新たな焚き火
無事にダンジョンから出た私たちは、迷宮都市に帰る途中で一泊することにした。いつも通りの車中泊だ。
とはいっても、ご飯はさっき食べたのでお腹はあまり空いていない。
「あ、そうだ。せっかくだからお菓子っぽいものを作ろうかな?」
私は一人キャンピングカーの外に出て、ぐぐ~っと伸びをする。日はすっかり落ちて、もう夜だ。
「これは焚き火タイムでもあるんじゃない……!?」
にやりとして、さて今日はどんな焚き火にしようかな? 購入した焚き火台を使うのもいいけど、ここなら直に焚き火をすることもできる。
ん~、考えただけでも楽しそうだね。
すると、私の視界にとあるものが入った。
あれを使えば、新しい焚き火を試すことができるのでは? と、ワクワクした気持ちになる。以前、動画で見ていてやってみたいと思っていたものだ。
「この丸太……!」
私は落ちていた丸太を手にし、軽く叩いてみる。軽い音がして、よく乾燥していることがわかる。燃やすのに持ってこいだろう。
キャンピングカーの近くまで転がしてきて、やり方を思い出していく。
「確か丸太に穴を空けて、そこに火をつけて燃やす……んだよね?」
丸太の上で料理ができる、自立型の焚き火ができるというわけだ。丸太の焚き火なんて、想像しただけでテンションが上がる。
しかしそこではたとする。
「…………どうやって穴を空けたらいいんだろう?」
これは盲点だった。
動画では、何かしらの道具を使ってあけていた。それか、丸太の上部を切り取ってくぼみを作っていたものもあった。
「うーん……」
私が悩んでいると、「どうしたの?」とフィフィアがキャンピングカーから下りてきた。
「実は焚火をしようと思ったんだけど、うまくできなくて」
「……それを薪にするには、ちょっと大きすぎるんじゃない?」
「あ、いや、そうじゃなくて!!」
どんな焚き火にしたいのかを、必死にフィフィアに説明する。すると、「そういうことね」とわかってくれた。
「薪を使って普通に焚き火をした方が楽なのに、ミザリーは不思議なことをするのね」
「あはは……」
この世界では、焚き火にこだわる人は少数派のようだ。
わかってはいたけど、ちょっと残念ではあるね。
「でも、穴を空けるのはできると思うわ」
「本当!? お願いします……!!」
「任せて」
フィフィアは丸太の前でしゃがみ、手をかざした。すると、フィフィアのポニーテールが風にゆれて舞い上がる。
「――風よ!」
瞬間、突風のようなゴオオッという音がして、丸太の中が風の力で一気に削られていった。削られた木くずが、宙を舞う。
「すっご!」
私はただただ驚いてばかりで、魔法を使ってる姿に見惚れてしまった。
「こんな感じかしら?」
「――あ! そう、こんな感じ。ありがとう、フィフィア!」
「どういたしまして」
丸太には、中央と側面に穴が開いている。中央の穴が一回り大きくて、そこから火をつける仕組みになっている。
満足げにしている私の横で、フィフィアは不思議そうだ。
「でも、これが焚き火になるの?」
「なる! ……はず」
「はずなの?」
「私も初めてなんだよ。人がやってるのを見たことはあるから、やり方はなんとなくわかるんだけど……」
何せ見たのが現代の動画なので、便利な道具うんぬんのところで大きな差が出ているに違いない。だからちゃんとできるか不安なのだ。
「誰だって初めてはあるものね。とりあえず、やってみましょう」
「うん」
丸太を削った木くずがちょうどよさそうなので、丸太の中に詰める。その上に細い木の枝をいくつか乗せれば、焚き火の形になった。
あとは、上手く火がつけば完成だ……!
私は用意してた二つの着火石を手にして、それをぶつける。こうすると火花を散らして、火をつけることができる……という魔導具だ。
すると、すぐ木くずに火がついてぼおっと燃えた。
「やった、成功だ!」
「思ってたよりもいい感じじゃない!」
しかし見ていると、あっという間に燃え尽きて火が消えてしまった。
「あああぁ、あ、ああ~~~~っ」
「うーん、ここで燃やし続けるのは結構大変そうね」
「そんな……」
動画ではあんなに上手くいっていたのにと、もう一度よく思い出して……ハッとする。
そういえば、動画は小さな燃料を使ってた!!
丸太を焚き火にしているくせに、科学の力を使っていたとはなんたることか。そんなの、燃料を持っていない私ではどうしようもない。
私があからさまにしょんぼりしてしまったからか、フィフィアが「大丈夫よ!」と元気づけてくれる。
「ミザリーはそこまで焚き火が好きだったのね。代わりになるかわからないけど、こういうのはどうかしら?」
そう言うと、フィフィアが小さな石を取り出した。キラキラ光っていて、石の中でコポコポ水の泡が発生している。
魔導具のようだけれど、加工しているようには見えない。
「これはね、エルフの村で作っているものなの。これをここに入れて……っと」
フィフィアが丸太の穴に石を入れ、手をかざした。
「火の精霊サラマンダーよ、この精霊石を捧げます」
「え?」
すると、ボッと勢いよく石――精霊石が燃え始めた。
「え、え、え? サラマンダー? どういうこと!?」
目の前で起こったことに、私は驚くばかりだ。
「エルフは昔、精霊と交流があった……と言われているの。今は会うようなことはないし、その話が事実だったかはわからないけど……こうして石という形で力を借りることができるの」
「すごい……!」
だから精霊のダンジョンを攻略してるのもあるのかな? と考え、私も精霊に会ってみたいという気持ちが大きくなった。




