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2-5話 躾と信念

「あら。皆さまお揃いで」

「ティパルさん! 先ほど戻りました。これ、お使いで頼まれてた牛乳です」

「ありがとうございます! 祈吏さまのおかげで、カウンセリングのお茶のご用意ができますわ」


 ティパルは牛乳を今しがた押してきたティーワゴンに置くと、その隣にあったアイスティーのポットを手に取った。そのほかにワゴンの上にはゴブレットグラスが3つ置かれている。


「ヨゼさまご所望のピーチアイスティーですわ。どうぞ祈吏さまもお召し上がりくださいな」

「ありがとうございます、ちょうど喉が渇いてたのでいただきます!」

「ティパル氏、拙者も一杯いただいてもよろしいですかな?」

「ええ、どうぞ」

「この時期に庭で飲むピーチアイスティーは格別なのだよ」

「ぷみゃーん」

「ミャプちゃんはお水をあげましょうね」


 皆がティパルをわいわい囲むなか、少し遠巻きに見ていた狛ノ介が口を開いた。


「おい、俺サマにもよこせ」

「もう……コマさん。貴方は人へのお願いの仕方をそろそろ覚えてくださいまし」


 つーんとした顔で狛ノ介を見やる。そんなティパルに対して狛ノ介は反抗するようにフンと鼻を鳴らした。


「ほらまた。人としての礼儀がなってないですわ。何よりもヨゼさまへの敬意が足りていない方にはわたくし、厳しいんですの」

「ティパル氏はヨゼ氏絶対至上主義でありますからな」


 マテオの言葉にティパルは頷きながら、祈吏にアイスティーを手渡す。


「なんでその人間にはやるんだよ」

「祈吏さまはヨゼさまに対して敬意がありますもの。それに、ご相棒兼クライアントさまでもありますからね」


 そう言うといつもの柔らかな笑みで祈吏にウインクをした。

 相棒うんぬんについてはヨゼが勝手に言っていることだったが、確かに夢遊病の解決をヨゼにも頼んでいるので祈吏は相談者という立場でもある。

 それは置いておいたとしても、ティパルは祈吏を気に入っている節があった。


(ティパルさんに、特別扱いされてる気がしなくもないけど……正直悪い気はしない)


 そんなことを考えながら祈吏はアイスティーを受け取り、ちびちび飲みながら狛ノ介とティパルのやり取りを見守った。


「コマさんが態度を改めずに私に命令をしたいのであれば、アレをお使いくださいな」


「アレ……? ってなんのことでしょうかね」

「ティパルはああ見えて、色々きっちりしているのだよ」


 疑問を浮かべた祈吏に、ヨゼが補足する。


「ティパルは相手に思うところがある場合は奉仕しない。そもそも彼女の本職は別にあり、使用人というていは趣味みたいなものだからね」

「え、ティパルさん本職が他にあるんですか?」

「平たく言えばヨゼ氏専属で何でも出来る使用人なのですぞ」

「はあ、なるほど」


 それは使用人なのではないかと思いつつも、ティパルのメイド服は趣味、と言っていたのを思い出す。

 邸や景観のせいもあって使用人として仕えているのだと祈吏は思い込んでいたが、確かにティパル自身が使用人と名乗った覚えはなかった。盲目のヨゼの身の回りの世話をしている、という点を考慮すると『ヨゼ専属』という肩書きも腑に落ちる。


「それはさておき。コマがティパルに給仕させるには、ティパル使用券を使わないとならないのだよ」

「ティパルさん使用券……とは、一体なんでしょう」

「10枚綴りで900円。実質してくれることはお茶汲みくらいだから、喫茶店の回数券みたいなものだね」

「狛ノ介氏の態度を改めて欲しくて導入されたようでしたが、狛ノ介氏の確固たる信念はなかなか変えられませんな」


 マテオがアイスティーを飲みながら苦笑する。表情は優しいのに太い首に刻まれたタトゥーが喉仏に合わせて上下するさまはやたらと迫力がある。


 ティパルに対して狛ノ介は睨みを利かせていたが、ふいにライダースジャケットの内ポケットから手書きの回数券を1枚取り出し、ティパルに突き付けた。


「ふん、これでどーだ」

「毎度ありがとうございますわ」


 機械的な礼の言葉を述べたティパルはティーワゴンの下の台からグラスを取り出す。

 そして狛ノ介にピーチアイスティーを『どうぞ』と手渡すと、礼の言葉もなく受け取り飲み始めた。


(狛ノ介さんも、多分ここのスタッフさんなんだろうけど……一体どういった役回りの人なんだろうか)


 そう疑問を抱きながら狛ノ介を見つめる祈吏に、ヨゼは気が付いていた。

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