3-11話 二度目の試み
「18名ですか。それは、大所帯ですね」
想定よりも大きかった数字に、祈吏は驚きを隠そうと短く息を吸ってから答えた。
「本当にざっくりっすよ。この半年、一緒に暮らしてて把握した人数なんで。姉ちゃんの症状は実際8か月前か、9か月前くらいから続いてるんで、もしかしたらもっといるのかもしれないっす」
「そうなんですね。伊吹さんの夢遊病が出た際には、蘭太郎さんがご対応されているんですか?」
「そっす。俺、実家から離れて1人暮らししてて、今は実家に戻ってきてるんすよ。だから元は母さんが介抱してたんですけど、まあー症状出てる時の姉ちゃんに狼狽えまくりだったんで、俺がしてます」
「そうだったんですか……」
「つっても、病院巡りは嘘だろってくらいあっちこっち連れ回してんですけどねー。ホント、うちの母上は自分が安心したい気持ちが勝っちゃってるんでしょうね」
蘭太郎は眉を下げて笑ったが、祈吏はどこか皮肉めいた感情を受け取り、ひとまずは会話に集中しようと、口の中にあった麩菓子と共に飲み込んだ。
「…………」
伊吹は食べ終えた餅飴のパッケージをテーブルに置くと、そっと蘭太郎の袖をつかむ。
物憂いげな表情で弟の顔を覗き込むその瞳は、言葉はなくとも蘭太郎を気にかけているのだと分かるもので。
「そんな顔すんなよ~。俺は寝てる間の姉ちゃんと話すの、けっこー楽しいからさ」
蘭太郎は安心させるために伊吹の肩をぽんぽんと叩く。すると、伊吹はどこかほっとした表情で微笑んだ。
(おふたりとも、信頼しあってるんだな。にしても、まさか伊吹さんの中に18人もの人格がいるっていうのは驚いた)
今回のカウンセリングは『夢前世に行く』と事前にヨゼから聞いていた。この人物の夢前世も一筋縄ではいかなそうだ――そんな懸念が祈吏の胸中に芽生えた時、蘭太郎が口を開いた。
「それで、先生……今日するって聞いてたアレなんですけど」
「はい。もしよろしければ伊吹さんの入眠療法を、是非もう一度行わせていただきたいと考えています」
(え――……もう一度?)
「――それでは、こちらへどうぞ」
カウンセリングを終え、伊吹はティパルに連れられ応接間を後にしていく。
そんな伊吹に対して蘭太郎は『起きる頃に迎えに来るよ』と声をかけ、邸を後にしていった。
「ヨゼさん。伊吹さんの夢前世に、一度行かれたことがあるんですか?」
「うん。以前はコマと行ったのだが、時間が足りなくなってしまってね。……正直、2人で捜索するのは難しい条件だったのだよ」
そう話しながらヨゼはタブレットを操作し、狛ノ介にメッセージを作成する。『至急連絡するように』と手短に音声入力を済ませ送信した後、小さな溜息を漏らしてから祈吏を見上げた。
「さて、祈吏くん。彼女の情報共有をしようか」