3-21話 夢前世の共通点
「――……それでは、ゆっくりお過ごしください」
そう案内人は告げると、軽くお辞儀をしそっと扉を閉じた。
高い天井に透かし細工のオリエンタルな窓。寝台とテーブルの揃った、暮らすのにまず困らない部屋で、祈吏はひとり溜息を吐いた。
(すごい。まさか天井のない寝床からここまでグレードアップしてしまうとは思ってもいなかった。……にしても、うーん)
これからどうしようか、と頭をひねる。
伊吹の前世である人物は今のところ全く見当がついていない。
どころかこの世界の理を理解しないまま、2日目も半ば終わりかけているのだ。ヨゼや狛ノ介と合流できていない時点で焦りはあるが、それ以前に伊吹に繋がる手がかりが手元に少なすぎた。
(もし、このまま伊吹さんの前世の人が見つからなかったらどうなるんだろう)
夢前世は前世の記憶を辿っているとヨゼから聞いている。祈吏が過ごす4日間で何が起きるのか見当はついていないが、ひとつだけ分かっていることがあった。
(福田さんや黒須さんの夢前世では必ず『その人の最期』が訪れていた)
フーゴが橋から川へ落ちそうになったあの時、イデアにいたっては死を連想させるタイミングが何度もあった。それは祈吏から見て『偶然』とは考えられない共通点だった。もし『本人の未練が強く残る瞬間』が死の間際だとすれば、その直前の時間軸に降り立つのは合点がいく。
(だけど、その仮定がもし本当だったのなら。この世界のどこかにいる伊吹さんの前世の人はこの4日の間で亡くなるってことになる……)
――それだけは絶対に避けなければ。いくら夢だったとしても、当時感じた辛い思いを再度味わって欲しくない。
どうにかその瞬間を迎える前に見つけ出さなくてはと、決心に満ちた顔を上げたその時――部屋の扉をノックする音が響いた。
「はい。どうぞ」
答えてすぐにゆっくりと扉が開く。そこには黄緑の髪に薄緑の華服、そして目隠しをした男――ユエリャンが立っていた。
「ごきげんよう、祈吏。この桃楼宮で暮らすことになったと聞いたよ」
「あ……その節は大変お世話になりました」
「どういたしまして。改めてだが、僕はユエリャン。卯月様に仕えている。どうぞよろしく頼むよ」
つかつかと室内に踏み入り、祈吏の前に立つ。近くに寄ると背が高いな、と祈吏は一瞬思ったが、ユエリャンはすかさず祈吏を覗き込むように屈まった。
「聞いたよ。キミが仕事を欲しがっているって」
「はい! 自分にできることがあれば、何でも仰ってください」
「ふふ……いいね」
ユエリャンの瞳は目隠しで見えなかったが、どこか蠱惑的な雰囲気のある笑みだった。
「キミに頼みたい仕事がある。炎が出せないキミだからこそ任せられる仕事だ」