2-21話 それぞれの拘り
(イオラスさんの言うことを信じると、イデアさんが故意的に殺人を犯したってことだよね……? それって狛ノ介さんが言っていた、アビさんの調薬室での出来事と関係ありそう)
イオラスの憎しみのオーラに、祈吏は一瞬気圧される。けれど詳細を聞く必要があるに違いないだろう。
「あの。思い出していただくのは辛いことかと思いますが、恩師さんが亡くなられた時の詳細を教えていただけますか」
「それは……聞いたってどうしようもないことさ。むごい話だし、恩師も無念だったろうから、吹聴するようなことはしたくないな」
イオラスは祈吏の真意を見定めようとする瞳にハッとなり、はぐらかす。それは『うっかり口が滑ってしまった』とも取れる素振りで。
「そうですか……不躾なことを言ってしまい、申し訳なかったです」
「気にしないでくれ。ああ、そういえば今日はその恩師の墓参りなんだ。そろそろ失礼するよ。じゃあまたどこかで」
「あっ、お時間いただきありがとうございました!」
イオラスは手に持った花を掲げ、石碑が立ち並ぶ向こうへと去っていく。
その一言でようやく、今自分たちがいる場所が墓地なのだと気付いた。
「ここ、お墓だったんですね。にしても、イオラスさんのあの言葉……気になりませんか?」
「知らね。けどアイツが獣を知ったかぶってんのはよーく分かった」
「えっ。でも元獣使いだったって言ってましたよね」
「見て分かんなかったのなら、アンタの観察眼がなってねえな」
「はあ……」
狛ノ介の指摘を受け、僅かの間に交わされたやり取りを振り返る。
(そんな違和感はなかったけど、言われてみれば確かに引っかかるものがあるかも……? そのうちピンとくるかな)
——そして、ふたりはしばらくした後、日が暮れる前にヨゼの邸宅へと戻ったのであった。
「オカエリっ!真っ暗になる前に帰ってきてくれてよかったあ」
「ただいまです。昼間は賑わっていた通りが、軒並み閉まってて驚きました」
邸に入るなり待ち構えていた笑顔のヨゼに出迎えられる。
ヨゼは祈吏の背後にいるむすっとした顔の狛ノ介を見て、にや〜と口角を上げた。
「帰りはラクだっただろうけど、行きは大騒ぎだったみたいね? コマは加減ができなかったかあ」
「アンタらはいちいち口うるせーな」
狛ノ介がいつもの調子で歯向かう。ヨゼに指摘されたとしても、全くブレずに悪びれた様子はなかった。
「まあ小言はここら辺にして、今夜はパーティーだよ! さあ、ふたりとも手を洗って、夕食にしましょっ!」
「ごはんですか!? すぐに手洗ってきます!!」
「うわっ、早」
夕食という単語に祈吏は疾風のような速さで手洗い場へと走る。そのスピードにどん引いたのは狛ノ介だったが、祈吏の耳には届かなかった。