迷宮都市
洞窟ダンジョンで数日の経験を積んで、私たちは迷宮都市へやってきた。
「うわっ、栄えてるね!」
「ここは隣国とも近いから人の出入りが多いし、何より冒険者が集まってくる」
「それは街を見ただけでわかる!」
『にゃ~』
迷宮都市はとても広い街で、私が生まれ育ったリシャール王国の王都と同じくらいの規模がある。
ダンジョンが近いこともあり、街の外壁はかなりの厚みがある。もし魔物が襲いかかってきても、ちょっとやそっとでは壊されないだろう。
街の中は賑わっていて、路面店や屋台が多い。買い食いをしている人も多く、自由な風潮なのが見てとれる。
街の中心に行くほど大きな屋敷があり、領主が住んでいるのだろう。外側は比較的安価な宿などが多いようだ。
「気楽に過ごせそうな街だね」
「道具屋が多いし、定食屋も安くて美味いんだ」
「それは期待しちゃうね」
街の中を少し歩いただけでも、いい匂いがただよってきた。
私の肩に乗っているおはぎも気になっているようで、キョロキョロ見回している。だけどその視線は、お肉の屋台に向いている……。
わかる、美味しいは正義だよね……!
「食材の買い出しもしなきゃ」
「これからダンジョンに行くことを考えると、保存食もほしいな」
ラウルの言葉に、私は力強く頷く。
洞窟ダンジョンのような初心者ダンジョンは日帰りでもいいけれど、私たちの目的エリクサーがあるようなダンジョンは階層が深い。そのため、ダンジョンの中で何日も過ごすことになる。
……キャンピングカーがあるから、かなり楽ができそうだね。
「買い物はひとまず置いといて、まずは依頼を確認しに冒険者ギルドに行くか」
「うん!」
冒険者ギルドは南門の近くにあった。
広い敷地面積で、三階建て。人の出入りが多くて、酒場も併設されているみたいだ。掲示板を見ると、依頼の数も多い。
私やラウルのように動きやすい服装の人もいるけれど、重厚なフルプレートを装備している人もいる。ガッシリした身体は、きっとダンジョンでも大活躍だろう。
「あ、ラウル! あっちに地図が貼ってあるよ」
「ん? ああ、あれはダンジョンの場所が描いてあるんだ」
「なるほど」
掲示板の横に貼られている地図は、中心にここ迷宮都市が描かれている。その周囲にあるダンジョンは、全部で五つだ。
街の一番近くにあるダンジョンは、駆け出しの冒険者が行くダンジョン。ゴブリンなど、比較的弱い魔物がいるらしい。
ほかにも、中級冒険者、ベテラン冒険者がいくダンジョンがある。
地図を見ながら、ふと……ダンジョン内をキャンピングカーで走ることはできるのか? という疑問が浮かぶ。
ダンジョンってことは、今までみたいに人がいない道を走るのは難しいかもしれない。そもそも、道幅がどれくらいあるかわからない。
洞窟ダンジョンは、そんなに広くなかったので徒歩で攻略していた。
「どうした? 考え事か? ミザリー」
『にゃう?』
「ダンジョンの中をキャンピングカーで走るのは無理かなって」
「あー……」
私の言葉に、ラウルは「確かに」と考え込む。
「……なら、人が少ないダンジョンに行ってみるのも手かもしれないな」
「そんなところがあるの?」
迷宮都市の近くにあるダンジョンなので、どこも混んでいるとばかり思っていた。
「まったくいないってわけにはいかないけど、街から離れたダンジョンなら人は少ないと思う。馬車で一日がかりとかだと、行くのも大変だろ?」
「一日かけて行って、すぐ戻るのはもったいないもんね。でも、私ならキャンピングカーがあるから、余裕をもって行動できる……」
「ああ」
ラウルが提案してくれたダンジョンは、街からかなり離れた場所にある精霊のダンジョンというところ。
低層の魔物はそこまで強くないけれど、奥に行くほど魔物が強くなっていて、踏破されていないダンジョンだという。そのため、攻略の際のお宝期待度も高い。
「うん、いいね! 精霊のダンジョンに行ってみよう!」
「決まりだな。精霊のダンジョンの依頼がいくつかあるから、それを受けて出かけよう」
『にゃっ!』
さっそく掲示板を確認すると、討伐依頼、内部の調査依頼の二つがメインになっていた。ほかには、採取などをしたい人が護衛を依頼したりしている。もしくは、足りないメンツを一回だけ募集などもあった。
なるほど、いろいろあるんだね。
「俺たちが受けるのは、討伐依頼だな。内部調査は、何かあったらあとから依頼を受けて報告すればいいんだ。今の俺たちじゃ、内部に目を配る余裕はないだろ?」
「それもそうだね。だけど討伐対象も、なかなかハード……ゴブリンとか、倒せるかな?」
精霊のダンジョンの討伐依頼は、ゴブリン、ウルフ、オークなど、私が戦ったことのない魔物が出てくる。
ラウルは「楽勝だよ」なんて言うけれど、私にはそうは思えないけど……ラウルの怪我を治すエリクサーを手に入れるために、頑張ろう。
「とりあえず、ウルフとゴブリンの討伐依頼を受けておくのはどうだ? この二匹は一層にいるから、ミザリーでも倒しやすいと思う」
「そうします!」
二層以降の魔物の討伐依頼に関しては、いけそうだったら次のときに受けることにして依頼の手続きを行った。




