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精霊のダンジョン

 レベルアップしたキャンピングカーをご機嫌で走らせていると、助手席のラウルが「見えたぞ!」と声をあげた。

 ラウルの膝で昼寝をしていたおはぎは、驚いたのか『にゃっ!?』と声をあげた。


「あれが精霊のダンジョン?」

「ああ!」


 精霊のダンジョンは、山を少し登ったところにあった。

 沢沿いにキャンピングカーを走らせていき、ちょうど小さな滝がある横に入口がある。洞窟のような雰囲気だけれど、精霊の像があるのですぐにわかった。

 ダンジョンの前には誰もいないけれど、焚き火の跡があったので、多少は人の出入りもあるみたいだ。


 キャンピングカーから下りて、私はまじまじと精霊の像を見る。像の台座部分に、『精霊のダンジョン』と書かれている。


 そして中はというと、さすがにキャンピングカーで走るには道幅が狭い。うーん、やっぱりダンジョンでキャンピングカーは難しいかもしれないね。


『にゃうにゃうっ』

「どうしたの? おはぎ」


 おはぎが何か見つけたみたいで、洞窟に入っていく。


「ちょ、待っておはぎ!」


 ダンジョンなんだよ、そんな簡単に入らないで……!!

 私が慌てて追いかけると、おはぎは光るキノコの匂いをかいでいた。わあ、ファンタジーキノコだ。


 すぐにやってきたラウルが説明してくれる。


「それは光キノコだ。光ってるから、こういう場所では重宝するんだ。ちなみに食べても味はしない」

「食べたんだ……」


 洞窟内があまり暗くないのは、このキノコがあるおかげみたいだ。


「とりあえず、まずは一層を探索してみるか」

「……うん!」


 私はラウルの言葉に頷いて、短剣を握りしめた。



 ここ、精霊のダンジョンは五層まで確認がされているそうだ。六層以降もあるらしいのだが、その情報は公になっていない。

 ……攻略してる人からすれば、情報共有したらライバルが増えちゃうわけだもんね。


 とはいえ、私たちだって最下層を目指している。最下層、もしくはダンジョン攻略時に得られるかもしれないエリクサーが目当てだ。


「頑張ろう……って、スライム!」

「ミザリーなら、もう余裕だろ?」

「もちろん!」


 洞窟の中をぴょこぴょこ歩いてきたスライムをあっさり倒して、よしよしと思ったら……岩の陰からゴブリンが出てきた。


「ひょっ!」


 思わず変な声が出た。

 ゴブリンの背丈は私の膝くらいで、緑色の肌に、薄汚れた布を巻いている。手には武器代わりの木の棒を持っている。

 漫画やゲームで見るゴブリンはデフォルメしたりして可愛く描いてあることが多いけど、現実のゴブリンはまったくそんなことはない。


 ……というか、臭い。


 ゴブリンの上位に位置するリーフゴブリンは倒したことがあるけれど、あれはキャンピングカーで体当たりしたようなものだ。


「ゴブリンか。多分ミザリーも倒せると思うけど――」

「お手本をお願いします!!」

「わかった!」


 私が頼むと、ラウルはすぐに前に出た。ゴブリンの『ギャギャッ』という鳴き声に、ゾゾッとしたものが背中を走る。


「頑張って、ラウル!!」

『にゃっ!』


 おはぎと一緒にラウルの応援だ。

 しかしラウルは余裕の表情で、軽く地面を蹴って加速する。そのまま剣を横に振って、ゴブリンの体を真っ二つにしてしまった。


「……っ、つよ!!」


 ラウルの剣捌きに驚きつつ、私にゴブリンは早いのでは……と嫌な汗が流れる。


「ゴブリンは数が多いと厄介だけど、単体ならそんなに脅威じゃないんだ。ミザリーも、気楽に考えていけばいいよ」

「とはいえ人型だし、多少は怖いよ」


 私が苦笑しつつそう言うと、ラウルは「それもそうか」と納得したようだ。


「だったら、俺が前衛になる。ミザリーは後ろから、いけそうなタイミングのときだけ一撃入れるんだ。それならどうだ?」

「それなら……いけそうかも」


 最初から一対一では確かに難しいかもしれないけれど、ラウルのサポートがあれば状況は変わる。私でもできそうだと、希望が見えてきた。

 すると、おはぎがちょいちょいと私の足を触った。


『にゃにゃっ?』

「もしかして、おはぎも戦おうとしてる……!?」


 スライムは確かに一撃だったけど、さすがに――


「さすがにゴブリンは無理だろ~。おはぎはスライムが出てきたときに頼むな。スライム隊長だ!」

『にゃ!』


 おはぎがスライム係りに任命されてしまった。

 なんというか、パーティらしくなったと思う。私とラウルがゴブリン担当で、おはぎがスライム。

 ……うん、いい感じかも!




 それからしばらくダンジョンの中を進み、魔物を倒す。

 スライムとゴブリン、それからウルフが出てきた。ウルフは名前の通り狼の魔物で、素早い。そのため、私ではなくラウル担当になった。

 初心者の私がウルフのスピードについていくのは無理だったよ。


「少し休憩するか?」

「うん!」

『にゃ~』


 広い場所に出たので、休憩することにした。

 バスケットコートくらいの広さがあるので、キャンピングカーを出すこともできそうだ。こういう場所が何か所かあれば、休みやすくてありがたい。


 ラウルが広場を見て回り、危険がないか確認してくれる。


「休んでも大丈夫そうだ。ほかの冒険者も、近くにはいないみたいだ」

「わかった。キャンピングカー〈キャブコンバージョン〉召喚!!」


 私がスキルを使うと、マイキャンピングカーが現れた。

 ソファに座って休んで、お菓子か何かをつまみたい。あとトイレにも行きたい。ダンジョンでトイレを召喚できるって最高か。


「あー、そうか。これくらいの広さがあれば、スキルでキャンピングカーを出せるのか」


 感心した様子のラウルに、私は頷く。


「石や地面に座るより、中で休んだ方が疲れも取れていいでしょ?」

「そうだな」


 キャンピングカーに入って手を洗い、私はさてどうしようかと考える。

 時間を見たら、もう夕方だった。

 自分で考えていた以上に時間が経っていたらしい。今日はもう、ここで野宿するのがいいのでは? と考える。


 すると、ぐうぅ~とラウルのお腹が鳴った。


「あ……」

「私もお腹空いたよ~」


 恥ずかしがるラウルに笑いながら、自分もと告げる。


「もう夕飯にして、今日はここで休む?」

「だな。そうしよう」


 ということで、今日の冒険はここまでとなった。

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