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2-12話 夢前世での合流


(迷ってる暇はない!)


 祈吏は決心し、手元の鍵を錠に差し入れ、鉄格子の扉を開ける。


 ――瞬間、黒虎のは双眸が光り、咆哮と共に飛び出した。


「グオォオン!」

「うわああ! こっちに来るな!!」


 全身の筋肉を唸らせるように、黒虎が剣闘士たちへ向かっていく。

 顔を真っ青にした男たちは今来た通路を全力で戻り去っていく。ほどなくして、肩をぶつけるように鍵を投げた男が走ってきた。


「イデア! 出られてよかったね……お嬢さんも協力してくれてどうもありがとう!」

「い、いえ! 自分は大したことしてないので。ところで、こちらの虎さんって……」

「イデアのことかい? 礼をちゃんとしたいところなんだが、このあとすぐに試合があるんだ。またあとで会おう!」


 茶色い短髪に半袖と腰巻きの質素な服装、そして特徴的なペンダントをした男は、黒虎――イデアの額を優しくなでる。

 その愛撫を穏やかな顔で受け入れた黒虎は男に促されるがまま、その場を去っていった。


「……一体何だったんだろう」


 その様子をぽかんとした表情で見送る祈吏。手元には牢を開けた鍵が残されている。

 そんな祈吏の背後に忍び寄る、ひとつの小さな影があった。


「祈吏くん、こんなところにいたのね」


 通路に響く、凛とした高い声。


「その呼び方は……」


 振り返った先には、石壁から漏れる陽の光が満ちている。

 その中心で、虹色の瞳を持つ少女が微笑んでいた。


「どこにもいないから探しちゃった! 見つかってよかった」

「ヨゼさん、ですよね。でも、そのお姿は一体……」


 祈吏の目前にいる少女は、確かにヨゼなのだろう。

 けれど以前福田の前世で見た警官姿――成人男性の姿ではない。今目の前にいるその人物は、16歳程度に見える少女だ。

 金色の長いくせっ毛をツインテールにまとめており、身にまとう衣装は宝石が散りばめられ、真紅の生地にドレープがつき、肩が見えるゆったりとしたドレスで……現実とも全く異なる様相だった。


「さあ、早く行かないと始まっちゃう!」

「へ!? あの、行くってどこへ!?」

「ふっふー、着いてくれば分かるよっ!」


 ヨゼは祈吏の手を取り、通路の脇にあった階段を駆け上がる。どこからか聴こえてくる歓声に気を留めず大きな回廊へ出て、ひと際大きな門を通ると、雑多だった通路が急に煌びやかで厳かな空間に変わる。

 それはどこか中東を思い出すような装飾が施された空間で、祈吏は黒須の前世がどんな世だったのかを薄々気付き始めていた。


「ヨゼちゃんたちの観客席はこっちだよ」


 ヨゼが祈吏の手を引きその空間に脚を踏み入れた瞬間、歓声が今までで一番近くなる。

 そこは広々としたテラスだった。

 一面大きな窓と、赤い絨毯の上にはソファが2脚、景色を眺めるように置かれている。

 そしてヨゼははしゃいだ様子で、その窓辺へと祈吏を引っ張っていった。


「ほら、もう試合が始まるところだね!」

「あ……」


 ――ヨゼが指さした空間には、歴史の教科書でしか見たことがない空間が広がっていた。


「黒須さんが前世生きた時代は1世紀ローマ。そしてここはローマ最大と言われたコロッセウム。時空は少しずれてるけど、そんなに大きな乖離はないみたい」


 ぽっかりと楕円形にひらけた空間に、複数の剣闘士たちが入場している。祈吏たちがいる席は闘技場から最も近い位置で、少し身を乗り出せば土埃が目に入りそうなほどだ。


「そう、だったんですね……なんだか納得しました」


 あの目を覚ました時に見た剣闘士たちの姿も、牢に入れられた黒虎も――祈吏自身が着ているヨゼと似た形をした、真っ白なドレスも。


「ヨゼさん、黒須さんの夢前世では女の子になってたのでびっくりしました」

「そう! ヨゼちゃんココでは女の子でした! かわいいでしょう~」


 そう言いながらヨゼはくるりと周りスカートを翻す。長いツインテールが後を追うさまは、確かに華やかで愛らしい。


「以前も教えたように『夢前世の中ではその世にふさわしい姿になる』から。どんな姿になるか、毎回楽しみでしょう?」


 そう悪戯っ子のようにヨゼは微笑む。祈吏はそんなヨゼの『想像を超えていく自由な存在』であることに対して敵わないなと肩を竦めた。


「ところで、狛ノ介さんはどちらへ?」

「コマはね、あそこ」


 そう言い指さしたのはアリーナだった。

 上半身以外を防具に身を固めた半裸の剣闘士たちが士気を高めている。


「あの中に狛ノ介さんが!? 自分視力2.0ありますが、みんな兜被ってて分からないですね……」

「祈吏くん、目いいんだねえ。コマはね、これから出てくるよっ」


 ヨゼは祈吏の腕にぎゅっと腕を回し、共に窓の向こうを眺める。

 その仕草はまるで祈吏の高校時代にいた懐っこい女友達のようで。そんな懐かしさに浸っていると、客席の歓声がひと際大きくなった。


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