3-6話 庭園での歓迎会1
「――我がカウンセリング室の仲間入りをしてくれた祈吏くんに心より感謝を込めて。それでは、乾杯!」
晴天に各々のドリンクが入ったゴブレットグラスが掲げられ、賑やかに祈吏の歓迎会は幕を開けた。
マテオは鉄串に連なる焼けた肉を手慣れた様子で切り落とし、ティパルが手際よく配膳する。
今しがた切られた肉を口いっぱいに頬張る狛ノ介は、普段の仏頂面が嘘のように朗らかだった。
「祈吏さま、お好きな部位を仰ってくださればお取りいたしますわ」
ポニーテールに白いリボンを結んだティパルがトングを持ってそう言った。今日のメイド服はデニム生地でひざ丈のジャンパースカートに、白のブラウスだ。メイド服のこだわりをそのままに、BBQの場で動きやすい服装にしてきたティパルに感心をしつつ、祈吏は並べられた肉を一望した。
「色んなお肉がありますね……じゃあ、マテオさんのオススメをいただけますか?」
「拙者の推しはピッカーニャ、イチボとミスジですぞ!」
「はあい、こちらとこちらですね。どうぞ、祈吏さま」
「ありがとうございます! いただきます」
ティパルから肉が丁寧に盛られた皿が手渡され、祈吏は『イチボ』――牛の臀部の肉を口へ運んだ。
(……これは、美味しい)
外側の焼けた部位は香ばしく、焼き目がほどよくカリッとしている。そして噛みしめると赤身肉独特のさっぱりとした肉汁が口内に広がり、感嘆の溜息を吐いた。
「焼肉形式のBBQは経験ありますが、ブラジル式のBBQは初めてなので……今、感動しています」
「フッフ……そうでしょう。シュラスコを知ってしまったら、もう後には戻れませぬぞぉ~」
得意げな様子で髪をかき上げたマテオが笑う。その様子から肉焼きにただならぬ自信と矜持があることが伺えた。
「祈リン~、アルコールはイケるクチかな?」
「あ、はい! お酒なら大体好きです!」
テーブル脇に置いてあるクーラーボックスを開こうとした晃満が祈吏に声をかける。
その返事を聞いた晃満はにんまりと笑うと、クーラーボックスの蓋を大きく開いた。
「良かった~! そしたら全国各地のクラフトビール持ってきたから、好きなの飲んでね!」
「わっ、すごい! こんなにたくさん……!?」
氷の上にびっしりと並ぶのは、様々な地名が書かれた華やかなラベルのビールだった。
「色んなところに行く仕事してるから、そのついでに買ってきたのよ。ど? 気になるのあるかな」
「ありがとうございます! じゃあこれをいただいてもいいでしょうか」
「もちろん!」
そんなやり取りをしていると、肉を頬張っていた狛ノ介が顔を出す。
「ん、なに。コマ介も飲む?」
「これうめーの?」
「ウメ―よぉー。俺のオススメはね、この新潟のやつかな!」
「ふーん。じゃあそれくれ」
「あいよっ」
晃満が薦めたボトルビールの栓を抜き、受け取ろうと手を伸ばした狛ノ介に手渡そうとする。
すると、どこからともなく降りてきた白魚の指先が、その1本を取り上げた。
「コマさん。貴方にアルコールは半年早いですわ」
「ハ。これ酒かよ」
「えっ……狛ノ介さん、もしかして未成年だったんですか?」
祈吏の問いかけに対して狛ノ介は不機嫌そうに眉をしかめる。それは『だったら悪いか』とでも言いたげに見えた。
「あっぶねー! あやうく未成年者に酒飲ますところだったし! パルちゃん止めてくれてありがと!!」
(半年早いってことは、今19歳ってことか。……狛ノ介さん、学年ひとつ下だったんだな)
「祈吏さまはお酒お好きなのですね」
「はい。とは言っても自分も飲み始めたのは去年末からですが。……ところで、皆さんにひとつお願いがありまして」
「はい?」
「自分がもし3本目を飲もうとしたら止めてください」
「……はい。承知しましたわ」
ティパルは何も聞かず、にっこりと微笑み承諾する。
その会話をガゼボの下で耳にしていたヨゼは、手元のトロピカルドリンクをストローで飲み干した。