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3-32話 工房での雑談 1

「ピンさんの工房は……ここだ」


 中庭で一息ついた後、祈吏とモモチは桃楼宮の1階にあるピンの工房に訪れた。


(時間の指定とか特になかったから、ひとまず来てみたけど……いらっしゃるかな)


 部屋に面している廊下には、何本もの木材が立てかけられている。恐らくピンが使う素材だろう。木材の足元には麻布が敷かれ、大事に扱われている。そんな木材を、モモチは呆然と感情の読み取れない表情で眺めていた。


「モモチさん。これからとある方とお会いしますが、もし良ければ同席していただけますか」

「んー!」


 木材を目にしたモモチの心境が、祈吏には見当がつかない。だからこそ笑顔で答えたモモチに、内心安堵した。


(モモチさんは、この木材についてどう感じてるんだろう……。自分の身体と同じっていう認識だったら居心地悪いんじゃないかって懸念だったけど、大丈夫かな)


「そこにいる者、誰です」


 開けっ放しの扉の奥から、不機嫌そうな声が響いてくる。祈吏はびくりと肩を震わせたが、相手はひとりしかいないとすぐに気付いた。


「おはようございます。昨日星花包子のお店でお会いした祈吏です。今、お時間大丈夫ですか?」


「……ああ」


 どこか力が抜けた返事のあと、薄暗い部屋からぬらりとピンが姿を現す。昨日包子屋で会った時よりも目元の隈は濃く、疲労しているのが伺えた。


「アナタですか~……タイミング悪いですね」

「えっ。お忙しかったですか!では出直します」

「いえ。後で来られても迷惑です。入ってください」

「あ、ありがとうございます」


(ちょっとお疲れみたいだけど……何かあったのかな)


 室内に入ると、辺りには木製の工芸品であふれていた。茶碗や箸の小さいものから実用的な家具、細かな絵の施された欄間障子など、様々な物がある。


(すごい。こんなに沢山のものを、ピンさん1人で作られたのかな……。あれ)


 ふと振り返ると、モモチは工房に入らず出入り口で棒立ちしていた。

 その目は怯えているような、睨んでいるようにも取れる視線だった。入るように強要することもできず、祈吏はピンに促されるまま卓に着き、茶をもてなされた。


「その首飾り、どうされたんですか」


木製の湯呑みが祈吏の前に置かれる。立ち昇る湯気はほうじ茶に似た香りがした。


「これは、ええと……とある方からいただきまして」

「ふうん。つなぎ目がないように見えますが……それ、どうなってんですか」


 ピンは興味深げに祈吏の首元をじろじろ見る。職人であるピンが少し検めれば、まず普通の首飾りでないことはすぐにバレてしまうだろう。そうなればモモチのことを話さねばならない状況になりうると思い、祈吏は咄嗟に話題を逸らした。


「あの!今朝はお疲れのようですが、もしかして朝までお仕事されていたのでしょうか」

「……違いますよ」


 ピンはむっとした表情で、目を細める。そして丸まった背中は更に深く前に傾き、大きく溜息を吐いた。


「昨晩、不届き者が現れたんです。アナタもご存じでしょう。草原の桃の木が発火したのは」

「は、はい」


(居合わせただなんて、絶対に言えない雰囲気だ)


「よりにもよって、狙っていた木を燃やしやがりました」

「狙っていた木……ですか?」

「あの木は大きいので狙っていたんです。樹齢的にも高齢でしたので、そろそろ素材に回してもいいかという時期だったのですが」

「そうだったんですね……」

「不届き者にどんな目的があるのか知りませんが。……ユエリャン様が許しても、ワタシが許さない。見つけ次第、ただじゃおきません」


 普段より低い声で言い切ったピンに、湯呑みを持つ手が震えた。


(目的、か……はやくモモチさんの意図が掴めればいいけど。にしても、この流れは中庭にある大きな桃の木について聞けそうだ)


「もしかして、桃楼宮にある大きな桃の木も狙っていたりしますか?」


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