新しい部屋
は~~、やってしまった。
私はお風呂に慣れていたけれど、フィフィアはあまり慣れていなかったからかのぼせてしまった。
冷蔵庫で冷やしたお水を飲ませ、うちわ……はなかったので、タオルであおいであげる。
私の部屋はベッドがないので、前に購入した布団を敷いてそこに寝転んでいる。迷宮都市に戻ったら、ベッドフレームなども購入予定だ。
「ごめんね、フィフィア……。私がもっと気をつければよかった」
「いや、ミザリーのせいじゃない。私も話し込んでしまったし、久しぶりのお風呂が気持ちよかったから」
「フィフィア……」
逆に気遣われてしまった。
「でも、フィフィアはお風呂が初めてじゃなかったんだね。なら、あんなに驚かなくてもよかったのに」
「あれを一般的なお風呂と一緒にしないで」
「……ハイ」
一蹴されてしまったでござる。
今はラウルがお風呂に入ってるんだけど、のぼせたフィフィアを心配しつつも「そんなに恐ろしいものなのか……」と震えていた。
「私は少し横になってれば大丈夫だから、ミザリーも食事をしてきて?」
「でも……」
さすがに心配なので、もうしばらくついていようと思ったのだけど……何度も「大丈夫!」と言われてしまう。
「あと、たぶん疲れも溜まってたんだと思う。少し寝てもいいかしら」
「もちろん」
ダンジョンからの帰り道、しかも空腹で倒れていたのだから、体は疲れがたまっているに決まっている。
……もっと早く休んでもらえばよかった!!
「寝るなら一人の方が気楽だね。じゃあ、私は向こうにいるから……何かあれば遠慮なく呼んでね?」
「ええ。ありがとう」
念のため冷たいお水を追加してから、私は部屋を後にした。
「さて、ラウルがお風呂を堪能してる間にご飯にしますか」
私たちがお風呂に入っている間に、ラウルが用意してくれていたものをテーブルに運ぶ。鶏肉と野菜のサンドイッチに、豆類がたくさん入ったスープ。
おはぎの分は愛用のお皿に入れてあげて、いただきます。
「ん~、美味しい!」
『にゃうにゃうっ!』
たまらなく美味しいようで、おはぎのおしゃべりも止まらない。
あっという間に平らげて、私は「よしっ!」と気合を入れる。というのも、今のうちに少しは走らせてしまおうと思うのだ。
ここは三階に続く階段があるので、いつほかの人が戻ってくるかわからない。それならば、少し移動した方がいいと考えたのだ。
居住スペースに誰かがいても問題なく運転できるというのは、ありがたいね。
……大丈夫、いつも以上に安全運転を心がけますから!!
***
インパネから《ピロン♪》と音が鳴り、レベルアップを知らせたのは二層の入口に戻ってきたあたりだった。
「うわ、もうレベル上がったんだ!」
私はさっそくインパネでレベルアップの内容を確認する。
《レベルアップしました! 現在レベル13》
レベル13 ウォークインクローゼット設置
「……まさかここにきて収納!!」
ウォークインクローゼットは、主に衣類を収納するための部屋だ。大きさは一畳~三畳くらいが一般的だろうか。
……どこかに部屋が足された感じなのかな?
私がそわそわしていると、「ドアが増えたー!!」と叫ぶラウルの声が聞こえてきた。どうやら一室増えたみたいだ。
急いで広場まで走らせ、キャンピングカーを停めて居住スペースに。ラウルの声で起きたのか、フィフィアも一緒だ。
「あ、ミザリー! なんかドアが増えたぞ!?」
「どういうこと?」
『にゃにゃっ』
驚くラウルとフィフィアの横を通って、おはぎが私の肩にぴょんと飛び乗ってきた。頭を撫でてあげつつ、私は「レベルアップしたんだ」と告げる。
「あ、ちょっと揺れると思ったら運転してたのか」
「スキルレベルが上がったのね? おめでとう」
「ありがとう」
一声かけれたらよかったんだけど、フィフィアは寝てしまったし、ラウルはお風呂だったからね。
私がそう説明すると、二人は「なるほど」と頷いた。
「どこまで戻ってきたんだ?」
「今、ちょうど二層の入口手前だよ」
「なるほど」
ラウルに現在地を説明すると、横で聞いていたフィフィアがあまりの速さに驚いている。
「とりあえず、まずはこの部屋を見ていい? ウォークインクローゼットになってるはずなんだよね」
「「うぉーくいんくろーぜっと?」」
聞き覚えのないらしい単語に、ラウルとフィフィアが首を傾げた。衣類を収納する部屋という説明すると、フィフィアはすぐ「衣装室ね」と納得してくれたが……ラウルはぽかんとしている。
わかる、庶民にはなかなか縁のない部屋だよね。特に独りだと……。
「ということで、新しい部屋のお披露目です。じゃ~ん!」
私もまだ中を見てはいないけど、盛大にドアを開けた。
「「おお~!」」
『にゃう~』
ラウル、おはぎ、フィフィアの声が揃ったのを聞いて、全員で中に入る。
ウォークインクローゼットは、二畳ほどの広さだった。
あまり広くはないけれど、棚が作りつけられていて、ハンガーパイプも設置されている。ありがたいことに、丈の長い衣類がかけられるスペースも用意してあった。
「ちょっと狭いけど、そもそも服をそんなに持ってないから十分かな……」
「俺も数着くらいしかないな」
「だよねぇ」
私も冒険時に着る服と、ちょっとしたお洒落着、あとはゆったりできるパジャマ兼部屋着があるくらいだ。
ダンジョンでいっぱい稼いだら、また新しい服を買おう!
「衣裳部屋までできるなんて、ミザリーのスキルは本当にすごいわ。もう、家を持ってダンジョン攻略するのと変わらないわ」
フィフィアがそう言うと、横でラウルが大きく頷く。
「もうキャンピングカーなしの生活なんて、想像できなくなり始めてるよ……」
「その気持ち、すごくわかるわ……」
元の生活に戻れって言われたら泣くかも……なんてラウルが言っている。あはは、大袈裟なんだから。
「いつまでだって、いてくれて大丈夫だよ」
私が笑いながらそう言えば、ラウルは「お、おう」と返事をした。
 





