行き倒れの冒険者
せっかくならお風呂に入りたいところだが、さすがに通路に停めてお風呂タイム……というのは気持ち的に落ち着かないので、ひとまず広場を目指すことにした。
その広場でお風呂休憩をしてご飯を食べたら、引き返して迷宮都市に戻る……という計画だ。
「よっし、頑張って運転しますか!」
『にゃう!』
気合を入れるが、まずは道の確認だ。
カーナビ様がマッピングをしてくれているので、この先に広場があるかどうかもわかってしまうというわけだ。
私はインパネを指で操作して、この先の状況を確認していく。
「んー、十分くらい走れば広い場所に出そうだね。魔物に遭遇することを考えると、もう少しかかるかな?」
ちょこちょこ青丸があるので、経験値もおいしそうだ。
「了解! とはいえ、驚異的なスピードなんだからな? こんな楽なダンジョン攻略、無理だからな?」
「わかってるよ~!」
私はアクセルを踏んで、ブロロロロ……とキャンピングカーを走らせる。道が狭いので、運転もいつもより慎重だ。
途中でゴブリンたちをキャンピングカーで倒しつつインパネを確認していると、私は赤丸に気づいた。
「あれ? こんなの、さっきまではなかったのに……」
「どうした?」
「目指してる広場に人がいるみたい」
「あ、この赤丸か」
ラウルはうーんと首を傾げてすぐ、「あ!」とその原因に思い当たったようだ。
「ここの広場に、次の階層に行く階段があるんだ!」
「え? あ、なるほど~~!」
ここ、二階層は軽く確認して引き返そう……という話だった。
けれど、キャンピングカーで走れてしまったので、思った以上の速さで攻略してしまっていたらしい。嬉しい誤算だ。
「ということは、冒険者が休憩してるのかな?」
「その可能性は高いな。たぶん、帰る途中なんだろ」
「なるほど」
そうなると、この先にある広場はあきらめて引き返した方がいいだろうか?
このまま行くメリットは、冒険者に会ったら情報交換ができるかもしれないこと。私たちより先の階層にいたのだから、話を聞けるだけでも嬉しい。
ただ怖いのは、その冒険者がいい人とは限らないということだ。もし私たちを見つけてカツアゲをしてきたら……と、ラウルの元パーティメンバーのことを考えてしまう。
私がうう~んと唸りつつ悩んでいると、ラウルが「行ってみるか」と言った。
「どんな奴がいるかわからないけど、このダンジョンは街から遠いだろ? 攻略してる冒険者は、普段からここで活動してる可能性が高い。だから、顔を合わせておくのはいいと思うんだ」
「なるほど……!」
さっきからラウルの言葉になるほどしか出てこない。
「まあ、キャンピングカーを見せるかどうかは会ってから判断の方がいいと思うけどな」
「近くまで行ったら、徒歩にするのがよさそうだね」
「ああ」
ひとまずこのまま行くということになったので、私は広場の近くまでキャンピングカーを走らせた。
キャンピングカーをしまい、ラウルを先頭にダンジョン内を歩いていく。おはぎは私の肩に乗っている。
広場の手前に着いたら、まずはラウルが通路の壁に隠れつつ様子を見てくれた。
「ここのダンジョンでソロは結構珍しい……って、倒れてる!?」
「え!?」
ラウルが慌てて広場に入ったので、私も驚きつつそれに続く。もしかしたら、魔物にやられて逃げてきたのかもしれない。
そうか、ダンジョンだから逃げ帰ってくる人もいるんだ……!!
ポーションがあることを確認しつつ、急いで倒れている人のところへ行くと――見知った顔だった。
「ちょ、フィフィアさんだ!!」
「かなりの実力者だってのに……! でも、ぱっと見た感じ怪我はしてなさそうだぞ?」
どうして倒れて――そう思った瞬間、きゅるるるるる~とフィフィアのお腹が盛大な音を立てた。
***
「……ありがとうございます。まさか、ダンジョンでこんなに美味しいものを食べられるなんて」
目の前にいるフィフィアは、サンドイッチとスープをぺろりと平らげた。
彼女はフルリア村付近に出たリーフゴブリン討伐のとき、お世話になったソロの冒険者だ。
薄い水色のポニーテールで、凛々しい顔立ち。緑色の瞳はエルフの彼女と親和性が高いように思う。
小柄な彼女だけれど、冒険者として活躍している。
何度もお礼を告げるフィフィアに、私は「気にしないでください」と笑う。
「でも、怪我がなくてよかったです」
「とはいえ、食べ物が尽きてしまってはどうしようもないです……。料理が苦手なので、野宿するときの食料配分が上手くできなくて」
お恥ずかしいですと、フィフィアが手で顔を隠す。
それにフォローを入れてくれたのは、ラウルだ。
「ダンジョンに潜ったときの食料配分は、かなり難しいですよね。不測の事態にも備えなきゃいけないので、思うようにいかないことの方が多いです」
「そう言ってもらえると助かります」
苦笑するフィフィアに、私はそうだったと改めてフルリア村でのお礼を告げた。
「フルリア村のときはありがとうございました。その後、冒険者ギルドにも行きました」
「そうでしたか。よかったです」
ラウルの元パーティメンバーを冒険者ギルドに引き渡してくれたのが、フィフィアなのだ。私たちは元パーティメンバーの罰金を受け取ることができた。
暗い話題を続けるのもよくないと思い、私は今後のことをフィフィアに伝える。
「私たちはここで休憩したあと、迷宮都市に戻る予定なんです。よかったらこのまま乗っていきませんか?」
「え、いいんですか? 私は助かりますが……」
「もちろんです。ね、ラウル、おはぎ」
「ああ、問題ない」
『にゃう』
二人も快諾してくれた。
さすがに食料の尽きたフィフィアを置いていくわけにはいかないからね。私はほっと胸を撫で下ろした。




