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第12話-ヨクキクアロマ

「簡単にいうと、前世の未練がそのまま今世に課題として生じるんだ」

「例えば前世で借金まみれで道楽した末、未練を残す結果になっていた場合、今世でも金銭感覚が狂いやすかったりする」

「そういった人は大抵、前世の魂が今世の魂と上手くひとつになれずにいるのだよ」


「悪癖がそのまま来世に影響する……てことですか?」


「平たく言えばそうなるが、少し違う。『本人が乗り越えるべき課題』が今世に現れるのだ」


言いながらヨゼはテーブルの手元の右側をぺたぺた触る。

その方向にほうじ茶があったので、祈吏はヨゼの手をそっと取り、導いた。


「ヨゼさん、どうぞ」

「ああ、ありがとう。いつもはティパルがいてくれるものでね。助かるよ」


一口ほうじ茶を含み、ふうと一息つく。


「あの、さっきサングラスを掛けさせてもらった時に視たものですが。身体の中心にあった緑の渦が今世の魂で、背後にいたのがその……?」


「そう、前世の魂。前世の魂が今世の魂とひとつになれていない人でも、本来なら自分の努力次第でひとつにすることができる」


「実際、課題を乗り越えようと努力している人の前世の魂は、少しずつ像が薄くなっていくのだよ。今世の魂と徐々に融け合っていくからね」


ヨゼはおいしそうに最中をもうひとつ摘む。

祈吏も3つ目の最中を口へ運び、ヨゼの次の言葉を待った。


「だが……福田さんの前世の魂は像が濃すぎる。しかも悪夢に不眠と、実生活に影響が出るほどの未練が残っているようだ」

「あの人の妻への異常な猜疑心は前世から今世への課題だろうね。もちろん、睡眠不足のせいも幾分かはあるだろうが」


「あの……お言葉ですが、それだけではない気がします」

「ほお? 何故そう感じたのだい」

「なんていうか、言い表すのは難しいんですけど……」


その時、室内に再びノックの音が響いた。


「準備、できました……」


(わっ!? びっくりした、背の高い人……)


扉を開けたのはティパルではなく、身長が2mはあるだろう、重たい前髪の大男だった。


「ありがとう、マテオくん」


マテオ、と呼ばれた男はぺこりと小さく頭を下げる。

褐色肌にパーマが掛かった緑色のツーブロックの髪型をしている。けれど前髪は目に覆い被さるほど長く、表情は分からない。

ヨゼと同じ白衣を着ているが、体躯が立派過ぎてプロレスラーのリング衣装のようだ。


(薄々思ってたけど、ここのカウンセリングは個性豊かな人が多いなあ……)


応接室を出て、マテオを先頭に2階へ案内されながら、ヨゼと祈吏は階段を上っていく。


「福田さん……入眠済みなので、いつでも入れます」

「流石!マテオくんの仕事はいつも一流だね」

「えっ、あんなに不眠だと仰っていたのに、眠られたんですか?」


不思議そうな顔をした祈吏に、ヨゼが『ああ』と頷いた。


「紹介が遅れてすまなかったね。こちらは当室のセラピスト、マテオ・ガルシア・オカモト・シルヴァくん。ブラジルご出身だよ」

「よろしくお願いします……」


祈吏に向かい合い、ぺこりと言葉少なげに会釈するマテオ。

閉じたシャツ襟からは首に蔦のトライバルタトゥーが覗き、祈吏は息を呑んだ。


「こ、こちらこそ!遠橋祈吏です!よろしくお願いします……!!」


(す、すごい刺青。表情も見えないし、なんだかちょっと恐い人だな……!)


「彼はとても優秀なセラピストでね。マッサージの腕前はもちろん、知識も豊富で世界中の草花を研究している」

「特にアロマの調合が得意で、うちでは入眠効果が高いアロマを提供してくれているのだよ」


「気持ちがよくなり……特に安眠効果の高い調合のもの、です」

「世界中の草花に、気持ちがよくなって、よく眠れる……」


祈吏の脳裏をかすめたのは、テレビでたまに観る警察の逮捕劇で。顔がサーっと青ざめた。


「もちろん身体に一切の負荷はない、ごくごく普通の、合法な精油で作られたアロマだよ!ね、マテオくん」

「名称は、ヨクキクアロマ」


(なんだか不穏な字並びだ……)


祈吏の恐怖心は収まらず、ちらりとマテオを伺う。

するとマテオは小さくサムズアップして答えた。


「……大丈夫」

「そ、そうなんですね」

「マテオくん、今日はローな日だからまた今度詳しく訊いてみるといいよ」


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