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第33話-もう1通の手紙

「奥さまと夜警さんが関係を持ったのが、失踪の直後ではなく数ヶ月前だったとしたら——……失踪時に身ごもっていた?」


その言葉にヨゼは神妙な面持ちで深く頷く。


「フーゴさんは言っていなかったけど、恐らくそうだろうね」


「心中察するに、妊娠中どちらの子供か分からなくなった奥方が自責の念から失踪した、という経緯がありえそうだ」


「そして、暮らしていた修道院で命を落とした……ということですか」


「ああ。 ……これでフーゴさんの未練の正体まであと一歩だ」


「でも、そうなるとお子さんがいるかもしれないってことですよね。 ……そのお子さんは、今どうされてるんでしょうか」


「それは流石に分からない。だが、彼が子供の靴を大量に作っているのと何か関係していそうだ」


「言われてみれば確かにそうですね。 ……でも、何だろう。まだ何か引っかかるんです」


「……ここから先は、本人に直接聞いてみるのがよさそうだ。靴屋へ行ってみよう」


そう言い、ヨゼが席を立ったところで外がピカリと光る。

間もなくして天井からざあざあと雨音が響いてきて、祈吏も急いで立ち上がった。


「なんだか、胸騒ぎがします……早くフーゴさんのところへ行きましょう!」

「ああ。 ……君のカンは当たるからね」


祈吏はヨゼの外套の内側に入り、雨を避けながら靴屋へ急ぐ。

時刻は既に昼前。店はとっくに開いている時間だが、扉前の看板は『本日閉店』のままだった。


「おかしいね。先ほどまではいたのに……」


ノックをするが返事はない。ヨゼがドアノブに手を伸ばすと、その扉は開いていた。


「……中へ入ってみよう」

「はい……!」


違和感を感じ、店内へ入る。

そこは昨夜と変わりない空間だった。強いて言えばカウンター奥の作業場の石油ランプが点けっぱなしなくらいで。


「施錠もしていない扉に、点いたままのランプ……。どこかへ慌てて出かけた、という感じかな」

「そうですね……でも、この大雨ですよ。一体どこへ……」


祈吏は朝に忍びこんだカウンターの奥を見やる。

そこには先ほど見かけた『修道院からの手紙』が封を切られ、便箋が開いたまま放置されていた。


「ヨゼさん、これが今朝見かけたもう1通の手紙です……!」

「なるほど。フーゴさんには悪いが、拝見させていただこうか」



――前略 フーゴ・シューマッハ様

以前ご質問いただいた『ラミシャの子』についてお返事差し上げます。

神に仕える身として偽れないため、その件については修道院長である私からお答えします。

彼女の子供は、この修道院で暮らしています。


達筆な字で綴られた文面に、祈吏は小さく肩を落とした。


「やっぱりフーゴさんはお子さんの存在について、ずっと苦悩されていたんですね」

「寡黙な彼のことだから、誰にも相談できずにいたんだろう」


がらんとした店内を見渡すと、外で稲光が落ちる。

落雷に震える窓硝子を見た祈吏は、フーゴの行方について思考を張り巡らせた。


「この手紙を目にして、急いで出て行ったのだとすれば……」

「……まさか、祈吏くん! 裏口だ!」

「えっ……!?」


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