に入って1日程度経ったのだと読み取れた。


(ずっと夜だから、時間の経過が分かるものがあって助かった。……にしても、本当に不思議な夢前世だ)


 祈吏がこの夢前世に来て分かったこと。まずひとつは『現実とは大きく異なる世界』という点だった。


 上半身を起こし、その景色を一望する。

 果てしなく広がる夜の草原には、ぽつぽつと民家が建っている。そんな景色を照らすのは赤い提灯と、いたるところで咲き誇る桃の木だ。鮮やかな桃色の花びらは淡く光を放ち、時折吹く柔らかい風に乗って頬を掠めていく。さまざまな大きさの桃の木から木へと繋ぐように吊るされている提灯が、夜道を煌々と照らしている。


(綺麗……にしても、あの中心部にある建物は一体どれくらいの高さがあるんだろう)


 祈吏は道の集結先にある巨大な塔を見上げた。それはとても高く、どこまで続いているのか分からないほど高層の建築物だ。建物の所々から生える反った赤い屋根や、吊るされた赤い提灯は、どこか中華風な印象で。その塔が現代技術を以てしても再現が難しいのは明白だった。


 常夜の景色に淡く光る桃の花、そして妖しく灯る提灯に、そびえ立つ摩天楼――その風景だけでも祈吏が知っている世界ではないと、ありありと訴えてくるというのに、信じられないような『常識』がある世界だった。


(夢か現か幻か。どれかと言えば夢前世だから夢なんだけど……これが伊吹さんの前世で、本当に存在した世界だと言われると、不思議な気持ちになってくる)


 その時、近くの並木道を往く人々の笑い声が聞こえてきた。


 振り向いてみると、そこには祈吏と同じ淡い色の華服に身を包んだ5人の男女たちの姿があった。何かを囲むように円になって進むその中心で、度々鞠が蹴り上げられる。人から人へ鞠が回されるその光景は、祈吏が現実で見かけるボール遊びをする人たちそのものだった。若葉色の鞠が宙に舞い上がるたび、歓声を上げ、男女たちはその鞠を視線で追った。


(あ――あの人たち……)


 ――そのうちの2人は、白地にひとつ目の模様が描かれた目隠しをしていた。

 けれどその他の3人と同じように景色が見えているようで、落ちてきた鞠を慣れた様子で蹴り返し、身体をぶつけ合うこともなく、走っていく。


 男女たちを固唾をのんで見守っていた祈吏は、走り去っていった後に大きく息を吐き、肩を落とした。


(……この世界の『中心人物』が語ったことが本当なのであれば。伊吹さんの前世はとんでもない世界だったのかもしれない)


 昨日、目が覚めて間もなくして聞いた話を思い出す。

 祈吏は腰に下げた角灯かくとうを確かめるように指先で撫ぜる。その中に火は灯っておらず、小さく深呼吸をした。



『――死のない国へようこそ。あなた方は選ばれたのです』


活動報告に記載した件と重複しますが、こちらでもご報告です。年末にかけて忙しいため更新がゆっくりになります。

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