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3-5話 晃満

 黒いセットアップの胸元にヨゼと色違いのサングラスを掛け、金メッシュの入った黒髪ワンレンの男性が祈吏へ振り返る。


「祈リン、今日は来てくれてどうもありがとう! 肉に魚介にデザートまで用意したから、たくさん食べてってね!」


「は、はい。ありがとうございます……晃満あきみつさん」


 海老串を手に持ったまま、晃満と呼ばれた男は祈吏に歩み寄り、甘い微笑みを称えた。

 その気配を察知したヨゼが、カウチから上体を起こして口を開く。


「晃満、祈吏くんが引いてるから離れなさい。あと訂正しろ。そもそも吾輩が祈吏くんの歓迎会をしようと考えていた矢先に、お前が先走ったんだぞ」


「あのなーヨッちん。こういうイベントはスピードが命なの。 先に俺が言った時点で俺が発案者になるのよ~」


 晃満はしてやったりといった様子でヨゼにウインクをする。ヨゼにその姿は見えていないが、珍しく不満そうに口先を尖らせた。


(ヨゼさん、晃満さんと話す時はなんだかいつもと雰囲気が違うな)


 ――祈吏が晃満と初めて出会ってから、まともに会話するのはこれで2回目だ。

 カウンセリングを終えた黒須を見送ったあの日、晃満がヨゼを訪ねてきた日のことを思い出す。


(あの時はまさか名前を言い当てられると思ってなかったから、本当に驚いた……)




「――あれ。もしかしなくても遠橋祈吏とおはしいのりちゃん?」

「え。……はい、そうですが」


 サングラスを外した晃満は祈吏を見ると目を丸くし、その名前を口にした。

 突然初対面の相手から己のフルネームを口にされたため、祈吏は驚いて硬直したが、晃満は目を爛々と輝かせて敷地内に脚を踏み入れたのだった。


「急に驚かせちゃってごめんねー! 初めまして、俺は花牟礼晃満はなむれいあきみつ。ヨッちんの古い友達でーす」


「えっ? ど、どうも、初めまして。バイトの遠橋祈吏です」


 しどろもどろになる祈吏を晃満は口元に手をあてながら、まるで美術品を眺めるかのように見つめる。


「……会って秒で聞くのも失礼ですが。キミ、占いとかキョーミない?」


「占い、ですか?」


「そう! キミすっごく向いてるよ。 もしキョーミあれば俺がレクチャーするから、よかったら俺の店に来ない?」


「お店に、レクチャーって、ええ?」


「ああ、俺占い師やってるの! 店は恵比寿にあってね、こっからだと距離あるけど、勿論交通費は出すし――」


「おい。アンタはヨゼに用があんだろ。さっさと行け」


「うおっコマ介いたの? 久しぶりぃ。少しのお喋りくらい見逃してよー。俺、この子に会いたかったんだからさ」


「うるせえ。こっちは庭の手入れしてんだ。失せろ」


 晃満の服を掴み制止したのは狛ノ介だった。

 そしてそのまま、晃満はヨゼの元へ連行され――その後、邸から帰る晃満を見送る時には、既に『祈吏の歓迎会』の予定が立っていたのだった。




(晃満さん、何であの時占いに誘ってくれたんだろう。今日はどこかのタイミングで真意を聞けるといいけど……)


「わーマッさん肉焼くの上手いね。何したらこんなサイズ違いの肉を全部綺麗に焼けるの?」

「フッフ、拙者はお猫たまと植物の次に肉焼きに命を懸けてますのでなぁ」

「へー、頼もしすぎる」


(……晃満さん、自由だな)



 祈吏から見た晃満は謎な点がたくさんあった。

 見たところ若いがどうみても祈吏より年上の男性だ。上面の言動こそ軽い印象だが、節々から放つ余裕と色気のある振る舞いは、20代にはまずない雰囲気を醸し出している。

 そんな晃満はヨゼと昔からの友人、と言っていた。


(ヨゼさんの年齢について、はっきりと聞いたことはないけど……もしかしたら晃満さんと同い年くらいとか? ……流石にそれはないか)


 晃満の登場により、ヨゼの謎は深まるばかりだった。


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