ダンジョンの中のキャンピングカー事情
私たちがダンジョンに入ってから、三日が経った。
作戦は上手く行き、前衛ラウル、中衛私という役割で順調に進んでいる。
「ラウル、階段! 階段があるよ!!」
見つけたのは、二層に進む階段だ。
岩が階段になっていて、下りられるようになっている。
「お~、やっとか!」
「この先は、もっと強い魔物が増えてくるんだよね?」
私の問いかけに、ラウルは頷く。
「強くなるのもそうだけど、数が増える。ここで言うと、一層は単体で出てくるゴブリンがほとんどだったろ? でも、階層を増すごとに増えてくるんだ。同じ魔物でも、難易度が桁違いに上がることもある」
「……っ」
ラウルの話を聞いて、私はごくりと唾を飲む。
以前倒した魔物だからといって、油断したらこちらがやられてしまう。個の力よりも、数が圧倒することは少なくない。
より一層注意していかなきゃ。
そしておはぎのことも守ってみせる!!
「――で、ここからは相談だ」
「ん?」
「一度、迷宮都市に戻るか、このまま次の階層に進んでいくかだ」
「あ、そうか……。私たちが受けた討伐依頼はゴブリンとウルフだから、依頼は達成してるんだ」
私のような駆け出しの冒険者は、普通は日帰りで行ける狩場やダンジョンに行く。今回は人の少ないこのダンジョンに来たけれど、戻るタイミングとしては適正なのだろう。
が、私はうう~んと悩む。
「ぶっちゃけ、休憩と就寝時はキャンピングカーだから……あまり苦ではないというか、なんというか」
「それはそう……!! こんな快適な野宿する冒険者、いないから。というか、シャワーとかいう謎のすごいものがある時点で、そこら辺の宿に泊まる何倍、いや……何十倍も快適なんだよ!!」
「あ、ありがと」
ラウルに力説されてしまった。
服もシャワーのときに洗って、寝るとき室内に干しているから不衛生にもならない。綺麗な水を確保できるということも、大事なことだ。
そもそも簡易キッチンがある時点で最高です。
「となると、気になるのは食料かな?」
「だな。一応、干し肉とかは多めに買ってあるからいいとして……問題はおはぎ用の肉だな」
「おはぎに塩分は敵だからね」
なので、干し肉など濃い味付けのものをおはぎにあげることはできない。
「なんか狩りでもできればよかったんだけど、ここは何もないからな」
「ゴブリンとウルフだもんね」
食用ではない。
「おはぎのこと考えると、食料はあと二日ってところかな。冷蔵庫があっても、そんなに長くお肉が持つわけじゃないから……」
「んー、それなら少し二層を見て引き返すか?」
「あ、それいいね!」
せっかく二層の階段まで来たのに、このままバイバイでは寂しすぎる。私たちは少しだけ二層を覗いて、一度迷宮都市に戻ることにした。
「足元、気をつけろよ」
「うん」
洞窟の階段を下りて、私たちは二層にやってきた。
『にゃにゃっ!』
「わっ、二層は一層よりも広いねぇ……!」
おはぎがはしゃいでいるので、勝手にどこか行かないように抱きあげる。勝手に走っていってゴブリンの餌食にでもなったら大変だ。
すると、ラウルが通路の中心で両手を広げたりし始めた。
「何してるの?」
「いや、結構広いから……もしかしたら、キャンピングカーが走れるんじゃないかと思って」
「――!!」
確かに通路の道幅は広くなっているので、通れそうな雰囲気を感じる。が、結構ギリギリだし、洞窟なので壁面に大きな岩などがあると厳しそうだ。
でも、キャンピングカーで走れるのはありがたいね。
ラウルが私を見て、「出してみるか?」と言う。
「……そうだね、出してみないとわからないしやってみようか。キャンピングカー召喚!」
私がスキルを使うと、目の前にドン! と圧迫感満載でキャンピングカーが現れた。ありがたいことに、キャンピングカーは進行方向を向いて出てくれている。
「どれどれ……」
キャンピングカーの周りをぐるっと回り、サイズ感を見てみる。
「左右ともに、人間一人なら問題なく通ることができそうだね」
「これならキャンピングカーを走らせれそうだな」
「……うん!」
私の運転技術でこの狭い道を? 異世界の大草原ばかり走っていた私が、日本のような狭い道を走れるのか……? と思ったが、ぶつけたとしてもレベルが上がれば綺麗になるので気にせず笑顔で返事をした。
大丈夫、乗ってる間に上手くなるから!
「じゃあ……ちょっと走ってみようか」
そう言って、私たちはキャンピングカーに乗り込んだ。




