なんちゃってマヨコーンダッチパン
街で買い物をして一泊――ではなく、私たちはいつも通りキャンピングカーでの車中泊だ。宿代の節約ともいいます。
迷宮都市から数時間走った辺りで休むことにした。
ラウルとおはぎは周辺の魔物を狩りに行っているので、今は私一人。ドロップアイテムの食料狙いと、ここで過ごすので防犯対策をしてくれているのだ。
「今日は時間があるし、せっかくだから焚火台を使ってみよう!」
ふんふん鼻歌を口ずさみながら、キャンピングカーから焚き火台を降ろす。
浅型の焚き火台は、上のお皿の部分と、足の部分が取り外した状態になっている。持ち運びやすく、冒険者は重宝するのだろう。
ささっと組み立てて、私はお皿の部分に薪を乗せてみるが……バランスが難しい。
「ん~~~~。今日はこの上で料理をしたいから、フライパンを置いたときにぐらつかない方がいいんだよねぇ……」
薪は綺麗に並べた方がいいかもしれない。数も、大きいのは四本くらいで……その隙間に枝などをくべるのがいいかもしれない。
……手間はかかるけど、こまめに枝や小さな薪を追加していって、水平を保つしかないね。
もうお手の物になったフェザースティックも一緒に入れて、ささっと火を熾す。うん、バッチリだね!
「今日は、パンの気分~♪」
なんてリズミカルに言ってみるけれど、毎日パンだ。元日本人としては、いつかお米も食べたいけれど……パンだっていろいろ工夫すれば美味しくなるから大丈夫。
街で買ってきた小麦粉などの材料を混ぜ合わせて、パン生地を作る。それをしばらく寝かせている間に、キャンピングカーのキッチンでおはぎのご飯を用意する。
いつも通り鶏肉なんだけど、今日は魚の切り身が手に入ったので、それを軽く焼いて混ぜ合わせる予定だ。
それと一緒に、パンの具材として使うトウモロコシも茹でておく。本当は蒸せたらいいんだろうけど、それはちょっと難しいので……。
キャンピングカーさん、ぜひ電子レンジも実装してください。なんて、心の中でお願いをしておく。
「あ~でも、焼きとうもろこしもいいよねぇ。でも醤油がないんだよね。バター醤油という最高に美味しいものが作れないなんて……」
がっかりだよ。
鶏肉を低温調理している間に、私はパンに戻る。
フライパンにバターを溶かして馴染ませ、縁に沿って丸めた生地を並べていく。そして真ん中の空いている部分に、先ほどのとうもろこしを使うのだ。
「問題はマヨネーズだ……」
作り方は知っているけれど、上手くできるかはわからない。なんちゃってマヨネーズになったとしても、まあやむなしだ。
卵の黄身、酢、塩、植物油を混ぜるだけなのだが、これがなかなか難しい。植物油を少しずつ、様子を見ながら入れてかき混ぜていく。
「でも、マヨネーズがあれば料理の幅がぐっと広がるよね」
今はパンの分しか作っていないけれど、作り置きをしてもいいかもしれない。そうすれば、野菜にだって使えるし、ポテトサラダだって美味しく作れるだろう。
ん~、夢が膨らむね。
そんなことを考えながら混ぜていたら、マヨネーズが完成した。
「おおっ、さすが私!」
ぺろりと味見してみると、なかなかいい味だ。
私はよしっと頷いて、そこに少量の砂糖とクリームチーズを混ぜ合わせる。ある程度混ざったら、粒にしたとうもろこしを投入して混ぜていく。そして混ぜ終わったら、それをパンの真ん中に入れて……さらにチーズを振りかける。
「これは……まだ焼いてないのに、ものすごいものができるのがわかる……!!」
なんちゃってダッチオーブン風にして、フライパンで焼くパンだ。ダッチオーブンを使ったレシピはいくつか動画でみたので、いろいろ作ってみたいものが多い。
フライパンに鉄の蓋を乗せて、あとは焼くだけ! というところでハッとする。
「火力って強くしない方がよかった気がする……! うーん、鍋用の台が直火じゃないところにある焚き火台だったらなぁ……」
おそらく、そんな便利な焚き火台は現代にしか売ってないだろう。
私はどうしようか考えて、炭になっているものだけを使うことにして、焚き火は新しく横に作ることにした。
焚き火はいくつあってもいいものだからね!
