お風呂タイム
さて、迷宮都市に戻る――その前にすることがあります。
「よし、お風呂に入ろう!!」
待ってましたお風呂の時間。
私のテンションが一気に上がると、フィフィアは頭の上でクエスチョンマークを浮かべた。
「だったら、その間に俺が飯を作っとくよ」
「え、いいの?」
「といっても、さっきと同じサンドイッチとスープだけど。あとはおはぎの鶏肉だな」
「十分だよ、ありがとう……!!」
ラウルに感謝!
あとは――と、私はフィフィアを見る。
「フィフィアも一緒に入りましょうか」
「……え?」
「ダンジョンは汗だくになるだろうし、お風呂に入りながら服も洗濯しちゃえばいいよ。替えがないなら、私の部屋着を貸してあげるから」
「ごゆっくり~」
ラウルに見送られながら、私はおはぎを肩に乗せたまま、フィフィアを引きずるようにしてお風呂に向かった。
「えええええ、何ここ!!」
私に服をはぎ取られるようにして浴室に入ったフィフィアが、驚きに目を見開いている。
「前に乗せてもらったときから思ってたけど、ミザリーのスキルは規格外すぎよ……」
「大当たりスキルだと思ってる」
『にゃう』
真面目な顔でそう言うと、「その通りよ」とフィフィアが笑った。
湯船につかる前に、トットの街で購入した石鹸を泡立てて体を洗っていく。運転ばかりで汗はそんなにかいていないけれど、やはり気持ちがいい。
フィフィアの背中を洗ってあげながら、髪の毛がとっても綺麗なことに気づく。サラサラで、とても戦っている女の髪には見えない。
どちらかというと、貴族の令嬢のようだ。
「フィフィアさんの髪、すごく綺麗ですね」
「――! ありがとう。その、フィフィアでいいわ。喋り方も、気にしないでくれると嬉しい」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えて。フィフィアの髪、サラサラで触り心地もいい!」
はしゃいでみせると、フィフィアは恥ずかしそうにしつつも嬉しそうだ。
私の髪は比較的クセが少ないので手入れはしやすいけれど、やっぱり貴族時代に比べたら痛んでしまった。
ボブにしたから、手入れはそんなに大変じゃないけど……。
洗い終わった背中を流して、おはぎの体をささっと洗い、私たちは念願の湯船につかった。
「んんん~、気持ちいい!」
「このまま寝てしまいたいくらい、気持ちいい……」
『にゃう~』
フィフィアの寝たい発言に「わかります」と頷いて、私は気になっていたことを聞いてみる。
「精霊のダンジョンはよく来てるの?」
「私はこのダンジョンを攻略したいと思ってるの。だから何度も潜ってるんだけど、まだまだ先が見えなくて……」
「かなり深いの?」
私の問いに、フィフィアが頷く。
「今は、五層くらいまで攻略したんだけど……その先が難しくて。六層に下りる階段前に広場があるから、このダンジョンを攻略してる人はそこをキャンプ地にしてるの」
「五層……!」
ここは二層なので、まだまだ先だ。
「人が少ないって聞いてたけど、結構人気なんだね」
「そうね。人が少ない分、真面目に攻略したいと思っている人がいる印象かしら」
「攻略、難しそうだね……」
「ミザリーたちも攻略を目指してるの?」
フィフィアの問いかけに、私は頷く。
「私たちは、エリクサーを探してるんだ。ここにあるかはわからないけど、私のスキルが目立っちゃうから……人の少なそうなダンジョンを選んだの」
「……確かにこのスキルは目立つね」
私たちがこのダンジョンを選んだ理由に、フィフィアがクスクス笑う。
「でも、確かにここならエリクサーがあるかも」
「本当!?」
「あ、でも……確証はないのよ? そうかも、っていうだけだから……」
それでも、ベテラン冒険者がそう言ってくれるのは期待が持てる。早くエリクサーを見つけて、ラウルの腕を治してあげたいからね。
「フィフィアはなんでこのダンジョンにしたの? 来るのが大変でしょう?」
「私はエルフでしょう? だから、精霊に会いたくてこのダンジョンを選んだの」
「えっ、精霊がいるの!?」
突然の精霊出現に、私は驚く。
するとフィフィアは「知らなかったの?」と逆に驚いた。
「精霊のダンジョン、っていう名前がついてるじゃない」
「だからって、精霊がいるとは思わなかったから……」
私が正直に思っていたことを告げると、フィフィアはダンジョンについての説明をしてくれた。
曰く、ダンジョンとは家。
ここが『精霊のダンジョン』だというのは、出現したときから決まっていた名前だそうだ。ダンジョンの前にある像と、彫られたダンジョンの名前はダンジョンと一緒に出現する。
そのため、ダンジョンの奥には精霊がいて、魔物がその精霊を守っている――そう考えられているのだという。
ダンジョンが攻略され、主――このダンジョンでいうと精霊が倒されてしまった場合、ダンジョンの名前がなくなるのだという。
……つまり、私が最初に入った洞窟ダンジョンがそれに該当するっていうことだね。
「なるほど、為になります……。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
でもそうか、精霊がいるのか。
会ってみたいと思いつつ、フィフィアですら難航しているダンジョン攻略なんてできるのだろうか……と思う。
「ちなみに、フィフィアは精霊に会ってどうするの?」
「私は……エルフの村に聖樹がほしいの。その苗がほしいって、お願いするつもりよ」
「聖樹を? すごい、聖樹の苗が貰えたらいいね。私も応援する!」
「ありがとう」
聖樹はこの世界のシンボルのようなもので、確かゲーム時代のお伽噺か何かで出てきたはずだ。
どんなものか詳細はわからないけれど、エルフの村ならピッタリ合うだろうと思う。
「だから私は、どうしてもこのダンジョンの攻略を――……」
「うんうん、って、フィフィア? ぎゃんっ! 顔真っ赤! のぼせたんだ!!」
『にゃうう』
私たちはお喋りに夢中になりすぎてしまったらしい。
慌ててふらつくフィフィアを支えてお風呂からあがり、私の部屋で休ませた。




