爆走キャンピングカー
ガガガッと岩壁に車体を擦りつけて、私は「んあああぁぁ~っ!」と声を荒らげる。まだキャンピングカーを走らせて三分のできごとだ。
「まあ、狭いから仕方ないよ……」
「ううう……。傷はレベルアップしたら直るから、今はとにかく走ってダンジョンの道に慣れることにする……」
キャンピングカーにした結果、実はいいこともあった。
カーナビがあるので、なんとすでにマッピングができあがっている。しかも魔物はナビ上に青丸で表示されるので、どこに敵がいるのか一目でわかってしまう。
それから、自動でライトがついてくれるので明るい。光るキノコが生えているとはいえ、やはり人工的な明かりは強いね。
……キャンピングカー、ダンジョンとの相性よすぎでしょ!
「って、やばい! この先の緩やかなカーブを曲がったら、魔物がいる! 二匹も!!」
急いでキャンピングカーから降りて戦わなきゃ!
そう思ったのに、私のつたない運転技術のせいで……ドアのすぐ横が壁で開けることができない!!
「ぎゃーん! どうしよう、魔物がきちゃう!!」
プチパニックとはこのことか。
とりあえず少し進んで、壁とのゆとりをとろうと思いアクセルを踏む。すると、思いのほか踏み込んでしまい……ギュルルッとキャンピングカーが走り出す。
「わー、やばいやばい!!」
正面衝突!!
笑えない! どうにかしてブレーキを踏もうとしたのだが、私はフロントガラス越しのゴブリンと目が合ってしまった――。
ゴン! という音と共に、ゴブリンが光の粒子になって消えた。
「――え? もしかして倒した?」
倒したというか轢き殺してしまった……?
ドクドクと心臓が嫌な音を立てる私の横で、ラウルの「すごいなぁ~」という呑気な声が聞こえてきた。
「生活もできて魔物も倒せるスキルなんて、そうそうないんだぞ? このまま魔物を倒して進んでいけるなら、ダンジョン攻略もすごいスピードで進みそうだな」
「え、あ……そうか、そうだね」
私はラウルの言葉にうんうんと何度も頷く。
何かを轢き殺した、という感覚が強かったけれど、実際には『スキルで魔物を倒した』ということになるんだ。
この世界に自動車がないことも理由の一つかもしれないけど……私の心はなんだかすっきりして、ストンと心に落ち着いた気がした。
「じゃあ、このまま少し走ってみようか」
「賛成!」
『にゃ!』
ラウルとおはぎの元気よい返事を聞き、私は再びキャンピングカーを走らせた。
ガン! ゴン! ドン! ――と、出会う魔物たちを轢きながら進んでいく。時折ガガガガと車体を壁で擦る音もするけれど、最初のころに比べたらかなり減った。
「今度はウルフとゴブリンが一匹ずつだ」
「オッケ!」
私はぐっとアクセルを踏んで、勢いよく魔物にぶつかる。
というのも、のろのろ走るとダメージが低いので、魔物を倒せないことがあるのだ。そのため、魔物を見つけたら勢いよくアタック! が合言葉だ。
――しかし、大きな問題があった。
「んあああっ、ドロップアイテム!!」
そう、魔物を倒したのにドロップアイテムを拾えないのだ。
厳密にいえば拾えないわけではない。キャンピングカーから一度降りて拾えばいいのだ。が、それはものすごい手間なわけで……。
そのため、ドロップアイテムは魔物の数が多いとき、もしくはレアアイテムが出たときに拾うことにした。
金銭面を考えるとドロップアイテムは大事だが、それより数をこなして討伐報酬をもらった方がおいしいという結論になったからだ。
……そうだとわかっていても、やっぱりドロップアイテムは惜しいけどね。
私がドロップアイテムを得られないことへの悔しい叫びをしていると、インパネから《ピロン♪》と音が鳴った。
「え、もうレベルアップ!?」
「今回は早いな」
『にゃあっ』
