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第1話-休学の上ギャンブル通いなんてあり得ない!

「夢を介して辿る他者の前世を『夢前世ゆめぜんせ』と呼んでいる」

「けれど、祈吏いのりくん。夢の中だからと言って決して死んではいけないよ」


薄暗い室内。プラネタリウム同然の天井には星がきらめき、心地の良い香りが漂う。

星空の下、大きな円形のベッドが2人を乗せてゆっくりと回りだした。

今から2時間ほど前に初めて会った男の娘(?)と枕を並べて眠る状況を、祈吏はいまだに呑み込めていない。


どうしてこんな事態になったのか、事の始まりを思い返した。


…………


『休学の上にギャンブル通いなんて、あり得ない!』


競馬場の春空に「永淀心療内科ながとろしんりょうないか」と書かれた薬袋が舞う。

遠橋祈吏とおはしいのりの身体が階段をスローモーションで落ちていく中、駆け巡ったのは友人(あんず)の呆れ声と『このまま落ちたら眠れるかな』という少しの期待だった。


「――どんっっくせえなあ!!」

「……あれ」


祈吏のショートカットの黒髪が大きく揺れる。倒れる寸前、右手を誰かに力強く引っ張られ、絶妙なバランスで立ち留まった。


「なに、その残念そうなカオ。離すぞ」

「いえ……」


太陽を背負った男性が眩しくて顔をしかめてしまったのが不機嫌と取られたのか、祈吏にぶっきらぼうな声が降ってきた。


お礼をちゃんと言わなくては、と体勢を立て直そうとしたところ、すぐに手は離される。

男性はそのまま階段を下っていこうとしたので、思わず呼び止めた。


「あの! 危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

「……この薬、アンタの?」

「は、はい。自分の、です……」


男性は階段下に落ちていた薬袋を拾い上げ、祈吏を一瞥した。

地下通路の出入り口から陽光が差し込む。

男性の髪は白く、毛先はピンク色で頭の両端がピンと立った不思議な髪型をしている。

出立ちは俗に言うパンクルックで、ピンクと黒のハーフカラーのライダースジャケットと細身のダメージジーンズ、特に白い尻尾のようなアクセサリーが印象的だった。


「アンタ、目の隈ひでーな。寝てねえのか」

「あ、ええっと……まあ、そうなんですよね」

「ふーん」


そう興味もなさげにくうを見て、ジャケットの内側に手を突っ込む。

くしゃくしゃの紙を取り出し、薬袋と共に祈吏へ差し出した。


「寝てる間、変な現象が起きてるなら行ってみたら」

「えっ」


(夢遊病のことは話していないのに)


呆然としている祈吏を置いて、男性は地下通路を降りて去っていく。


(どうして分かったんだろう……少し不思議な雰囲気の人だったな)


状況を上手く呑み込めないまま、受け取った手元の紙を見下ろす。

それは無配ティッシュに入っているような広告紙で、白を基調としたデザインは一見して病院系のものだと分かった。


世前夢見よぜゆめみカウンセリング……」


――遠橋祈吏とおはしいのりが抱える最大の悩み。

それは20歳の誕生日を迎えた直後に発症した。


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