ティアーズフィッシュハンバーガー
さてさて。
ラウルとフィフィアの釣果確認タイムです。
「今日の夕飯に使う魚……どうだった?」
「ふっふっふっ、見て驚け!」
不敵に笑ったラウルが、じゃじゃーんと木桶に入ったティアーズフィッシュを見せた。雫型の深い青色の鱗がキラキラ光っていて、とても綺麗な魚だということが一目でわかってしまう。
そんなティアーズフィッシュが、なんと一〇匹。
「え、釣りすぎじゃない?」
思いがけないほど大量で、思わずツッコミを入れてしまったのは許してほしい。
「ごめん、釣りが思いのほか楽しくて……」
「俺はもういいんじゃないか? って言ったんだけどな」
「犯人はフィフィアだったの」
フィフィアは冒険者として冷静な判断をするとばかり思っていたので、本能のままに魚を釣ったのにちょっと笑ってしまった。
すると、フィフィアは指をもじもじさせながら理由を教えてくれた。
「実は、いつも食料が尽きるから……可能な限り釣らなきゃと思って……」
「ひもじくならないように、頑張って釣ってくれたんだ」
そんな理由じゃ、無下にできないよ。
「とはいえ、一人でこの量を捌くのは大変そうだね……」
若干遠い目をすると、すかさずラウルが手を挙げた。
「俺も手伝うよ。魚ってあんまり捌いたことがないから、やり方が知りたい」
「それは助かるからいいけど、私だって別に捌く技術があるわけじゃないよ? それでもいいなら、いいけど」
「ああ、それでいい」
ラウルの熱意に頷き、私たちは一度キャンピングカーに戻った。
広くなったキッチンは、なんとL字になった。
それだけではなく、なぜか奥行があるのだ。キャンピングカーを外から見る分にはまったく変化がないので、不思議なんだけど……そういうものだと受け止めることにした。
コンロは三口になり、壁際に。シンクはコンロを正面にしたら右手側にあって、その横には大きくなった冷蔵庫様がいる。
――そう、冷蔵庫様だ。
なぜ様をつけるかって? そんなのは決まっている。
なんと、冷凍庫がついたのだ!!
これはもう盛大にはしゃぐしかなくて、フィフィアが確認してくれたときは目の前に魔物がいるのに手放しで喜んでしまった。
その後すぐ、ラウルに危ないとお説教をされたのは言うまでもないだろう。
ちなみに鶏肉は速攻でいくつか冷凍庫に入れました。
「ティアーズフィッシュも、切り身の状態にしていくつか冷凍しておいたらいいかな。ダンジョン攻略中に魚が食べられるのは嬉しいし」
「いいな、それ。この先に川があるかわからないから、できるだけストックしておきたいな」
「うん」
ラウルの言葉に頷いて、私はひとまずティアーズフィッシュを捌き始めた。
「お待たせ、フィフィア。夕飯だよ~!」
私とラウルが料理を作っている間、フィフィアは冒険者たちといろいろ情報交換をしていたようだ。
「ミザリー、ラウル! ありがとう、美味しいご飯……!」
フィフィアの目がキラキラしているので、かなりお腹が空いていたのだろう。
「今日はお魚ということで……ハンバーガーにしてみたよ」
「ハンバーガー?」
聞き慣れない言葉だったようで、フィフィアが首を傾げた。とはいっても、そんな大げさな料理ではない。
「ティアーズフィッシュを揚げて、パンで挟んだだけだよ。サンドイッチの亜種、みたいな……?」
うっかり魔物のようなたとえになってしまったけれど、サンドイッチ風ということで伝わったようだ。
カラッとあげたティアーズフィッシュと新鮮なレタス、トマトと一緒にパンにはさんだ逸品だ。
甘辛いトマトソースがこれまた相性抜群で、疲れた体を癒してくれること間違いなし。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます!」
フィフィアがすぐさまハンバーガーにかぶりつくと、サクッという気持ちのいい、食欲をそそる音がした。周囲の冒険者がごくりと喉を鳴らす。
……あ、簡易食ばっかりだもんね。
揚げ物とソースの匂いは、さぞかし暴力的だったろうと思う。外に持ってこないで、フィフィアを室内に呼んだ方がよかったかもしれない。
「どうだ? フィフィア。味見したけど、かなりの美味さで……!」
「んんっ、すごく美味しい! 魚って、こんな風にも料理できるのね。サクッとする食べ応えはもちろんだけど、トマトの酸味がティアーズフィッシュの味を引き立ててくれてると思う」
「だよな! パンも軽く焼いてるのは、俺の案なんだぜ」
「最高……!!」
ラウルもティアーズフィッシュハンバーガーが気に入ったらしく、大きな口で頬張っている。
味見をしたときに、絶対また作ろうと何度も言っていたからね。
気にしても仕方がないと思うことにして、私もハンバーガーにかぶりつく。ん~、カラッと上がってるティアーズフィッシュの白身がサクサクで、とっても美味しい。
ラウルじゃないけど、確かにこれは何度でも食べたくなっちゃう美味しさだね。
私たちが夢中で食べていると、ほかの冒険者――コルドとネビルが声をかけてきた。
「ちょ、それは匂いがやばすぎるんじゃねえか!? なんで精霊のダンジョン五層でそんな美味そうなもんが食えるってんだよ……!」
「あの大きなものは、中で調理することもできるのか……」
キャンプ地ということで、スープは大鍋で作っているようだけど……メインは干し肉を食べている人がほとんどだ。
うーん、ティアーズフィッシュはまだあるから、ここにいる人数分を作ることもできる。幸い、小麦粉はたっくさん買ってある。
私がどうすべきか考えていると、ラウルが横にきて耳打ちしてきた。
「このキャンプ地を使うなら、あんまり拒否するのもよくないよな?」
「うん、私もそう思ってたところ。かといって、料理の手間もあるからそうほいほい作るのも――」
「それなら、売るっていうのはどうかな?」
「え、売るの!?」
ラウルの提案に、私は驚いた。
今まで自分の料理を販売しようとしたことがないし、そもそも販売に関する規則はどうなっているのかも知らない。
街によって違うのか、国によって違うのか。それともダンジョンの中はまた別なのか……と、いろいろなことを考えてしまう。
「ダンジョン内ではよくあることなんだ。売買もそうだけど、物々交換することもある。一方的に施すと、どうしても人間関係がよくない方に進むからな」
「なるほど……」
確かに一理あると、私は納得する。
ラウルの話によれば、ダンジョン内での商売に何かしらの届け出は不要なのだそうだ。街で屋台をだしたり店舗を構える場合は、税金を納める必要があるため届け出が必要になるのだという。
なるほど、勉強になります。
「ハンバーガーの値段だから、一つ五〇〇ルクくらいかな?」
「それは安すぎるわよ、ミザリー。ここはダンジョンの五層なんだから、二〇〇〇ルクくらいにしなきゃ」
「えええっ、そんなに!? 高くない?」
「これでもちょっと安いくらいよ?」
私が値段を決めようとしたら、すぐフィフィアから駄目だしが入った。しかし私の作ったハンバーガーが二〇〇〇円になってしまうとは……。
富士山の上で買い物をすると麓より数倍は高いのと同じだね。
「でも、さすがに今日はもう遅いし……やるとしたら、明日かな?」
「それでいいと思うわ」
「楽しみだな」
明日の夕方、ティアーズフィッシュハンバーガーを二〇〇〇ルクで販売することになった。




