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第19話-靴屋の店主と緑の扉

その大男は遠目から見ても目立っていたので、見失うことなく尾行ができた。

しばらく通りを歩き、静かな路地に入る。そしてふいに立ち止まり、とある店に入っていく。


「ここは……靴屋さんでしょうか。 わあ!この時代の靴、とっても素敵ですね」


ショーウィンドウを覗いた祈吏は顔をほころばせる。

けれど並ぶ靴はどれも埃を被り、長く手入れされていない様子だった。


「ちょっと入ってみようか」

「ぱっと見だと営業中か分からないですもんね」


祈吏が先立ち扉を開けると、店内は薄暗い。

正面先にある奥のカウンターで、あの大男が酒瓶をあおっている姿が見えた。


「あ、あのー……ごめんください。少々お話よろしいですか」

「帰んな。今日は店じまいだ」

「そう仰らず。地域の治安維持にご協力いただけますと助かります」


祈吏の後ろから現れたヨゼを見た大男はくわっと目を見開いた。

憎悪と怒りに満ちた眼光に、祈吏の背筋に緊張が走る。


「警察がなんの用だ!!今すぐにこの店から出ていけ!!」


手に持っていた酒瓶を片手に立ち上がる。

これはまずいと思ったのか、ヨゼは咄嗟に祈吏の肩を引き寄せた。


「祈吏くん、一旦退散しよう」

「あっ、はい!」

「いやあ、お忙しいところ大変失礼しました。それではまた改めてお伺いします」

「二度と来るな!!」


逃げるように店から飛び出ると勢いよく扉が閉まり、施錠の音が響く。

緊迫の状況から脱したこともあり、祈吏はふうと息を吐いた。


「びっくりした……ヨゼさんの姿を見たら突然雰囲気が変わりましたね」

「ああ。どうやら警察に対して良い印象がないようだ。だが、福田さんの前世はあの人で確定だね」


そう言い、ヨゼは額をトントンと指さす。それはあの大男にあった蕾のタトゥーを指しているのだろう。


「にしても、まさか福田さんの前世が靴屋さんだったなんて」


現実でも靴に対してこだわりがあったが、まさかそんなところまで来世に影響するものなのか、と店を見上げる。

『靴職人フーゴの店』と書かれている古い看板から、長いこと営んでいるのだと察せられた。


(……あれ。看板や周りの外装はだいぶ年季が入ってるのに、ドアだけ真新しい)


全体的に色褪せている外観は白を基調としており、雨除けのひさしやショーウインドウのふちは青い。なのに扉は不釣り合いな緑で、その上周囲に比べると鮮やかだ。


「なるほど。この感じだと前世の名は『フーゴ』さんかな。祈吏くん、情報集めをしてみよう」

「あ、はい。分かりました」

「彼が何故警官を嫌っているのか。そして何より、あの主人の荒れ方が気になる。彼を知っている人がいそうな場所へ行ってみよう」


その後、周囲の商店や住民にそれとなくフーゴさんの情報集めに回る。

ヨゼの警官服のおかげもあってか、住民たちに怪しまれることなく調査ができたのは幸運だった。

だが仕入れられた情報の大半は『腕が立つ靴屋』『店主の仕事が速い』など店の評判に関する内容ばかりで。

目ぼしいものとして『以前に警察沙汰があったらしい』というものがあったが、詳細を聞いてもバツが悪そうに閉口し、聞き出すことはできなかった。


そうして日が暮れるのを区切りとして、2人は件の食堂へ再び足を運んだ。


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