五層のキャンプ地
ダンジョンの中をキャンピングカーで爆走した結果、あっという間に五層に着いてしまった。
四層でほかの冒険者に会ったけれど、スキルだということを告げると「すごすぎるんだが!?」と言われただけで終わった。
そしてなんと!
レベルが2つ上がった。サイドオーニングが追加されて、簡易キッチンが拡張して広くなっていた。これは本当にありがたい。
なので、私のキャンピングカーレベルは15だ。
ゴブリンライダー、ハイゴブリンたちを倒し……五層のキャンプ地に到着した。
キャンプ地というだけあって、何組かのテントが張られている。雰囲気はキャンプ場で、なんだか楽しそうだと思ってしまった。
キャンピングカーから下りて周囲を見回してみるが、人がいない。
「みんな攻略するため、六層に行ってるんだと思うわ」
「あ、なるほど」
基本的に夜くらいの時間になったら戻ってきて、わいわい騒いだり、泥のように眠ったりしているらしい。
「五層っていうだけあって、広場も広くなってるな」
「それは思った!」
キャンピングカーを出していても余裕だし、通路の幅も二車線くらいには広くなっている。階層が進むほど広くなってくれているのは、助かるし嬉しい。
『にゃ、にゃにゃっ!』
「おはぎ?」
私の肩に乗っていたおはぎが、ふいに飛び降りて広場の奥に走り出した。
「ちょ、おはぎっ!?」
「どうしたんだ!?」
こんな魔物がたくさんいるダンジョンで、おはぎの単独行動なんてとんでもない! 慌てて追いかけると、おはぎはすぐにスピードを緩めた。
『みゃぁ』
「おはぎ……? え、すごい……」
おはぎが向かった先は、広場の後方にあった細い通路の奥だった。川が流れていて、魚が泳いでいる。
「ダンジョンの中に川があるなんて……」
「おお~、いいキャンプ地だな。水の確保ができるのは、冒険者にとってめちゃくちゃ大事だから」
「魚を釣って食料にすることもできそうだねぇ」
フルリア村の近くで渓流釣りをしたことを思い出し、魚を釣って食べるのもいいなと思う。
泳いでる魚はなんだろうと考えていると、フィフィアの「大丈夫~?」という声が聞こえてきた。
「うん、大丈夫!」
私が返事をすると、フィフィアがひょこりと顔を出す。
「ならよかった。この川の水は綺麗だから、飲料水として重宝してるの。泳いでる魚も食べられるわよ」
「このまま飲めちゃうの?」
「いつも飲んでるわ」
フィフィアのお墨付きをいただいたので、私は手ですくって水を飲んでみる。冷たい水が体に染み渡っていくのを感じる。
「ん~、美味しい!」
「俺も飲もうっと。あ、おはぎは流されたら大変だから、体を押さえておいてやるよ」
『にゃ』
ラウルがおはぎの水飲みを手伝ってくれている。
美味しそうにごくごく飲む姿が可愛くて、思わず頬が緩んでしまう。水を飲んでる猫って、どうしてあんなに可愛いんだろう。
美味しい水を飲み終わったところで、私はうずうずし始める。
「ねえねえ、今日の夜ご飯はこの魚にしない? 食べられるみたいだし」
「構わないけど、なんて魚なんだ?」
「ティアーズフィッシュよ。この川は精霊の恵みなんじゃないかって言われているんだけど、魚の鱗が綺麗な雫なの。だから、精霊の涙みたい……って名付けられたのよ」
フィフィアの説明を聞く限り、綺麗な魚のようだ。
「キャンピングカーの中に釣り竿があるから、釣ってみよう!」
「おう! ……って、ミザリーは一度休んだ方がいいんじゃないか? ここまで運転してたから疲れてるだろ?」
「運転してるだけとはいえ、スキルで魔物を倒してるんだものね。たぶん、ミザリーが自分で思っている以上に体力とマナを消耗してると思う」
二人の言葉に、確かに運転しっぱなしだったなと思う。体なんてバキバキになっているので、ストレッチもした方がよさそうだ。
「……じゃあ、お言葉に甘えて少し休もうかな? 夕食は私が作るから、ラウルとフィフィアは食材の調達をよろしくね!」
「おう、任せとけ!」
「頑張るわ」
***
ゴロゴロ、ゴロロロロ……。
なんともいえない心地よいゴロゴロ音を聞きながら、目が覚めた。見ると、私の横でおはぎが気持ちよさそうに寝ている。
は~~、幸せっ!
「最高の目覚め……。おはよう、おはぎ」
私は寝転んだままおはぎを抱き寄せると、再び睡魔が襲ってきて……うっかり二度寝してしまった。
「――ハッ!」
がばっと体を起こし、部屋を見回す。
「ものすごく寝てしまった気がする」
身体はスッキリしているし、思考もクリアだ。
お腹は……かなり空いている。
「どれくらい寝てたんだろう? ラウルたち、魚をゲットできたかな……?」
夕飯のメニューはどうしようかと頭の中で考えながら、いつもの服に着替えて部屋を出た。
「キャンピングカー内にはいないみたいだね」
外か、もしかしてまだ釣りをしてる?
私は首を傾げつつ、おはぎと一緒に外へ行く。すると、ここをキャンプ地にしている冒険者たちが何組か戻ってきていた。
「――!」
挨拶をと思ったら、ラウルとフィフィアが冒険者たちと話をしているようだ。すぐ、ラウルが私に気づいてくれた。
「起きたか、ミザリー! 紹介するよ。ここをキャンプ地にしてる冒険者のみなさん」
「こんにちは。ラウルとフィフィアとパーティを組んでる、ミザリーです」
簡単に挨拶すると、冒険者たちがわらわら集まってきた。どうやらテントの中にいた人も、私に挨拶するために出てきてくれたみたいだ。
みんな律儀でいい人だ……!
「俺はコルドってんだ。このキャンプ地じゃあ一番の古株だからよ、何かあればいつでも声かけてくれ」
「コルドと同じパーティのネビルだ」
「俺はローガンだ」
「ナックだ、よろしく」
一気に名乗られたので名前に不安は覚えつつも、総勢二〇人がこのキャンプ地を利用しているみたいだ。
「今、六層のことを聞いたりしてたんだ。魔物が一気に強くなってるみたいだから、慎重に進んだ方がよさそうだ」
「一気に強く!? それは大事な情報だね……」
もしかしたら、今までみたいにキャンピングカー無双も難しくなるかもしれない。
 





