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第38話-夢前世からの帰還

宇宙が遠のいていき、黄昏色に染まった丸い天井がぼんやりと浮かびあがってくる。

そして、意識が『現実』に戻ってきたのだと理解した。


「っフーゴさんは!?」


祈吏は飛び起き、室内を見渡す。

そこはヨゼと共に夢前世へ入ったプラネタリウムの部屋で、いつのまにか開かれた窓から夕陽が射しこんでいる。

現代の風景と、覚えのあるアロマの残り香。そしてベッドの脇に置かれた祈吏の靴は現実で履いていたもので。


「本当に……全部、夢だったんだ」


「っく……ははははは!」

「え、ええ!?」


寝ていたヨゼの大笑いにぎょっとするのも束の間、ヨゼは跳ねるように飛び起き、祈吏の肩を掴んだ。


「祈吏くん! 君は最後の最後で認めたね!? 君の幸運は偶然じゃない、それは類稀なる直感だろう!!」

「あ——……」


今まで誤魔化していた図星を突かれて、言葉を失う。

けれどヨゼは見えていないはずの目を爛々と輝かせて続けた。


「幸運というものは『偶然』起きるものだ。だが君が随所で起こした奇跡は君自身が『確信』していただろう」

「それはー……はい」

「カード勝負でのそれは直感を卓越し、まさに『霊視』に近い業だったよ」

「あれは本当に偶然です!」


『霊視』という単語にホラー的な印象を抱き、ひやっとした祈吏は全力で否定する。

けれどヨゼは全て見透かしているかのように、余裕のある表情で訊ねた。


「何故それほどの能力ちからを隠したのだね?」


「昔、この力のせいでちょっと色々ありまして。……それからはあまり人にバレないようにしていました」


「もったいない!! それは生かすべきてんからの贈り物だよ」


ヨゼは祈吏の手を取ると胸元でぎゅっと握りしめ、優しく、けれど凛然とした笑みを称えた。


「フーゴさんの『未練』は愛した妻の子に会わず死んだことだった。それを君が解き、更には踏ん切れなかった『真実と向き合う』覚悟を決めさせたのだよ」


「だからこそその先の真実を受け入れて、執着していた全てを手放せた。全ては君がいたからこそ導けた景色だ! 君も見ただろう、彼の蕾が花開く光景を」


ヨゼは自身の額をトントンと指さし、嬉しそうに口端を上げる。


「にしても、君がフーゴさんに向けた言葉には胸を打たれたなあ。まさか吾輩と同じ志を持つ人間がいて、しかもこんな素晴らしい才能を持っているとはね……」


ひとり嬉しそうに頷くヨゼが、何を言いたいのか祈吏はいまいち読めていない。

今ここで聞けばどうなってしまうか、その時ばかりは予想ができていなかった。


「あの、ヨゼさん。お言葉ですが先ほどからお話が見えないのですが……」


「では端的に言おう。吾輩は『この世の生命の全てを知りたい』のだよ!」


探究心と好奇心に満ちた虹色の瞳に、祈吏の狼狽えた顔が映る。


「前世から来世へ魂が廻り、背負ったごうがどのように作用するのか、その先で魂はどうなっていくのか……万物の営みの先にある極点を見たいのだ」


「は、はあ」


その興奮っぷりに押され過ぎて、半ば怯えさえ感じ始めている祈吏に構わず、ヨゼは自身の人差し指を口元に寄せた。


「祈吏くんに提案だ。吾輩と共に、さまざまな前世の未練を解放したくはないかね」


「え——……」


そう言ったヨゼの瞳には、夢のような紫、澄んだ青空、森の新緑。春を思い出す桜に、月に似た金色――この世の色彩全てが揺らめいていて。


目の前の人物が『人ではない何か』だと、直感した。


「何より、祈吏くんがいると全部推理してくれるし! 超ラク!」

「推理だなんてとんでもないです……! それに、自分がヨゼさんのお役に立てるとはあまり思えないですし――」

「なのでバイトの本採用、前向きに考えてもらえないかな。 ――吾輩の頼れる相棒くん」


結局その後、ヨゼの追撃から逃げるように祈吏は帰路に着いた。


怒涛の1日を終えた晩、アルバイトの誘いについてはよく考えてからにしようと思いながらベッドに潜る。ヨゼが夢前世で『君は僕よりよっぽどカウンセラーに向いてる』と言った意味を、なんとなく理解しながら。

夢前世で味わった深い眠りに思いを馳せる暇もなく、瞼を閉じれば睡魔はすぐにやってきて。


そして、目覚めた翌朝――枕元には鮮やかに描かれた食卓の絵が置かれていた。


次話で一旦一章を区切ります。

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