エルフの花のべっこう飴
「この火はしばらく燃え続けるわよ」
「本当? すごい! 精霊石って、簡単に手に入るものなの?」
可能であれば私も手に入れて、精霊に捧げて魔法を使ってみたい。ドキドキしながらフィフィアに聞いてみると、首を横に振った。
「残念だけど、無理なの。精霊石自体の数が多くないのもそうなんだけど、人間には力を貸してくれないと思う」
「エルフ限定ってこと!?」
なんということか。
どうして悪役令嬢のキャラ設定をエルフにしなかったのかと、ゲームの開発陣に殺意が湧く。
「エルフが使えるのは、精霊と交流があったからと言われているわ。祖先が精霊と契約か何かしたのではないか……って」
「なるほど」
ということは、私もダンジョンの最奥で精霊と仲良くなればワンチャン精霊石を使えるようになるかもしれない……ってことだよね?
俄然やる気が湧いてきた……!!
「最奥の精霊さんに契約交渉をしてみる!」
「……そんな簡単なことじゃないとは思うけど、なんだかミザリーならできちゃいそうな気がするわね」
「えへへ」
交渉材料として、迷宮都市に戻ったらお菓子やお酒などの貢ぎ物も買っておこう。
「そういえば、この焚き火で何かするの?」
「あ、そうだった! 実はちょっとしたお菓子を作ろうと思って」
「お菓子を……? 焚き火で……?」
フィフィアが信じられない……という目で私のことを見ている。
まあ、お菓子といえば正確に分量を量り、オーブンを使って作るものだからね。でも、今から作るのはそんなお堅いものではないのだ。
「必要な材料は、なんと砂糖と水だけ!」
「え!? それでお菓子が作れるわけないでしょ? ミザリー、教えてくれた人に騙されたんじゃない? ほら、ミザリーは人がいいから……」
「違うよ! 作るのは飴だから、クッキーみたいな材料が必要ないだけ」
私が理由を説明すると、フィフィアはあからさまにほっとした。私って、そんなに騙されそうに見えるかな?
……まあ、お人好しではあるかもしれないけれど。
「砂糖と水だけでも作れるんだけど、ハーブとかを入れてもいいんだよね。というわけで、これを入れます!」
「それって、どこにでも生えてる小花よね?」
「うん」
これは先日、私が早朝散歩のときに摘んだ小花だ。ラウルに見せたら、蜜がちょっとだけ入ってる花で、子供がおやつ代わりに口にするのだと教えてもらった。
これを飴の中に入れたら、見た目がとっても可愛くなると思う。
「花を入れるなんて、可愛いわね。なら、この花も使えるかしら?」
そう言って、フィフィアが鞄から白からピンクのグラデーションになっている花を取り出した。
花びらの先が丸くなっていて、レウィシアに似ている品種だ。
「可愛い花! でも、これって食べられるの?」
「食べられるわよ。エルフの花っていう名前で……蜜が多いんだけど、花びらもほんのり甘いの。料理のちょっとしたアクセントに使うこともあるわ」
「へえぇ!」
サラダやデザートに沿えると、料理が引き立っていいなと思う。
「じゃあ、三つもらってもいい?」
「もちろん」
「ありがとう!」
私はキャンピングカーからささっと必要な道具と砂糖と水を持ってくる。気になったらしいラウルとおはぎもついてきて、飴づくりをはじめた。
作り方は簡単。
お玉の中に水を大さじの半分ほど入れ、そこに砂糖を大さじ三くらい加える。そしてそのまま丸太焚き火にかける。
そうしたら色づいてくるので、包み葉の上に流す。すぐに固まってくるので、その前に私が摘んだ小花を散らし、中心にエルフの花を乗せる。
「ん! エルフの花のべっこう飴、完成~!」
「え、もうできたのか!?」
「あっという間じゃない……。ミザリーは料理が上手いのね」
フィフィアが「綺麗ね」とべっこう飴の見た目も褒めてくれる。
透明の黄金色に、フィフィアからもらった花がよく映える。私が摘んでいた小花もアクセントになり、とっても華やかな一品ができあがった。
「美味しくできてるといいんだけど」
べっこう飴を作るのは初めてなうえに、味見をするタイミングもなかったので一番に口に入れる。
「……っ!!」
「あ、先に食って――って、どうしたんだ? ミザリー」
私が黙ってしまったからか、ラウルが窺うようにこちらを見てくる。私は満面の笑顔で、にやけるのを止められない。
「すっごく美味しい! 砂糖の甘さだけじゃなくて、花を入れたのもよかったと思う。見た目も可愛いし、最高……!!」
「なんだよ、驚かせて! 俺も――甘くてうまっ!」
「ん~、これは確かに美味しいわね」
ラウルとフィフィアも気に入ったのか、にこにこ笑顔で食べてくれている。上手に作れてよかった。ほっ。
『にゃう……』
「あ……」
一人もらえないおはぎが、切なそうな声をあげた。
「ごめんね、おはぎ。これは食べられないんだよ~」
申し訳なさで心が痛い。だけど猫のおはぎには、こんな砂糖ばかりつかった飴をあげるわけにはいかない。
こんなになんでも食べられるのは、人間だけなんだよ……食い意地の張っている種族でごめんね……。
すると、ラウルがふっふっふっと笑った。
「こんなことかもと思って、おはぎ用に冷蔵庫から鶏肉をひとかけ持ってきたぞ!」
「うわあああ、ナイスだよラウル! ありがとう」
『みゃあぁぁんっ!』
おはぎも嬉しかったようで、ラウルの持つ鶏肉に跳びかかった。
「うおっ! 落ち着け、おはぎ! 鶏肉は逃げないから!!」
「鶏肉を前にしたおはぎは無敵だからね」
襲いかかられているラウルを見て、私とフィフィアは一緒に笑う。おはぎの食欲は無限大だ……!
 





