新たなパーティ
フィフィアが、料理が苦手というのは聞いていたけれど――どうやら壊滅的に苦手みたいだ。
「食糧管理うんぬんの前に、失敗して駄目にしちゃうことも多くて。だから、干し肉ばっかり持っていってかじったりしてるんだけど……どうしても後半は体調を崩しがちになっちゃって……」
いっそ泣きそうなフィフィアは、何度やっても料理だけは上手くならないのだと言う。
「まあ、誰しも向き不向きはあるからね。私は戦闘より料理したりキャンプしたりする方が好きだし」
「ミザリー……そう言ってもらえると嬉しい。前にパーティを組んでたときは、私の料理のできなさで仲たがいしちゃったから」
「oh……」
なんてこったい。
みんなでやるのもいいけれど、得意な人が担当するという役割分担はすごく大事なんだよ。でも、そうできない人も多いよね。
「料理は私とラウルが担当するから、大丈夫!」
「そうだな。得意分野を生かすのは大事だ」
「そうそう」
私とラウルはあっさり納得したので、パーティを組むことにした。
***
フィフィアがパーティに加わったので、私の部屋のベッドフレームは大きいサイズを用意した。
ラウルが簡易ベッドで寝るので、フィフィアは私の部屋で寝てもらうことにしたのだ。
ほかに生活用品や野外でも使えるテーブルなども。今回の依頼報酬がそこそこよかったので、ラウルにも少し負担してもらって購入したのだ。
「迷宮都市で一泊していくのかと思ったら、そのまますぐダンジョンに向かうのね」
「キャンピングカーの中で生活できるからね。と言えば聞こえはいいけど、宿代の節約」
今回の報酬はまあまあ使ってしまったので、ある程度貯金ができるまではキャンピングカー生活がメインかな。
……とはいえ、お金に余裕ができてもキャンピングカーで生活したいけども。
私たちは休憩をこまめに挟みつつ、精霊のダンジョンに戻ってきた。
一層は徒歩、二層はキャンピングカーで爆走し、やってきました三階層。
「この階層から、滞在してるパーティがいると思う。とはいっても、私はある程度は顔見知りになってるし、変な冒険者はいないよ」
「その情報、とっても助かる!」
キャンピングカー爆走に関しても、スキルだからフィフィア的には問題ないようだ。もちろん、事故を起こさないことが前提だけど。
「攻略してるパーティは、六層に続く階段前の広場をキャンプ地にしてるの。まずはそこを目指して、私たちも六層を攻略するのがいいと思う」
「ん、わかった」
スキルの有用性がわかったからには、戦闘で使わないわけにはいかない。
「ただ、街の中では注意が必要だな。何かあって攫われたら大変だ。しばらく俺から離れないようにしてほしい」
「――! わかった」
キャンピングカーから降りた途端に無敵モードが終わってしまうので、ラウルの気遣いは純粋にありがたい。
「んでは、このまま進むよ!」
私が運転、ラウルが助手席、おはぎはその間。フィフィアは居住スペースから顔だけこちらを覗いている。
アクセルを踏んで、ブロロロ……とキャンピングカーを走らせていく。道の幅は二層とほとんど同じなので、あまりスピードは出せない。
三層に出てくる魔物は、ゴブリン、ゴブリンメイジ、オークの三種類。
ゴブリンメイジはなんとなくイメージできるが、オークはなんとなく体がすくむ。体格がいいと思うので、もしかしたらキャンピングカーでぶつかっても倒すことができないかもしれない。
「お、この先に魔物がいるな」
「……っ! お、オークかな?」
「どうだろうな? でも、可能性はある」
オークかもしれないと思うと、心臓がドッドッドッと加速する。
そんな変な緊張感をもっていたのだけれど、フィフィアの「なんで魔物がいるってわかるの?」という言葉にハッとした。
「ラウルのスキルなの? 気配察知、とか」
「これは私のスキルだよ」
私はインパネを指さして、表示されているダンジョン内の地図を説明した。青丸になっているのが主に魔物で、赤丸が人間だ。
ちょうど、私たちの進行方向とは別の場所で赤丸が三つ見えた。おそらくパーティで攻略している冒険者だろう。
「……もう驚くのは止めようと思ったのに。まさか魔物と人間の位置がわかるどころか、地図が……ダンジョン内の地図がこんな簡単にわかるなんてっ!!」
あまりにも衝撃だったのか、フィフィアの声がかなり大きくなった。
「あんなに苦労してマッピングしたのに、こんなに詳細な地図……」
「あー……なんかごめん」
「いや、別にミザリーが悪いわけじゃないわ。説明してくれてありがとう。先に進みましょう」
この話はここで終わりと、フィフィアが前を見るように言った。
緩やかな曲がり角の先から登場したのは、ゴブリン一匹とゴブリンメイジ二匹のパーティだった。
……ゴブリンメイジがちゃんと後衛列にいるのがなんともパーティっぽいね。
なんてことを思いつつ、私はぐっとアクセルを踏む。
「いくぞー!!」
「「おー!」」
『にゃ!』
キャンピングカーでゴブリンに突っ込み、そのままの勢いでゴブリンメイジにも突っ込んだ。結果、光の粒子になって消える。
「倒せた! よかった!!」
「よっしゃ! でもミザリー、感動してるとこ悪いけど……前方にオークがいる」
「なんですとっ!?」
減速したらまずい! と本能的に感じ、私はそのままの勢いどころか、さらにアクセルを踏んだ。
「いっけええぇぇ!」
ドゴンッ!
ものすごい音がして、オークが吹っ飛んで光の粒子になって消えた。
「え、倒せた?」
「倒せてる! やったな、ミザリー!」
「オークを一撃なんて、すごいわ!」
『にゃあっ』
みんなが私を褒めてくれる。
うう、よかったよぉ。
……ちょっと怖くて半分涙目だったことは内緒だ。
「よし、これでもう怖いものなし! どんどん進む!!」




