ギルドで報告
「すごい、こんなにゴブリンとウルフを討伐してきたんですか!?」
「……はい!」
迷宮都市に戻ってきた私たちは、まず冒険者ギルドにやってきた。
フィフィアも自分の依頼の処理などがあるため、ギルド内にはいるけれど受付は別で対応している。
ギルドにきた目的は、受けていた討伐依頼の報告だ。今回は倒した数がギルドカードでカウントされていて、討伐した分だけ報酬がもらえることになっている。
受付嬢はごくりと息を呑み、「ゴブリン六三匹、ウルフ四七匹です!」と結果を教えてくれた。
……最後はキャンピングカーで爆走していたから、いい数になったね。
「ゴブリンの討伐報酬は一匹八〇〇ルク、ウルフの討伐報酬は一匹一〇〇〇ルクです。あわせて、九万七四〇〇ルクです」
「おおおっ、すごい!」
すぐにお金が用意されて、私は内心ホクホクだ。
これで自室に置くベッドフレームを購入できるし、保存食も多めに買えそう。あとは生活用品も少しずつ充実させていきたいね。
キャンピングカーが進化していってくれているので、やりたいことがいっぱいだ。
「でも、この短期間でよくこれだけ倒せましたね」
「私は移動系の固有スキルを持ってるので……」
「なるほど、それでこんなに移動が速かったんですね。精霊のダンジョンは、遠いのが不人気の理由ですから……」
精霊のダンジョンの討伐依頼を受けてもらえるのは助かるのだと、受付嬢が微笑む。
「そうそう、今回の実績でミザリーさんの冒険者ランクが上がりました」
「本当ですか? 嬉しいです!」
私はFランクだったので、Eランクにアップだ。
「おめでとう、ミザリー」
『にゃあん』
「ありがとう、二人とも」
冒険者ギルドは、自分のランクの一つ上のランクの依頼を受けることができる。
ただ、私の場合はパーティにCランクのラウルがいる。そのため、パーティとしてはCランクの依頼まで受けることができるのだ。
ラウルが一人で依頼を受ける場合は、Bランクの依頼まで受けることができる。
……うう、私がラウルの足を引っ張っちゃってるね。
精霊のダンジョンをもっと攻略して、もりもりランクを上げていこう!
「今日は別の依頼も受けていきますか? 精霊のダンジョンに出てくる魔物、全種類の依頼を受けても大丈夫ですよ」
「え、そんなにいいんですか?」
「もちろんです。あ、でも……ランク制限があるので、それだけは注意してくださいね」
私は頷いて、ひとまずCランクで受けれる依頼をすべて受けることにした。ラウルも、「キャンピングカーもあるしな」と言って頷いている。
「では、ゴブリンとウルフの討伐は引き続き受注ですね。新しい討伐対象の魔物は、ゴブリンメイジ、ゴブリンライダー、ハイゴブリン、ハイゴブリンメイジ、ハイゴブリンライダー、オークです。五層にいるティアーズゴーレムはBランクから受けられる依頼なので、今回はありません。危険なので、気をつけてくださいね」
「はい。それにしても、ゴブリン祭りですね……」
「そうですね。ですが、ゴブリンは繁殖力が強いので、可能な限り討伐してほしいんです。もしスタンピードが起きて、ダンジョンの外に流れてきたら大変ですから……」
「……はい」
受付嬢の言葉にぞっとしたものを感じて、私はしっかり頷く。
スタンピードとは、ダンジョンの中に魔物が溢れて外に出てきてしまうことだ。
もし起こった場合は、ダンジョン内にいるほとんどすべての魔物が出てくると言われている。そのため、冒険者ギルドでは常時討伐依頼を出している。
……ゴブリンがダンジョンから溢れ出てきたら、まったくもって笑えないよ!
冒険者からすればゴブリンは雑魚の部類に入るけれど、一般人からすれば脅威だ。私だって、戦う前は怖くて仕方がなかったからね。
「んじゃ、俺たちが受ける依頼はこれでオッケーだな。次は買い物か?」
「うん。あ、その前に……フィフィアのことで相談」
私たちは受付嬢にお礼を言って、自由に使える休憩スペースで話をすることにした。
休憩スペースに座り、私はさっそく本題を切り出した。
「フィフィアも精霊のダンジョンを攻略してるみたいだから、臨時でパーティを組んでみてもいいんじゃないかって思ったんだ」
「俺は問題ないけど、フィフィアはBランクで、しかもソロの冒険者だ。自由に動きたいかもしれないぞ」
「あ、そうか……」
私はエルフや精霊のことを知れたら嬉しいし、フィフィアも移動手段でキャンピングカーに乗れたら楽なのでは? と安易に考えてしまった。
だけど、そうだよね……ソロでやってるのに、パーティに誘われたら迷惑かもしれない。そのことに思い至らなかったことに、自己嫌悪だ。
私が机に突っ伏すと、ラウルは笑う。
「別に、聞くくらいは大丈夫だろ。まずはフィフィアに声をかけてみて、無理なら今まで通り俺たちだけで攻略すればいいさ」
「そっか、聞くだけならタダだもんね」
そう考えると気持ちが軽くなって、私はフィフィアに聞いた精霊ダンジョンのことを話す。もしかしたら、ダンジョンの最奥に精霊がいるかもしれないのだ……!
「確かに、ダンジョンの名前はできたときに決まってるもんな。俺も精霊がいるなら会ってみたいな」
「だよね」
ラウルのためのエリクサーを探しつつ、精霊に会えたらラッキーだ。
『にゃうっ』
「ん? どうしたの、おはぎ」
私の膝に座っていたおはぎが、ふいに私の体に前脚を置く形で立ちあがった。すると、フィフィアが「終わったわ」と言ってこちらに来るところだった。
「お疲れ、フィフィア」
「二人もお疲れ様。ミザリーたちは次の依頼を受けてきたの?」
フィフィアの問いかけに、私たちは頷く。
「ああ。出てる討伐依頼を、ゴーレム以外全部受けてきた」
「ミザリーのスキルを考えると、それがいいわね」
力強く頷かれてしまった。
「フィフィアも同じ?」
私がそう尋ねると、「それもあるけど……」とフィフィアは受けた依頼のことを教えてくれた。
「調査依頼も受けてるの。私の攻略が終わった部分だけだけど、精霊のダンジョンの情報を報告してるわ」
「討伐以外も受けてるんだね」
なんだか、冒険者という感じだ。
討伐依頼を受けている私の数倍、できる冒険者感がする。
「とりあえず、フィフィアも次の依頼は精霊のダンジョンなんだよね?」
「ええ、そうよ。それで――恥を忍んでお願いがあるのだけれど、私をミザリーたちのパーティに同行させてもらうことはできないかしら?」
「――!」
まさに私が提案しようと思っていたことを、先に提案されてしまった。私とラウルは驚いて、顔を見合わせる。
「実は、ラウルともその話をしてたの。フィフィアに聞いた精霊の話も楽しかったし、一緒にダンジョン攻略できたらいいな……って」
「だけど俺たちはまだ冒険者ランクが低いから、足手まといになりそうで……」
「ミザリーのあのスキルとラウルの料理スキルで足手まといなんて、あり得ないわ」
「「……料理スキル?」」
キャンピングカーはまだしも、突然の料理スキルに私とラウルは目を瞬かせる。
「――料理が苦手と言ったけど、実はほとんどできないの」
観念したかのように、フィフィアは顔を真っ赤にしてそう告げた。
 





