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第28話-ランプの灯りに揺らめく推理 1

そう言うと、ヨゼは明るい大通りへ出てしばらく歩き、3階建ての白いアパートメント前で脚を止めた。


「ここが僕の家のようだ。さあ、中へどうぞ」

「あ、ありがとうございます……」


案内されるがまま、祈吏はヨゼの後ろをついて建物の中へ入った。

外観はお洒落なマンションのようだったが、中に入ってみるとこぢんまりとしたロビーのような空間がある。上の階へ登る螺旋階段は、壁沿いに続いている。


ヨゼは迷う素振りもなく上ると、階段に面するようにあったひとつの扉の前で立ち止まり、鍵を開けた。


「いらっしゃい。狭いけど、くつろいでね」

「お邪魔します……!」


真っ暗な室内に入ると、ヨゼは懐からマッチを取り出し、手慣れた様子で玄関キャビネット上にあった石油ランプに明かりを灯す。

今までの一連の流れを見ていた祈吏は、ヨゼが何故ここまでこの世界に馴染んでいるのかと不思議に感じた。


「ヨゼさん、この時代のことに詳しいんですか?」

「ん、そんなことはないよ。ただ分かるだけ」

「福田さんの前世の魂が、どんな世を生きてきたのか。教えてくれるから『解る』よ」


そう微笑むヨゼの横顔が、ランプの明かりに照らされる。


「はあ……そうなんですか」


理屈では理解ができなかった。

だがいま身にまとっている本来なら着なれない衣服や、異国どころか時代の異なる世界の空気がやたらと肌に馴染むのは、ヨゼが言った通り『福田の前世の魂』が伝えてくれているからなのではないかと、祈吏は思った。


ヨゼが石油ランプをリビングのローテーブルに置くと、おもむろに窓を開ける。夜の静謐な香りが融けた風が優しく室内に吹き込んだ。


「なんか、よくは分からないんですが……いま、自分がこの時代に存在するって気持ちになってます。言葉じゃ上手く言い表せないですけども」

「大半のものは『感覚的には分かるが言葉に出来ない何か』だからね」


ヨゼの回答は祈吏の心境をまさに言い表すものだったので、『だと思います』と短い言葉を返した。


「祈吏くん。今日1日色々な情報を仕入れたけど、ここまでを君だったらどう推理する?」


ヨゼは外套をコート掛けに置くと、ソファに腰を下ろす。

ローテーブルを挟んで祈吏も向かいのソファに腰かける。その光景はまさに現実でヨゼと祈吏が初めて顔を合わせた状態そのものだった。


「自分が感じた所感ですが……ひとまず、夜警さんは嘘をついていないと思いました」


「ただ、気になったのは時系列です。夜警さんと奥さまの関係がいつ頃にあったかは分かりませんが、失踪した1年半前より以前の出来事なのは確かです」


「そして奥さまが亡くなったとフーゴさんが知ったのは『約半年ほど前』です。……失踪から亡くなった報せまで、約1年の空白がありますよね」


「それって、奥さまが失踪してから1年間、どこかで暮らしていたってことでしょうか」


「ふむ。現在ある情報をそのまま鵜呑みにすればそうなるが」


「しかも、夜警さんとの駆け落ちではなく、奥さま1人でいなくなったってことですよね。……なぜなんでしょう」


「そのいなくなってからの間に何があったのか、自分は気になります」


「なるほど。祈吏くんは良い点に気付いたようだ」

「はぁ……」


首を傾げた祈吏に微笑むと、ヨゼは考え込むふうに肘をつく。そして目線だけを祈吏に向けて話を続けた。


「もし、奥方が亡くなられた報せが来た、というのが真実であれば。事件性の高いものではないのかもしれないね」


「……それって、どういうことですか?」


怪訝や憎悪ではない、純粋な疑問を感じた祈吏がヨゼを見つめる。


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