「うわっ、いい匂い……!」
『にゃう~』
しばらくすると、ラウルとおはぎが戻ってきた。手にはいくつかドロップアイテムを持っているので、狩は上手くいったみたいだ。
「おかえり!」
「ただいま」
『にゃうっ』
ラウルとおはぎには手を洗ってくるように伝えて、私はその間に、作っておいた料理をお皿に移す。
パンを焼いている間に作ったのは、異世界アジのハーブ焼きだ。包み葉でくるんで、そっと焚き火の中にいれておくだけというお手軽料理。……に見えるけれど、地味に三枚に下ろしたりしてるよ!
付け合わせにインゲンとナスを焼いたので、野菜も摂れる。
「うん、我ながらいいでき!」
焚き火を使っての料理にも慣れてきたので、今後はもっといろいろな料理ができるようになるはずだ。
私の準備がちょうど終わると、手を洗いに行ったラウルとおはぎが戻ってきた。ラウルの手にはおはぎのお皿があるので、おはぎのご飯をよそってきてくれたみたいだ。
「おはぎのご飯、持ってきたけど大丈夫だったか?」
「うん! ありがとう」
『にゃっにゃっ!』
おはぎは尻尾を小刻みに揺れ動かして、早く早くとラウルを急かしている。狩りの後のご飯は格別だからね。
「「いただきますっ!」」
『にゃっ!』
おはぎが一目散に食べるのを見ながら、私はフライパンの蓋を開ける。実は先ほどから、とてつもなくいい匂いがしていたのだ……!
「なんだこれ、パン……か?」
「その名も、なんちゃってマヨコーンダッチパンです!!」
「だっち……?」
「あー、それはフライパンがそんな感じの鍋に似てたから、適当に付けただけなの」
なのでそんなに深く考えないでほしい。
私ははじっこのパンを一つちぎって、中央のマヨコーンをつけた。
「こうやって、真ん中のソースをつけながら食べるんだよ」
「へえぇ。でも、不思議な匂いだな。マヨコーン? っていうのも、初めて聞いたし」
ラウルは不思議そうにしつつも、大きな口でパンにかぶりついた。瞬間、「んっ!」と驚いた声をあげたので、思わず凝視する。
……もしかして、マヨネーズが口に合わなかったとか……?
この世界でマヨネーズを見たことがないので、きっと馴染のない調味料だということはわかる。
でもでも、マヨネーズは世界共通の愛すべき調味料だと私は思うよ!
ドキドキしながらラウルの感想を待っていると、目をぱちぱち瞬かせて私を見た。
「ミザリー、これ……」
「ど、どうかな……?」
「めちゃくちゃ美味い!! なんだこのソース、すっげぇ好き!!」
「嬉しい~~!!」
マヨネーズは、ラウルの心を鷲掴みにしてくれたようだ。不慣れながらに作ってみた私としては、にやにやが止まらない。
「中に入ってるのは……トウモロコシか? 歯ごたえがあるから、食感もいいな。しかもチーズも入ってるし……こんなの反則だろ」
どうやら全部好きらしい。
ラウルが夢中で食べ続けるのを見ながら、私もパンにかぶりつく。……うん、上手く焼けてて最高に美味しい!
パンを食べつつ、アジのハーブ焼きもいただく。
「……んっ! ハーブの風味が食欲をそそるし、生臭さとかもなくて美味しく食べられる!」
「野宿で魚を食べることなんてほぼないから、なんだか新鮮だなぁ」
ラウルは大きな口でかぶりついて、「美味いっ!」と笑顔で感想をくれる。作った甲斐があったというものだね。
すると、おはぎも『にゃっ!』と話しかけてきた。見るとお皿は空っぽになっていて、満足そうな顔をしている。
「美味しかった? おはぎ」
『にゃ~』
おはぎが私にすり寄ってきたので、美味しかったみたいだと頬が緩む。もしかしたら、すり寄ってきてるのはおかわりを要求してるのかもしれないけど……!
フライパンいっぱいにあったパンはあっという間になくなってしまい、食べすぎた私たちはしばらく焚き火の前でゴロゴロするのだった。




