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第15話-19世紀末プラハの前世

赤い煉瓦屋根の家々が連なり、運河には白鳥が優雅に泳いでいる。

遠くには厳かな教会がそびえており、一目で中欧の街並みだと分かった。


祈吏が目を覚ました大通りではパレードが行われている真っ最中で、通り沿いは民衆で溢れかえっている。

行き交う人々は近代的な洋装でありながら、明らかに祈吏の生きる時代とは服の傾向が異なっていて。

華やかな空気と、あまりにも現実リアルな臨場感に祈吏は気圧された。


(な、なにここ……!? ここが、福田さんの夢前世……?)

(待って。服装もこの時代のものになってる!?)


祈吏は自分の服装がクラシックな薄黄色のドレスに変わっていることに気が付き、小さく驚嘆の声を上げる。

それは締め付けの少ないワンピースに近い形状をしているが、袖口のフリルや襟の形状からはドレスと表現するのが適当だった。


皆の視線の行く先を見てみる。大きな運河をまたぐ立派な橋があり、その橋の上を大勢の兵隊に、馬車に乗った王様らしき人が運ばれて行く。


(まさか、福田さんの前世って……王様? )


驚いて後ずさりをすると、祈吏の背中が誰かとぶつかった。


「いたっ!」

「っおう……?なんだ、お嬢さん。どこ見て歩いてんだ」

「わっ、ごめんなさい。よそ見してました……!」

「よそ見ぃ?はっは、正直すぎんだろーが。おもしれ―女」


ガラの悪い男はニタリと意地の悪い笑みを浮かべ、祈吏に一歩寄り詰めった。


「国王だかなんだか知らねーが、こんなアホくさいパレードに現ぬかしてんじゃねーよ」

「えーと……すみません。物珍しかったので、夢中になってました」

「はあ!?夢中になって人様にぶつかってんじゃねーよ!」


夢中も何も、これは夢の中らしいからこれだとダジャレになっちゃうな、と心中ツッコミを入れながらも、祈吏は至って冷静だ。


(にしても、なんてベタな展開なんだ……どうやって切り抜けよう)


「ったく、次はねーからな」


そう言い、男は祈吏に背中を向けた。

割とあっさり収まって良かった、と胸を撫でおろしたのも束の間だったが。


「はい、そこのお前。今ご婦人の懐から取ったものを出しなさい」

「なにっ……!? うがっ」


警官が男の行く手を阻み、懐に突っ込んでいた手をひねり上げる。

男の手にはがま口のポーチがあり、ちょうど祈吏が現実で使っているものと同じ白地に青の格子柄だった。


「あっ、それ自分のもの! だと思います」

「くっそ、なんでバレた!?」

「残念だがバレバレだったぞ。 君、こいつを署まで連れて行ってもらえるかな」

「はい、警部。お任せください」


ガラの悪い男は他の警官に連れていかれ、『警部』と呼ばれた人は祈吏に背を向けたまま『ふう』と小さく息を吐いた。


「ご婦人、お怪我はありませんでしたか?」


金髪に警官帽を深く被った男が振り返る。

眠りに落ちる寸前に見た虹色の瞳が祈吏を映し、にっこりと笑った。


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