最初のころに比べるとレベルアップのタイミングがゆっくりになってきていたのに、ここにきてまさかのレベルアップ。
私が不思議に思っていると、ラウルが「あ!」と声をあげた。
「もしかして、魔物を倒したからじゃないか?」
「え? あ、そうか……。キャンピングカーで倒した魔物の経験値が入ってるんだ!」
それならキャンピングカーのレベルが上がったのも納得だ。
「今度はどんな性能がついたんだ?」
「見てみるね」
《レベルアップしました! 現在レベル12》
レベル12 お風呂設置
「は、はわわわわっ」
衝撃の進化を遂げていたので、思わず変な声が出てしまった。
「やばい、やばいよラウル! お風呂が実装されてしまったよ!!」
「風呂ってあれだろ、貴族の屋敷とかにしかないやつだろ? そんなすげえもんが……」
『にゃう?』
ラウルはあまりのことに震えているし、おはぎはよくわかっていないみたいだ。
「すぐに見に行きたい!」
「行きたい! けど、さすがにここに停めておくのは……まあ、ほかの冒険者もいないし、いいか」
「やった!」
通路のど真ん中に停めて、私たちは居住スペースへ移動した。
見る場所は、もちろんシャワー室だ。
のれんと引き戸、脱衣所に変化はない。ここも広くなって、化粧台のようなものが設置されたらよかったのだけど……まあ、我儘は言いません。
「いくよ……ラウル、おはぎ」
「おう……!」
『にゃうっ』
私はドキドキしながら、浴室のドアを開けた。
今まではシャワーしかなかったけれど――あああっ、お風呂が! あるっ!!
「やったー! お風呂だー!!」
私、大歓喜!!
設置されたお風呂は、いたって普通のお風呂だった。賃貸についているような小さなものだけれど、シャワーのみだった私からすれば十分。
浴室内は明るい色合いで統一されていて、シャワーはもちろんだけど、鏡もついている。そして壁にはリモコンがついていて、自動でお湯張りw
「浴槽はそんなに広くないけど、座れば足がのばせるかな?」
テレビ番組よろしく、浴槽に入って足をのばしてみた。うん、つま先が触れるか触れないかくらいなので、私にはちょうどいいね。
……ラウルにはちょっと狭いかもしれない。
「これ、どうやって使うんだ……?」
すごいのはわかるけれど、ラウルには使い方がさっぱりわからないようだ。そうだよね、日本仕様になってるもんね。
これは実践してみるのがいいかも。
私はリモコンパネルの操作をラウルに説明する。
「ここの『自動』っていうのを押すと、お風呂にお湯を張ってくれるの。お風呂を出たときは、浴槽にあるここを押すとお湯を抜いてくれて……最後にリモコンの『換気』ボタンを押してね」
「ボタンを押せばいいのか。それなら俺にもできそうだ!」
「うん。あ、自動ボタンでお湯を張る前に、ここで栓を閉めるのも忘れないでね」
たぶん、栓の閉め忘れでお湯が溜まってなかった経験は誰しも一度くらいあるはずだ。
「わかった!」
ラウルがぱあっと笑顔になったので、私も笑顔になる。
ほかにも湯量や温度の設定があるけれど、これは標準のままで問題ないだろう。冬になったら、温度を少し上げてもいいかもしれないね。
「じゃあ、ちょっとやってみよう! ラウル、お風呂を入れてみて」
「え、俺が? ……わかった。ミザリーは操作できるから、できない俺がやって覚えた方がいいもんな」
ラウルは真剣な顔で頷いて、お湯を張るために自動ボタンを押した。すると、ブシュッと勢いよくお湯が出てきた。
「うわっ、すげえ!! え、これお湯なのか? 魔導具……? 魔導具にしても、すごい性能だろ……」
感心したのか感動したのか、ラウルはお湯が出てくる様子をじ~っと眺めている。「すごいなぁ」なんて呟きながらみていて、楽しそうだ。
……なんだか、私が焚き火を見てるときに似てるね。




