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2-25話 ローマ市内の夜道

「素敵な宴にご招待いただき、本当にありがとうございました。今晩のことを一生忘れません」

「こちらこそ。お二方と過ごせて、とても楽しかったですわ」


 夜宴も終わりを迎え、ヨゼと祈吏はコロッセウムへ帰るアビたちを見送りに邸宅前まで出ていた。


(結局宴会中に狛ノ介さんは戻ってこなかったな。……お腹が空けば帰ってくるかな?)


 祈吏はそんなことを考えながら、夜宴中に行儀よくアビの隣に寄り添っていたイデアへ視線を向ける。

 闘技場で闘っていた時の姿からは想像できないほど従順な黒虎の様子は、まるで飼い猫のようだった。


(黒須さんの印象とは、だいぶ異なるんだよな……でも、アビさんが言っていたプライドが高いって言うのは、なんとなく分かったかも)


 イデアは夜宴中大人しくはあったが、祈吏やヨゼ、同種である狛ノ介を終始視界にいれなかった。

 それどころかアビ以外に顔を向けようともしない。物音がすれば耳を動かし横目に見ることはあったが。その冷ややかな視線は己が気にかける必要はないとでも言うような、王者の風格を感じるものだった。


「ですが、本当にコロッセウムまで徒歩で帰られるのですか? 行きと同じように、レクティカをお出ししますよ」


 先ほど、帰りの輿――レクティカを断ったアビに、ヨゼが問いかける。


「いえ、流石にそこまでお手は煩わせられません。そこまで離れていませんし、イデアも一緒にいるんで何があっても大丈夫ですよ」

「そうですか……ですが確かにイデアくんなら、どんなトラブルでも解決してしまいそうですね」


 ヨゼは別れの挨拶としてアビに柔らかく微笑む。

 その天使のような微笑みにアビは一瞬紅潮したが、咳払いをしてから深く頭を下げた。


「またお目にかかれれば光栄です。では、失礼いたします」


 アビはイデアを引き連れ、火が灯るカンテラを手に邸宅を後にしていく。

 その背中を目にした祈吏に――刹那、嫌な予感が胸をよぎった。


「……ヨゼさん。自分、お二方を送ってきます」

「送っていくって、まさか徒歩で?」

「はい。なんか胸騒ぎがして……早く行かないと、見失っちゃいます!」

「ちょ、ちょっと待って! せめて一緒に行こう。流石に祈吏くん1人じゃ心配だよ!」

「ヨゼさんは今お嬢様なので、悪い人に見つかったら大変です。自分はただの市民にしか見えませんし……大丈夫です! 行ってきます!」

「祈吏くんっ!」


「コロッセウムまで遠くないので、心配しないでください!」


 祈吏はヨゼにそう叫び、遠くなったカンテラの灯りを追いかける。

 残されたヨゼは『即行動派なんだから』とひとりごちた。


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