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2-33話 黒髪の被疑者1

「ティトゥスくんはコロッセウムがとても好きなようでね。特に獣の闘いが好きで、午前の獣試合はほぼ毎日観戦に来ているらしい」


「そうなんですか。毎日来るのも大変そうですが……娯楽として捉えているのであれば、欠かせなかったんですかね」


「かもねぇ~。ええと、彼の観覧席はここだよ」


 地下道を出て柱廊を通り抜けると、アリーナに程近いとある部屋の前で脚を止める。

 出入口は紫色の厚いカーテンで仕切られており、護衛兵だろう鎧をまとった男が槍を持って立ち構えていた。


「ごきげんよう。ティトゥス様はいらっしゃいますか?」

「ヨゼ様! はい、こちらに居られますが……今は午前の試合を観戦されております。お約束はされておいでですか?」


 護衛兵はヨゼの顔を見ると驚いたように目を見開いたが、すぐに背筋を伸ばしそう答えた。

 ティトゥスと約束はしていない。普段はそういった約束があれば、事前に情報を共有しているのだろう。ヨゼの訪問は予定外といった様子だった。


 けれどヨゼは顔色を変えず、にこやかな笑みで口を開いた。


「こちらの白虎の狛ノ介を、ティトゥス様にお譲りしようかと思いまして。一度お話をさせていただけないでしょうか」


「んだよそれ!?」


(ヨゼさん、土壇場の出任せが本当にお上手だな……)


 狛ノ介は不服そうに咆えるが、ヨゼはしらを切った。


「ほおお……その白虎をですか」


 それまで訝しげだった護衛兵の顔色が変わり『確認してまいります』と言葉を残し、カーテンの向こうへ消えていく。

 そして1分もせずに、目をらんらんと輝かせて戻ってきた。


「是非お話伺いたいとのことでした! ささ、どうぞ。中へお入りください!」

「ありがとうございます」


 ヨゼは笑顔を崩さずそう答えると、隣にいた狛ノ介に声をかける。


「コマ、噛みついたらダメだよ」

「するかっつーの」


 室内へ入るとヨゼのテラス席と似た空間が広がっていた。しかし大きく異なる点があった。置いてある家具が全て豪奢で、派手で、白と黒に統一されている。


 その中央には玉座と言っても過言ではない椅子が、背を向けてそびえ立っていて。

 ヨゼたちが入ってきた気配を察して、部屋の主が椅子から立ち上がった。


「これはこれは! ヨゼ嬢、本日はお声かけいただき至極光栄です!」

「突然訪ねてしまったところ、快くご対応いただきありがとうございます」

「当たり前でしょう!その白虎を譲ってもらえるなんて、応じないはずがない!」


 興奮状態のティトゥスは黒い髪を揺らし、ヨゼの横にいる狛ノ介と祈吏の方に視線を向ける。

 祈吏のことはほぼ眼中になく、狛ノ介だけをギラギラとした瞳が映した。


「……狛ノ介をお渡しするかどうかは、まだ決まっていませんわ」


 表情は穏やかだったが牽制するようなヨゼの言葉に、ティトゥスは怯える様子もなく食らいつく。


「そんな! 条件を伺いましょう。どうしてもこの白虎も欲しいんです。この白虎が手に入れば、僕の両脇は完璧になるのですから!」

「……白虎も、ですか?」


 祈吏がふと声を挙げる。それは言葉のニュアンスから違和感を感じたためだった。

 その疑問の声にティトゥスはぎくりとした顔をしたが、すぐに咳払いをして誤魔化す。だが、ヨゼが追撃するように言葉を重ねた。


「あら。両脇だなんて。まるで一対いっついの片割れがいるような口ぶりですわね」


「はっはっは。なに、言葉のあやです。僕は美術品の収集家なのですよ。白虎の他に欲しいものが沢山あるのは当然でしょう」


 白々しく笑うティトゥスの背後、窓の向こう側では――アリーナで2頭のライオンが闘っているようだった。獣の咆哮と共に、民衆の歓声が響いてくる。


 そんな中、ヨゼはティトゥスを真っ直ぐ見据えた。


「今、ティトゥス様が一番欲しいもの。それは『イデア』なのでしょう」


「……ヨゼ嬢、一体何を仰りたいのですか?」


「あら。では単刀直入に聞きましょう。今朝起きた獣使いの殺人は、貴方が関わっているのではないですか?」


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