表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/120

第2話-夢遊病のはじまり

昨年11月25日。

祈吏いのり20歳の誕生日を友人のあんずと過ごし、しばらくした12月初旬のこと。


朝起きて、真っ黒に塗りつぶされたノートが勉強デスクに放置されているのを見つけたのが始まりだった。


起床してそんなものがあったから、祈吏は心底驚いた。

それは大学の授業で使うノートで、書き込んだページだけでなく、白紙のページも全て真っ黒に塗りつぶす勢いで何かが書かれている。


確かに寝る前授業の復習をしたけれど、ノートはいつも通り閉じてから寝た。

祈吏は1kの部屋で1人暮らしをしており、合鍵を渡した両親は遠方に住んでいる。

そのせいもあってまさか不審者が侵入したのかと戦慄せんりつしたが――ふと、自分の左手の平に黒いインクが付いていることに気付いた。


(気味が悪くなって、あのノートはすぐ捨てたなあ)


祈吏は競馬場からの帰りの電車に揺られつつ、外の景色を眺める。

睡眠不足の頭が重たい。あの時、抑え込まなければこんなに悩むこともなかったのかもしれない、とぼんやり思いふけった。



――ノートを捨てた翌々日、またしても事件は起こる。

次の犠牲者は学校の教科書で、凶器は黒の油性ペンだった。

しかもそれだけではない。犯行は悪化しており、教科書の枠を超えてデスク上にまで被害が及んでいたのだ。


(デスクは除光液でどうにかなったけど、流石に教科書は救えなかった……)


圧倒される程のおびただしい量の線と、何か形をとらえて描こうとしているように見えるそのさまから、絵なんだろうと推測すいそくした。けれど祈吏に絵を描く趣味はない。

だからもしかしたら絵じゃないのかもしれない、と思っていた。


(……あの部屋に帰るの、憂鬱だな)


元々、祈吏はホラーと呼ばれるジャンルに耐性がない。

だから『これは自分がしたことであって、心霊現象じゃない。肉体・もしくは精神的な問題があって起きていることだ』と自分に言い聞かせた。


その後、意を決して就寝中に何が起きているのか確認するため、

家じゅうのペンやノート、メモ等の筆記用具全てを大学のロッカーに置いてきて、1kの部屋が見渡せる位置にスマホのカメラを仕掛けてみた。


――翌朝、目を覚ますと、映像を確認するまでもなく何が起きたかすぐに理解した。


部屋の壁一面に真っ黒な絵。

それはノートや教科書に書いてあったものと同じ、おぞましい程の線の数。


けれど大きく描かれてやっと改めて、それが『何か形を捉えて描こうとしている』のがわかってしまった。

そして床にはレトルトのイカスミパスタの袋、海苔の佃煮瓶つくだにびんが空っぽで転がっていた。


その後録画を念のため確認してみたが、やはり描いていたのは祈吏自身で。

深夜2時頃に起き上がった祈吏は、デスク周りや棚等で書くものを探す素振りもなく、冷蔵庫まで一直線に向かい、何かないかと物色していた。


(掃除したらなんとか匂いは落ちたけど、色は壁紙クロスに染みちゃってたな……)

(イカスミパスタのソース、食べるのすっごく楽しみにしてたから本当に残念だった)

(にしても寝てる間の記憶は一切ないのに、身体はちゃんと寝不足なのはどうしてなんだろう)


賃貸の部屋を借りている身としてはこれ以上荒らされたくないこともあり、それからは観念かんねんして、百均で買った12色の色鉛筆とお絵描き帳をベッドサイドに置いている。

そうすれば『夢遊病が出た日』はそれに描いてくれるので、部屋の被害はある程度納まった。けれど私生活への影響は大きく、強烈な眠気に襲われながら大学へ通うのも一苦労。

解決には至っていない。


それに気味が悪いことがもうひとつある。

何故か使われる色は『黒』だけなのだ。


色鉛筆は12色入ってるのに黒ばっかりが短くなっていくそのさまは、祈吏にとって目を背けたい不気味さだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