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3-7話 庭園での歓迎会2

「晃満さんはお仕事で全国に行かれると仰ってましたが。ご職業って占い師さん、でしたよね?」


 蜂蜜色のビールが注がれたグラスを晃満から受け取りながらそう訊ねる。すると、晃満は軽く頷いた。


「うん、占い師やってるよー。つっても、各地に行くのは占いじゃなくて、ほとんど別の仕事でだけどね」

「別のお仕事、ですか」


 それは一体どんな仕事だろうと、祈吏は無意識にじっと晃満を見つめる。その視線に気づいた本人は一瞬目を丸くしたが、ニッと微笑んだ。


「祈リンになら、教えてもいいかな。俺、霊視的なこともしてるんだよね」

「えっ。れ、れれれれ霊視、ですか……!?」

「あれ。この手のハナシ苦手だった? ごっめん、夢前世に行ってるって話聞いたから、大丈夫かと思ってた」


「に、苦手です! ホラーは本当に駄目なので……って、あれ」


(晃満さん、夢前世のこと知ってるんだ。……それもそっか。ヨゼさんと古いお知り合い?って言ってたし)


 恐さを誤魔化すために手元のビールを煽る。口の中に広がるホップの豊かな香りと独特の苦みは最近知ったものだ。アルコールが飲める歳になってから嗜む程度に口にしていたが、この晃満が持ってきたクラフトビールは美味しい、と祈吏に笑顔が戻る。


「それ、美味しいっしょ。この前石川県の方に行ってきた時に見つけた醸造所で仕入れたやつなんだ」


「はい。さわやかな口当たりでとても美味しいですね。……ところで、お話を戻してしまうのですが」


「うん?」


「晃満さんは夢前世について、ご存じなんですね。……正直、自分はまだ『前世の魂の記憶を辿る』って行為に、謎が多いのですが。晃満さんはそういったことに詳しいのでしょうか?」


「あー。詳しいといえば詳しい? のかね。そもそもヨッちんが魂専門ってカンジで、俺はどっちかっていうと心霊専門だから、ちょっと毛色は違うかも」


「…………魂と心霊、って違うんですか?」


『魂』という言葉にはまだ慣れてきてはいた。だが『心霊』という夏場のテレビ番組で見かける単語を耳にして、祈吏は喉の奥がひゅっとなるのを感じつつも問いかける。


「違うよぉー。いや、元は同じなんだけど。ええと、ヨッちん! 祈リンにどこまで話してオッケー?」

「それについては吾輩から話そう」


 ガゼボの下のカウチで寝そべっていたヨゼが上体を上げ、手探りで皆がいるテーブルの方へ腰を移動する。

 その様子を見た祈吏が、付き添うようにヨゼの元へ駆け寄り、片手を支えた。


「……お話、お願いします」


 ヨゼの傍らにあった小さなキャンプチェアに腰掛け、祈吏は意を決した表情でそう答える。

 その様子を晃満はビールを一口含んで見守っていた。


「……魂はめぐるが心は肉体と共に朽ちる。だがごく稀に、魂と共に心が廻ることがあると以前話したのを、祈吏くんは覚えているかい」


「はい、覚えていますけど……イデアさんの心を黒須さんが持っていたあれですよね?」


「そう。魂と共に心が転生すれば、前世の癖が次の世で現れる。それは心が魂と共に存在し続けたからだ。……では『心が朽ちず、魂と共に廻らず、留まったら』どうなると思う?」


 その言葉に祈吏はきょとんとする。だがその言葉の意味を少しずつ理解し、みるみるうちに顔が青ざめた。


「祈リン、だいじょぶ?」

「だ、大丈夫です!」


 祈吏は手元のビールを煽り、喉を鳴らして飲み干す。そしてすっくと立ち上がると、一直線にクーラーボックスへ向かい『もう1本いただきます!』と叫んでからクラフトビール2本目を開けた。


「あはは、好きなだけ飲んじゃってよ。でも無理は禁物だかんね」


 そう言いながら晃満は戻ってきた祈吏に水のペットボトルを手渡す。

 そして祈吏が元いたキャンプチェアに腰掛け、ふうと息を吐いたのを見計らい、晃満が口を開いた。


「まあ、ヨッちんが言った通りシンプルなものだよ。簡単に言えば、心霊とはその名の通り『心』そのものなんだ。魂から離れても朽ちずに残った生前の心。そこに魂自体はない」


 晃満が手元のビールを掲げ、琥珀の向こう側にいる祈吏を見つめる。


「残り香のような自己の認識が不安定なものもあれば、魂のコピーとして自立しているものまで、程度は様々。そんな霊たちの声を聞いて、浄化――ヨッちんが言うところの『解放』の手伝いをするのが、俺のもうひとつの仕事ってワケ」


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